禁じ手ですからね
RPGのダンジョンに迷い込んだ夢を見て印象的だったのが狭く暗い通路の途中にあった謎の『チェックポイント』。そこに待機しているのは高校の時の眼鏡を掛けた担任。明らかなダンジョンなのに改札のような機械が鎮座し、進行方向の先に進めないようになっている。
『よお!』
担任が自分の姿を見つけると何気ない感じで手を挙げ迎えてくれる。それから同級生がわらわら出現してまるで引率の時のようになってしまっている。雰囲気は悪くなかったので寝覚めは良かったけれど、なんとなく『その先』に進んだら何があったのか気になってしまった。
夏場に帰省したとき、実家から今なら『レトロゲーム』に分類されるゲーム機とソフトを回収してきた。当時ジャンルとしてはRPGが好きだったがパッケージを見ているうちにだんだん心がウズウズしてきて、、今のテレビでプレイできるように一式を揃えた末に実際にプレイしてみることにした。
「あ、データがあった」
既に遠い過去の記憶になってしまってはいたが、コントローラーの操作は問題ない。プレイしていた時に作成したと思われるある程度物語を進めてあるデータを発見して、とりあえずそれを選択して『再開』してみた。
「…」
当時の自分は何を考えていたのかセーブデータはダンジョンの途中から始まっていた。しかも回復アイテムやマジックポイントなどがかなり削られて進退窮まっている状態。つまりそれは一般的には『詰んだ』絶望的な状態で誤ってそこで『セーブ』してしまった状況だったのだ。
無理に進めようとすれば全滅。戻ろうとしても敵と遭遇してしまうと厳しい…というかもしかしたら戻れない特殊な場所だったり?だからここでこのゲーム辞めたのかも…
今まさに、時を越えてプレイしていた自分と苦しみを共有している。セーブポイントの先に控えていると思われるボスを撃破すればもしかしたら先に進めるかも知れない。ただ分は悪そう。ほんの少し縋るような気持ちでネットで攻略を調べてみたら微かな『光明』が見えた。どうやら正攻法では進めないらしいのだが、ゲームにつきもののとある『バグ』を利用すれば、強制的にどこかに『ワープ』できるらしい。もちろん、このゲームをプレイしている時には知らなかった『バグ技』である。ネットでは研究が盛んに行われているらしく、相当高度な知識を有する人によって発見されたバグだから気付ける筈がない。
<よし、やってみようか…>
決意してから手にじんわり汗をかき始める。なぜこんな事でドキドキしなければならないのだろうと思ったりもしたが、やはり自分にとっての『未知のエリア』は興味があるもの。意を決して『謎の儀式』を行うとダンジョンにいたパーティーは自分が全く見た事のない『町』のとある座標に立っていた。抜け出したは良いが、これで進めて行けるのかどうか不安が大きい。
ただその時、絶望の淵にあった当時の自分が確かに『成仏』したように感じた。
『ありがとう、『俺』!!この先はお前に任せたぞ!』
そう言って天に昇ってゆく若い自分の姿が見える。
「いや…任されてもこまるんだがな…」
結果的に『禁じ手』レベルのバグを一度使ってしまって進行が滅茶苦茶になってしまったため、その後もバグを多用する事で何とか物語を進めることが出来ている有様。これでいいような気もするし、ダメなような気もしてしまうのがなんとなく味わい深かった。