第4話 僕のもの
午前中は講習を受け、午後からはのんびり過ごす。
そんな日々にも慣れてきて、私の王宮内での行動範囲も増えてきた。
今日は天気がいいので庭を散策している。
どの草花もよく手入れされていて見応えがあるし、気持ちがいい。
しばらく歩いていると、見慣れた後ろ姿を見つけた。
しゃがみ込み背中を丸くする姿に自然と引き寄せられた。
「ルイス、何をしているの?」
「カリーナ……。ここの薬草を摘んでいるんだ」
「これ、薬草なんだ」
私も隣にしゃがみ、青々とした葉を眺める。
「これは腹痛に効く葉だよ。こっちの根は滋養効果があるんだ」
「じゃあ、私が飲んだ薬はこの葉っぱなんだ」
「うん。他にもいろいろその時の体調に合わせて調合をしているけどね」
「ルイスはすごいな。あの薬、すっごく良く効いたし」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しい」
柔らかく微笑むルイスに、穏やかな気持ちになる。
裏表がなくて、いいやつなんだよな。
「またお腹痛くなったら直接ルイスに薬お願いしてもいい? またこっそり甘くしてよ」
「砂糖は高級品なんだよ」
「でも、苦い薬飲めないんだもん」
「カリーナは可愛いね。そういう素直なところ好きだな」
そうだった。
ルイスはこういうことも無意識に言う人だった。
人として好きだと言ってくれていることはわかっているから、私も好きだと返したことがあった。
するとお互いに好き合っていると、どこかから噂されるようになったんだった。
今回は好きとは返さないでおこう。
「ありがとう。じゃあ、私行くね」
立ち上がり、その場を後にした。
――ここでの生活にはだいぶ慣れてきたけど、唯一慣れないことがある。
それは、私の部屋で待ち伏せするジェイド王子。
散歩から帰って部屋のドアを開けると、王子がソファーに座っていた。
一瞬ビクッとしたけれど、平静を装う。
「ジェイド王子、今日はどうされたのでしょう?」
「ねえ、さっき何してたの?」
散歩をしていたけど、王子が言っているはそういうことじゃない。
目が全然笑ってなくて怖い。
私がルイスと話していたことを言っているんだ。
何も答えられずにいると、手招きされ、ソファーに座るよう促される。
私はおそるおそる隣に座った。
するとグッと腕を引かれ、王子の膝に倒れ込んだ。
起き上がろうとするけれど、肩を押さえられ叶わない。
これは、私が膝枕されている……。
仕方なくされるがままにしていると、王子は私の頭を何度も撫でてくる。
「カリーナ、僕の何が不満なの?」
「不満などなにもありません……」
正直、婚約者という立場に不満しかないが、そんなこと言えるわけない。
ジェイド王子が私を本当に好きだと聞いたからなおさら。
「じゃあさ、他の男なんていらないよね?」
他の男?
ジェイド王子と婚約しているのだから、私から他の男性に行くなんて不敬できるわけないじゃない。
「はい」
王子は私の返事を聞くと、嬉しそうに何度も頭を撫でてきた。
一度目の人生、護衛騎士だったころとの差に困惑しながらも、ただ受け入れるしかできなかった。
◇ ◇ ◇
数日後、いつもと同じように庭を散歩をしていたら薬師団のローブを着た人が話している会話が聞こえてきて、足を止めた。
「ルイス、どうしていきなり北の研究所に出向になったんだろうな」
「あそこは本当に厳しい場所だからな。ひ弱なルイスで大丈夫か」
北の研究所はこの国の最北にあり、寒さが厳しく農作物もまとに育たない土地。
けれど、希少な薬草が生息しているため数名の薬師が派遣されているだけの過酷な任務地だ。
そんなところにルイスが出向?
彼はとても優秀でこれからも王宮で王族のために薬を調合する役目を与えられるとギル団長が話していたのに。
どういうことなの?
「まさか……」
すぐにジェイド王子の顔が浮かんだ。
急いで王子の部屋へと向かう。
部屋の前でいったん呼吸を整え、ドアをノックする。
すぐに返事があり、中へと入った。
王子はソファーに座り、本を読んでいた。
「ジェイド王子、ルイスを北の研究所に出向させたのはあなたですか」
私の言葉に持っていた本をパンッと閉じると、こちらに近づいてくる。
「カリーナの口から他の男の名前は聞きたくないな」
「私の質問に答えてください」
「そうだと言ったらどうするの?」
「ルイスの出向を撤回してください」
「だからあんなやつの名前を呼ぶなよ!」
腕を引かれ、ベッドに押し倒されていた。
両手首を掴まれ、身動きが取れない。
「王子、やめてください」
「カリーナ、他の男に懸想するなんてだめだよ」
「懸想なんてしていません。彼は友人です」
「男女の友情が成り立つわけないでしょ」
話が通じない。
私がルイスと仲良くしなければよかったとか、嘘でも王子に愛の言葉でも囁いていればよかったとか、そんなことが浮かぶけれどもうどうにもできない。
「私の婚約者は王子です。その事実は変わりません。どうかこんなことはやめてください」
「カリーナが言ったんだよ『大切なものからは絶対に手を離してはだめ。なにがなんでも自分のものだと強く主張する』てね」
違う。そういうことじゃないのに。
「それは、間違っています。物と人を一緒にしてはいけません」
「カリーナは僕のものだよ」
片手が離されたと思うと、胸をぎゅっと掴まれた。
首元に唇が這わされ、ゆっくりと下におりてくる。
「王子……やめて」
「僕以外の男のものになるなんて許さない」
その言葉にハッとした。
『カリーナ、僕はきみを許さない』
一度目の人生、最後に聞いた王子の言葉。
あれは、そういうことだったんだ。
私が暗殺未遂の罪を着せられたのは、ルイスと噂になった直後だった。
「……もし、私が他の男性の元へ行ったらどうするのですか」
「そんなの耐えられるわけないじゃない。狂ってきみを殺めてしまうかもしれない」
ああ。やっぱり。
今のジェイド王子は別人みたいだなんて思っていたけどそうじゃない。
この人は今も、一度目も、狂気に満ち溢れた支配者だ。
騎士だったときは専属護衛という立場のもと必要以上にこき使われ、結果私は王子の一番近くにいた。
今は婚約者になって狂ったような愛情を向けられている。
きっと私は何度繰り返しても、彼から逃げることなんてできない。
生きていても、死んでしまっても、私はジェイド王子のものでしかないんだ。
「王子……」
「カリーナ、きみは一生、僕のものだよ――」
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