表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/14

陰謀

王宮にて

「殿下、かの女性は龍使いでもあったという報告がきております。元は奥の山の主であったようですが、赤龍に負けた黄金龍は彼女の庇護下にて巨大竜となり、今度は逆に赤龍を服従させたということです」

「それはすごいなあ。以前病院の患者を全部治癒させたというときにも驚いたが、巨大龍も使役しているのか」

「その龍退治の時にエリック殿下は三日間程人事不省になられたとのことですが、その乙女は三日三晩ほとんど不眠不休で殿下の看病をされたとのことで」

「何?我が弟も女性についてはまだまだ奥手だと思っていたがなかなか隅に置けないんじゃないか。少し目を離した隙に上手くやりおったな。しかし、そこまで大きな力となれば放置はできないだろう。王家に害をなす存在になっては困る。調査をする必要がある。なに、弟のものはみんな俺のものだ」

「実は告発状が提出されておりまして」

「うん丁度いい、それを使おう」


黒狼騎士団にて

龍退治の後、オーガの族長に奥の山の主が再び黄金龍に復帰したことと赤龍ゼニスが黄金龍に服従したのでもう安全に故郷に帰れることを伝えると「皆様のおかげです」と感涙に咽んでいた。

主に周囲の人間たちの不安を和らげるために、オーガたちは少人数に分けて山に帰らせることにした。

たまたまオーガを目撃してしまった一般民たちはもう恐怖に駆られて腰を抜かすものもいたが、オーガたちは人間に暴力を振るったりすることなく大人しく山に帰って行った。

騎士団ではエリックと私はお互いに愛称で呼び合ったり真っ昼間から私がエリックの部屋に行ってお茶したりしていたのでもしかして「聖女様命!」の騎士たちが騒ぎ出すのかと思っていたら静かなままだったので、藪を突いて蛇が出たら困るのでそーっとしていたが、あまり反応がないのである時アレンに聞いてみた。そうしたら「あの龍退治の時に団長が竜の一撃で倒れた時に炎のブレスが来るかもしれないのに真っ先に団長のところに走り寄ったじゃないですか。あの時は我々も団長を助けたかった。けれども龍の炎のブレスが怖くて誰も動けなかったんです。我々はみんな意気地なしでした。そんな意気地なしの我々が真の勇気をお示しになった聖女様に何かを言えるわけないのです。そんな我々のできることはただ聖女様の幸せをお祈り申し上げることだけなのです」ということだった。

そうか、あの時は何も考えずに行動しちゃったけれど、炎のブレスを受けたらまるこげだったわね。ピィちゃんが出てきてくれたからよかったけれど、って冗談めかして言ってみたけれどアレンは笑ってくれなかった。

リンの家庭教師ももうすぐ終わりである。若い貴族令嬢のデビュタントは新年の大舞踏会になるが、その数カ月前にリンは王都に行って雰囲気に慣れさせたいというのが子爵夫妻のお考えであった。なのでもう何週間かで家庭教師も終わるのである。リンはレディとしての教養をほぼ身につけているので私も胸を張って彼女を送り出せるのは幸せなことである。


そんな平穏な日々は突然終わりを告げるのである。


王都からの査問官が騎士団にやってきた。喚問状には私の名前が書いてある。どうやら無許可で聖女を名乗ったということでグレゴリウス修道院の聖女業務を妨害したという告発状のようだ。

「グレゴリウス修道院に聖女なんていたっけ?」

「多分あのごうつくばりの修道女がお金だけとって役にも立たない魔法をかけたいということかな?」とか色々みんなざわざわと口にした。

エリックやレンドルフが「本人は聖女と自称したことはない」と言っても査問官は「軍病院で多くの入院患者が治癒したという事実は確認されている」ということでその確認として王都に召喚される必要があると言われると騎士団側も引き下がるしかなかった。

みんなで聖女様聖女様っていってたのは事実だしねえ。


そういうことで私は騎士団側の付き添いが許されることなく、檻付きの馬車に乗せられて護送されることになったのである。


(はあっ、グレゴリウス修道院に行くつもりで通った道をグレゴリウス修道院からの告発状で逆戻りに護送されてゆく羽目になるとはねえ。もう二度と見ることはないと思っていた王都に連れ戻されるのか)

護送の兵士などに声をかけても完全に無視されていて王都のどこに向かうのかすらわからない。


夜は腰縄をつけて宿屋のベッドで寝かせてくれたし、粗末ではあったが食事も出してくれたので大人しくおり付きの馬車で護送されることにした。逃げ出すことは簡単だったが、逃げたとしてもお尋ね者になってしまう。他国に逃げてどこかの国で村の治療師として暮らすことは可能だろうが、エリックのいない生活は考えられない。それならば逃げない方が良いわけである。


そうして数日間経って、ついには王都の門が見えてきたのである。

「どこかで密殺されるのかと思っていたけれど、本当に王都に連れてこられたのね。王都のどこに行くのだろう」

と見る間に馬車は王宮に向かってゆく。王宮内のよく知らない建物の前で馬車は止まり、馬車から降りるよう促された。

連れてゆかれた先はがらんとした大広間で隅っこに奇妙なローブを着た中年太りしたおじさんがいた。このおじさんは何だか私をジロジロ見ていたが、突然ぎゃっと悲鳴をあげて腰を抜かしたようになり、四つん這いになってようやく部屋の外に出ていった。


