第2話 別人
ジェイド王子との婚約が決まって早々、私は騎士団の寮から宮殿内に部屋を映ることになった。
元々荷物は少ない上に、騎士の服はもう着られない。
ほとんど手ぶら状態で、侍女に案内されながら部屋に向かう。
立ち止まった部屋は、見慣れた場所の隣だった。
「こちらがカリーナ様のお部屋になります」
「えっと……隣って、ジェイド王子の部屋ですよね?」
「もちろんでございます」
もちろんなの?
護衛時代、勤務時間は常に王子についていたのでもちろん隣の部屋でもよく過ごしていた。
王子とは距離を置くつもりが前より近くなってるんですけど。
とりあえず中に入ると、その豪華絢爛ぶりに驚いた。
大きなベッドにソファー、金縁のチェストにドレッサーまである。
「本当にここが私の部屋ですか?」
「はい。ジェイド王子から早急に用意するよう言付かりました」
それにしても早すぎるでしょ。
私が寮の部屋を片付けてここにくるまでに用意するなんて。
どこから持ってきたんだ。
落ち着かない部屋だけれど、文句も言えない。
侍女が出て行くとベッドに倒れるように寝転んだ。
なんで私、ジェイド王子の婚約者なんかになったんだろう。
これって、ゆくゆくは結婚するってこと?
それはないよね?
然るべきご令嬢が現れたら私は婚約解消してもいいよね?
でも、ジェイド王子が私を婚約者に選ぶだなんて思ってもいなかった。
前は私のことなんて召使いでとでも思っているような扱いだったのに。
それに、突然私を罪人に仕立て上げ、命奪った。
私、これからどうなるんだろう。
護衛騎士になることは回避したけど、王子暗殺を企てたという冤罪をまたかけられないとは限らない。
それでも、前回とは違う。
とにかく罪を着せられないように慎重に振舞わないと。
考えながらゴロゴロしていると、部屋のドアがノックされた。
返事をするとジェイド王子が入ってきた。
私は慌ててベッドから下り、姿勢を正す。
「カリーナ、そんな騎士みたいな立ち方しなくていいんだよ」
それって、暗に女性らしくないと言っているのだろうか。
私はこれが体に染みついているし、強い婚約者がいいと言ったのは王子なんだからいいでしょ。
心の中で反論するけれど、口には出せないので少しだけ肩の力を抜いた。
「ジェイド王子、何かご用でしょうか」
「用がないと婚約者に会いに来たらいけないの?」
「そんなことはありませんが……」
「そんな所で立ってないで座ろうよ」
ジェイド王子がソファーを指差すので隅に寄って座った。
するとピタリとくっついて隣に座ってくる。
「ちょっと、近くありませんか?」
「婚約者なんだから普通でしょ?」
にこりと微笑み顔を覗き込んでくる。
この人本当にジェイド王子?!
なんだか別人なんですけど。
「あの、どうして私を婚約者にしたのですか? ただ強いからというだけではないのでは?」
「そんなの、カリーナが好きだからに決まってるよ」
嘘。噓嘘噓噓。絶対に噓だ。
怖いんですけど。
好きだって、いったいいつから好きだったっていうの?
今までほとんど関わったことがないし、仮にも好きだった人間を断頭台で処刑するかな。
「はは……ありがとうございます」
すると王子は私の腕をそっと掴む。そしてなぜかムニムニと揉んでいる。
「さすが成績トップなだけあるね。美しくしなやかな腕だ」
「えっと……何をなさっているのですか?」
「マッサージだよ。愛しい婚約者を労わろうと思って」
マッサージしてくれてたの?!
前はふんぞり返って私に全身マッサージをさせていたのに。
いつ襲撃が起こるかわからないから然るべき状況で待機しておきたいとお願いしても口ごたえするなと一蹴されるほどだったのに。
他にもお茶をいれさせられたり、着替えを手伝わされたり護衛騎士の仕事の範疇を遥かに超えてこき使われていた。
そんな王子が私を労わるなんて、いったいどうしたんだ。
「あの……交代しましょうか?」
「僕は大丈夫だよ。その代わり膝を貸してもらうよ」
王子は少し離れたと思うと頭を私の膝に乗せて寝転んだ。
膝枕ですと?!
なにこの甘々王子。
二重人格なの?
すごく逃げ出したい状況だけれど、私に拒否権はないため気の済むまで膝枕をした。
その日の夜、一緒に寝ようと言われたけれど、さすがにそれはいけないとなんとか断り自分の部屋のベッドに入る。
今日一日、王子の様子がおかし過ぎた。
でも、この感じなら罪を着せられることもないのかもと思ったりもする。
なんにせよ、ジェイド王子の機嫌を損なわないようにしなければ。
きっとそのうち私に飽きて婚約を解消してくれるはず……。




