山田先生の初恋
三山(24)「こら!廊下は走らない!」
中学二年。休憩時間。
廊下を全力疾走していく二人の男子生徒に三山先生が教室の扉から顔を出して注意している。
教室の机に頬杖を突きながら友人が話しかけてきた。
緑川(15)「三山先生っていっつも怒ってるよな」
山田(15)「まぁ、先生はルールに従ってるだけだからな」
緑川「そりゃそうだけどさぁ、あんなんじゃ嫁の貰い手ねーよな、美人なのにもったいねぇ」
山田「余計なお世話だと思うぞ・・・」
その時、三山先生がこちらに向かって来た。
三山「緑川君、山田君」
緑川「ビクッ、はい!!」
三山「来週、三者面談あること忘れてないわよね?」
緑川「は、はい・・・」
三山「そう、ならいいわ」
三山先生がニコッと笑い、教材を手に持つと教室を出て行った。
緑川「こっわ!!俺、来週三者面談で絶対怒られる!」
山田「ま、自業自得だな」
緑川「ひっでー!!」
三者面談当日。
先に面談を終えた緑川と母親が教室から出て来た。
廊下の椅子に座りながら山田が聞く。
山田「どうだった?」
緑川「いや、もっとけちょんけちょんに言われるかと思ってたんだけど割と普通だったぞ」
緑川は頭にハテナがいっぱい浮かんでいるように見える。
山田「そうか、良かったな」
その時、ガラガラっと教室の扉が開く。
三山「はい、次は山田君」
ガタッと山田と母親が立ち上がる。
山田「はい!」
席に座り、三者面談が始まった。
三山「それじゃあ、三者面談始めますね」
母がよろしくお願いしますと言って頭を下げる。
しばらく勉強や部活の話をしていると母が三山先生に質問をした。
母「あの」
三山「はい、何でしょうか」
母「この子、勉強も運動も平均的で性格も特徴がないでしょう?何か秀でてるわけではありませんし・・だからこの子の未来が心配で・・・」
山田は黙って聞いていた。
俺は小学生の頃から何も特技もなく、クラスで目立たない方だった。
勉強も運動も平均並み。
特に問題を起こすこともなく過ごしてきた。
自分的に精一杯やってきたつもりだったが母はどうやらそんな俺のことが心配らしい。
これでも俺は一生懸命なんだけどな、とは言えなかった。
しかし、そんな母に対して三山先生は微笑む。
あれ、三山先生ってこんな風に笑ったりもするんだ・・・。
三山先生「お母さん、そんなことありませんよ、
この教室に飾ってある観葉植物、実は山田君が毎日水をあげてくれているんです」
母「え、この子が??」
三山先生「ええ、最初は私が担当していたんですが
山田君植物が好きみたいで自分がやってもいいかと聞かれまして・・・」
母「まぁ・・・」
三山先生「それで、このクラスの観葉植物は山田君に任せることにしたんですが、
毎日欠かさず水をあげてくれているんですよ」
母「そうだったんですか・・・」
三山先生「山田君は植物を大事にできる責任感のあるいい子です」
山田「三山先生・・・」
知らなかった。
三山先生がそこまで見ていてくれていたなんて。
三山「子どもなんてどう転んだって心配になってしまうものです、と言っても私には子どもはいません、
これは私の母からの受け売りですが・・・」
母「いいえ・・・私なんかより、先生の方がずっと息子のことを分かってらっしゃいます、
息子のこと、これからも見守ってあげて下さい、
学校では私はこの子に何もしてあげられませんから」
三山先生「任せて下さい、その為に我々教員がいるのですから」
母「先生も大変ですね、こんなに沢山の生徒を見なければならないなんて」
三山先生「本当、私なんて毎日怒ってばかりで嫌われ者ですからね、
怒るって体力が凄くいるんですよね」
母「確かに、怒るって疲れますよね、私もこの子が小さい頃は危なくなると怒っていましたが体力が持たなくて大変でした」
三山先生「そうなんです、体力が持ちませんよね・・・なので私、実はこっそりジムに通ってトレーニングしてるんですよ」
母「え!凄い・・・」
山田「え!そうなんですか!?」
三山先生「そうよ山田君、怒るのにも体力がいるんだから、
あ、でも怒らなきゃいいなんて言っても無理よ?
本音を言うとね、私は生徒達が多少悪ガキだって構わないの、
でも、間違った道に進まないように指導するのが先生の役目なのも確かなのよ」
三者面談の後。
母「植物が好きだったなんて母さん知らなかったわ」
山田「うん、まぁ、言うほどのことでもないかなって」
母「これからは教えてちょうだい、何も知らないままなのは母さん寂しいわ」
山田「分かったよ、母さん」
次の日。
三山先生「こらー!廊下は走らない!教科書に落書きしないの!授業中は静かにしなさい!」
緑川「はーあ、三山先生ってあんなに怒ってばっかで疲れないのかね」
山田「いいんだよ、三山先生はあれで」
山田が三山先生を見るとフッと笑った。
緑川「え、山田って三山先生のこと好きなのか?まさかドM?」
山田「ばーか、何でそうなる」
秘密さ、今はな。