その後ややあって若い男が取り巻きを連れて現れた。その男の顔には見覚えがある。エドワード王太子殿下だ。周りの男たちは魔術師であるらしく全力でプロテクションの魔法をかけているようだった。


「えーっと、あなたはクリスティーナ・シンクレア嬢だね」と王太子は聞いてきた。

「ええ、その通りですわ、王太子殿下」と答えた。

「おや、私のことを知っているのかい?」

「それはもう。この国の貴族令嬢で王太子殿下の顔を知らないものなどおりませんわ。私も直接ご挨拶する機会はございませんでしたが、遠くから御尊顔を拝見したことがありますのでよく覚えております」

「弟のエリックなどより僕の方がよっぽどハンサムでいい男だろう」

「ええ、王太子殿下は並ぶもののないイケメンだと思いますわ。けれどもエリック殿下にも良いところはあると思います。そうでなければ世界中の女性たちがみんな王太子殿下を追いかけることになって他の男たちと結婚したいという女性がいなくなればそれはそれで大変なことになるでしょうね」

「国中のすべての女性が王太子と結婚するのはいいことだと思わないかい?」

「そうであれば我が国には私などより素晴らしい女性が幾人もございますので、まずはそういう女性とご結婚なさればいかがでしょう」

「言うねえ。でも君、エリックとは婚約の約束はしていないだろう。この僕が婚約していないのに弟が婚約などできるはずもないからね」

(エリックが婚約を言い出さないのはこのアホ王太子が婚約しないからじゃないの、この人自分で何をいっているのだろう)

「つまり、君は弟とは婚約していないのだから私が求婚して何の問題があるのか。私なら田舎の騎士団長などではない、国の王太子だからな。好きなだけ贅沢させてやるぞ」

(エリックと駆け落ちして村の治療師として働く将来まで考えている私に何をいうのだろう)

「贅沢がお好きなお嬢様にはそういうお言葉が響くのかもしれませんね。けれども私はエリック殿下にこのドレスを贈っていただきました。私にはこれで十分なのです。それ以上の贅沢なんて求めたくありません」

「こんなお嬢さん、どう考えても弟にはもったいないね」

「そろそろ尋問など致しませんと」と横にいる髭面のローブを纏った爺さんといっていい人が王太子に囁く。

王太子は「あ、そうそう。君はデニア侯爵家の誰だったっけそうだ、ラミレスだ、あいつに婚約破棄されたんだよね」とむきつけに聞いてくる。

私は古傷を抉られた痛みにぐっと唇を噛み締めながら頷く。

「ああ、婚約破棄の原因は君の魔力不足か。君は15歳の魔力測定で無能、つまり魔力量ゼロだったんだよね」と王太子は畳み掛けてくる。私に振られた恨みなんだろうか。悪意すら感じる。私は頷くしかない。

「そして無能者の多くが選択するように君も修道院行きを選んだ。けれども君は修道院には行かずに騎士団に行った。そこがわからないんだよねえ。どういうこと?」と王太子が聞いてくる。

私は盗賊に襲われたときに鞄を失ってしまい、そのため修道院に支払うべきお金がなかったので修道院から軍病院に向かうように言われたことを話した。

「うんそれだけならば不十分だ。あなたがなぜ軍病院に入院していた患者を救えたのかという肝心な部分が説明されていない」

「いや、私が魔力なしの無能とおっしゃったのは王太子ご自身ではありませんか」

「先ほど宮廷魔術師に君の魔力量を見てもらったんだ。そうしたら腰を抜かして帰ってきて、魔王級の魔力量だといってきたんだよ。神官長、君はどう思う?」

神官長は先ほど尋問しろと言っていたヒゲの爺さんのようである。その爺さんは「私には正確な魔力量はわかりませんが、それでも彼女の体の周りに魔力が抑えきれずに漏れ出た分が輝いているのはわかります。こんなに魔力のある聖女は残念ながら当神殿には1人もおりません」と恭しくいう。

「で、どうだ」と王太子が重ねて問うてくる。

私は仕方なく「盗賊から逃げるためにどう走ったのかわかりませんが小さなお堂に辿り着きました。盗賊から身を隠そうと私はその中に入ったのです。そうすると夢か現かはわかりませんが中には若くて綺麗な聖女様がいて(どこかでうんうんという声がする)、ここは『禁断の神殿』だというのを聞きました。魔力を授かったのだとしたらここでなのかもしれません」

(私は嘘は言っていないよね)

「はっ?禁断の神殿だと?あれは伝説の存在といわれていて並の人間が入り込めるところではないぞ」と王太子があきれたような声を出す。

「けれども、禁断の神殿なら君が魔力を授かったというのはあり得る話なのかもしれないな。なにしろ伝説の神殿だ。何でも言える」と王太子は独り言のように呟くと、では今日の尋問は終了だ。クリスティーナ嬢には地下牢に入ってもらおう、と言った後小声で私だけに聞こえるように「でも私と結婚したくなったらいつでも言ってね。大歓迎だから」とささやいたのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