とある地方で、東京から来て事業を興そうとした人と地元民がもめた話~地方の闇とかあるけども、両方の話を聞かなければ分からないことあるよな的な話
昭和の終わりか平成の初めのころの出来事よ。
東京からドライブで来た人がね。池を発見したのよ。
『池だ。地図にも載っていないぞ』
『お父さん。大発見だね』
その家族は大喜びだったのよ。地元に人に聞いてみたそうよ。
『ありゃ、田んぼの水が流れたのではないか?』
地元でも山奥の方だから皆気がついていなかったのよね。
その発見した人は調べたそうよ。
『近くに河がある。もしかして、河の水が湧き出るのか?・・・それに、水が外にでていっていない。これは・・・』
とブラックバスを放して釣り堀をすることにしたのよ。
昔はかなり杜撰で、釣り雑誌にブラックバス放流の手記が公開されたことがあったの。
その人は、ログハウスを建てて、近くに駐車場の看板を立てたそうよ。
地元の人が抗議したら。
『あれ、持ち主から許可を受けました。近くを散歩したお爺さんが、「ええよ。あんた使いなさい」と言っていましたが』
『その人は誰?』
『さあ?』
お爺さんは沢山いて、調べるのに苦労したのよ
これは噂だけども、その人は東京でスナックや飲み屋を数軒経営していた海千山千の人だったそうよ。
バブル崩壊で経営が思わしくなかったから逃げて来たとか言う人もいるけども本当の事は分からない。
土日になると、車で人が沢山来るようになってね。
中にはその池の事情を知っていて、教えようとする者もいたそうよ。
「あんた、やめなはれ、自滅するぞ。これは池ではないのじゃ」
「はあ、黙ってもらえますか?これだから田舎者は」
「な、なんじゃと!」
地元の人と一触即発になったわ。
何回か話会いをしようとしたけれども、拒否されたわ。
そしてね。事態は動いたわ。
テレビ局に取材をされたのよ。
『皆様、鷺田さんが発見した池です!すごいですね』
『ええ、一目惚れをして買い取りました。家族を呼び寄せて移住する予定です。三日月のような形をしている美しい池です。私は三日月池と名付けました』
そしてね。子供を前面に出したの。
『お父さんが発見したとき、口を開けて驚いていました。ここを釣り堀にすれば若者がたくさん来て、地元のためにもなります』
本当に買い取ったか。誰から買い取ったかも不明よ。東京は怖いわね。
県外からも人が大勢来るようになったわ。
マナーも悪くあぜ道を歩く人や、ゴミを捨ている人。
遂に、地元のボス的な存在の私のお爺ちゃんのお父さん。つまり、曾お爺さんの耳に入ったの。
『ほお、助けてやろうと思ったが、そちらがその気なら黙っておく、自滅するぞ、皆も黙っておけ。一切手を出すな』
『佐々木さんがそう言うのなら』
それからね。鷺田さんは市の観光課に訪れても良い顔をされなかった。
一時期、大勢釣り堀に人が来て慢心していたそうよ。
『観光マップに載せてくれない?私はテレビのディレクターと知り合いだぞ!』
『ですから、そこは池ではありません・・・よ。河川工事で出来たものですよ』
『ああ、釣り堀だ!全く田舎者はこれだから!』
と怒っていたそうだけども、やがて、泣きつくことになるわ。
その年は長い梅雨で一月ぐらい雨、曇りが続いたそうよ。
やがて、梅雨があけ。暑くなると池が干上がったそうよ。
『何故だ!嫌がらせか?』
万策尽きて、曾お爺さんに泣きついたのだけども。
『どうぞ、東京の菓子折です。どうか、田んぼの水を少し分けるように言って下さい!』
『お前、誰じゃ?農家を舐めるな。水は余分はねえよ。帰れ』
『少し、水路を崩してもらえば・・池に流れ込む算段です』
『それやったら埋めるぞ。ワレ!』
『ヒィ!』
実はね。市が捷水路整備を行ったの。河のΩのようなわん曲部を直線化する工事をしたそうよ。
根元同士をつなげる工事ね。
その池に見えたものは、わん曲部の残りだったそうよ。
偶然が重なって、大きな水たまりを池と誤認したのがオチよ。
多分だけど、鷺田さんは、登記簿を見て河川管理者が持ち主だから、時効所得を狙ったのか。それとも、無知で本当に釣りを愛していたか分からないわ。
でも、嘘つきなのは間違いないわね。
・・・・・・・・・・
「すげーな。マスコミもいい加減だな。でも、東京の人は地元の話を全く聞かないで、ここまで突っ走ったのでしょう?」
「そうね。そのバイタリティはすごいかも知れないわね」
俺は同級生で現在の地元のボス的な存在の娘さん。佐々木の話をその現場のログハウスで聞いている。
「今は、この建物は私の会社が管理しているの。元川底だから水はけは悪いわ。山田君、300万円でどう?」
「いや、いらん」
「どうして、釣り堀を経営したいと同窓会で言っていたでしょう。今なら、工事用のユンボも貸し出すわ。水路工事も地元の方に話は通りやすいわ」
「だから、定年後だよ」
俺はトラウトの管理釣り場に凝っている。老後は経営も考えているが、今じゃ無い。
「あら、残念ね。地元の若者が事業を興す要望が強いのよ」
「これ、絶対に失敗するでしょう」
「ヘラブナでも良いんじゃ無い?結構、需要あるみたいだよ」
「だから、トラウト、マスだよ」
「フフフフ、気が変わったら声かけてね」
彼女は屈託泣く笑う。
時々、地方行政の闇とかあって、SNSで告白をしている人もいるけども、両方の意見を聞かなければわからないことあるよなと思う俺がいた。
最後までお読み頂き有難うございました。