漫才
舞台袖。
出囃子が鳴る。
♪テケテンテンテン テンテン♪
拍手の中、スーツ姿の二人が登場した。
ツッコミの高井。 ボケの森田。
高井「どうもお願いしまーす!」
森田「ありがとうございます〜。今、『この二人まだ解散してなかったんだ』って顔した人いましたね。」
「やめろ。開幕3秒で刺すな。」
「いやでも最近コンビ多いですからね。気づいたら解散してる。」
「地下アイドルみたいに言うな。」
「この前なんか久々に会った芸人が、『今エクササイズの講師やってる』って。」
「同じ芸人として負けた感じがするなぁ」
「しかも人気講師」
「完全に負けたなぁ」
(笑)
森田が急に真顔になる。
「ところで僕ね、最近ちょっと大人になりまして。」
「ほう。」
「怒らなくなったんですよ。」
「へぇ、前におまえ、牛丼つゆだくじゃなかっただけで店員に『俺の喉のコンディションどうしてくれんの?』って言ってたのに?」
「あぁ、あの頃は若かった。」
「先週だよ。」
「まぁそんなこともあったね。でも今は違います。」
「ホントに?。で、どう変わったの?」
「まず、道で肩をぶつけられても怒りません。」
「ほぉ〜、偉いね。」
「『あ、この人も人生あるんだな』って。」
「急に仏。」
「ただ、そのあとめちゃくちゃ舌打ちはします。」
「してんじゃねぇか。」
「チッチッチッチッチッチッチッチッ!!!!って。」
「圧が強!」
「でも心は穏やかです。」
「口が戦国時代なんよ。」
(笑)
高井が客席を見る。
高井「そういえばもう夏ですね。」
森田「夏といえば怖い話ですね。」
「何おまえ怖い話できんの?」
「ありますよ。実体験。」
「ほう。」
「夜中、家で一人だったんです。」
「うん。」
「そしたら急に後ろから『パキッ』って音がして。」
「怖っ。」
「振り返ったらね。」
「うん。」
「床に落ちてたプリッツ踏んでました。」
「しょうもな!!」
「しかもサラダ味。」
「味の情報いらんのよ。」
「でもね、そのあと本当に怖いことが起きた。」
「何?」
「誰も買ってないんですよ、プリッツ。」
「えっ!?怖っ!?」
「僕ポッキー派なんで。」
「そういう問題じゃねーだろ!!」
客席がどっと沸く。
森田が調子に乗る。
森田「あと怖いと言えば最近AIが怖かったですね。」
高井「なにぃ?急に現代的。それで?」
「うん。あれ、なんでもAIに仕事奪われるっていうじゃないですか。」
「まぁ言われてるね。」
「でも安心しました。」
「なんで?」
「AIには絶対おかんのLINEは再現できないからね。」
「どういうこと?」
「おかんは『今どこ?』だけしか送って来ない派だからら。」
「まぁ家族あるあるですな。」
「そんで俺が『仕事中』って返したらさ、」
「うん。」
「そう。」
「何?!」
「いや、『そう。』だけ返ってくるのよ。」
「冷た!」
「しかもそのあとスタンプ。」
「どんな?」
「泣いてるパンダ。」
「情緒が読めん!」
「何を訴えてんのか全く分からん。」
(笑い)
高井がため息をつく。
高井「お前って変なことばっか考えてるよな。」
森田「いや僕、普通ですよ。」
「どこがだよ。」
「この前だってコンビニで店員さんに『温めますか?』って聞かれて。」
「ほぅ。」
「『僕の心もですか?』って。」
「キモすぎるだろ!!」
「そしたら店員さん。」
「うん。」
「『そちらはセルフでお願いしまーす』って。」
「うまいな店員!!」
「負けました。」
「負けましたじゃねーよ!」
「普通に負けました。」
「普通じゃねーよ!」
森田、しみじみ。
森田「ところでさ…。」
高井「なに?まだ何かあるの?」
「接客って人間が出ますよねぇ。」
「そりゃ店員さんも人間なんだから当然でしょ。」
「昔コンビニで、『袋いりますか?』って聞かれてさ。」
「ほぅ。」
「『人生のですか?』って聞いちゃって…。」
「いや結婚式のスピーチじゃないんだから…。」
「そしたら『そちらは破れておりますので』って言われた。」
「誰がボロボロの人生だ…ってその店員さん絶対さっきの人だろ!」
大きな笑い。
高井はもうあきれ果てている。
高井「ダメだお前と話してると疲れる。」
森田「でも最近気づいたんですよ。」
「今度は何?」
「人間、疲れてる時ほど優しくされたいじゃないですか。」
「まぁそうだね。」
「だから僕、疲れてる人には優しく声かけるんです。」
「へぇ、どんな?」
「牛丼屋で死んだ目してるサラリーマンに。」
「何してんの!」
「『紅生姜、今日キレッキレの味ですよ』って。」
「なんの情報だよ!?」
「『攻めるなら今日です』って!」
「もうわけわかんね!」
「そんで『僕ですか?僕のことなら気にしないでゆっくり続きを食べてください。』って。」
「怖くて食えんわ!」
会場、大爆笑。
高井がプンスカしながら言う。
「もうええわ!!」
「どうもありがとうございましたー!」




