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どうせ殺される悪女なので、一〇〇年ほど眠るつもりが『無理矢理』起こされて主人公たちに一生付きまとわれている件。  作者: あしなが


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元教え子に首輪をつけられてしまった件について。






 ◇


 き、気まずい。なんて気まずいのだろう。


 ユルったら、なんにも言わないから、尚更空気が重い。


 ユルがさっきの出来事を、一体どこまで見ていたのかわからないし……。


 ああもう、ソルフィナめ……。


 なんであんなことを……あのようなことを言ったのか。


 理解ができずに困惑してしまう。私を困らせたいのだとしても、いくらなんでもやりすぎだ。


 下唇を軽く指で挟みながら、いやいやいや、と何度も首を振った。


 それに結婚だなんて、本当に一体何を考えてるんだ。


 大体ソルフィナなんて、私に対して一番チクチクしていたように思うけど……。


 てっきり好感度も低いと思っていたのに。……もし、嫌がらせだとしたら相当タチが悪い。


 冗談じゃないと本人は言っていたけど、幼い頃の恨みを晴らすために、何もかも有利になったこの状況で私を傷めつけ、揶揄いたい……という可能性が、あのキャラには。


「全然あり得る……」


 うーん、と考えつつ。考えつつ。考えつつ……。


 よし、今は一旦忘れよう。


 と。難解すぎて思考を放棄した。


 ひとまず本気にするべきではない。


 その上、現状はイレギュラーばかりなんだから。


 なんでもかんでもいちいち突っかかっていては、状況が進むにも進まない。


 今は私は自分への生存ルートの確保と、


 この気まずい状況の打破だけを考えるんだ。


 こほんと、咳払いをするようにして、「ゆ、ユル様?」と声をかける。


 すると前方を歩いていたユルが立ち止まって、こちらを振り向いた。


 その赤紫色の髪がさらりと揺れる様を眺めていると、「どうしましたか」とユルが答えた。


「え? ああ……えと、あ。お腹が空きませんか」


 思い出したように提案すれば、彼は「お腹?」と首を傾げた。


「空いたんですか?」

「はい、それは……」


 もう、と答えようとしたところで、お腹の虫がタイミングよく鳴った。ぐううっと響き渡るそれに、ユルは少し視線を落として私の腹部を見ると、「空いたんですね」と改めて告げた。


「……はい」


 ちょっと恥ずかしいのは、威厳が消えた気がしたからだ。


「では、食堂に寄って行きましょう。何かあるかもしれません」

「本当ですか? ありがとうございます!」


 よし、これで少しは部屋に行くまでの時間が稼げそうだ。


 また部屋に閉じ込められてしまう前に、黒龍の居場所を突き止めるヒントを少しでも多く集めてから戻らなくては……。


「……先生は、そんなに部屋に戻りたくないんですね」

「え、どうしてですか?」

「顔に出てるので」

「…………」


 そんなにわかりやすい顔をしていたつもりは、これっぽっちもないのに。


 ユルめ。やはり、元最推しなだけあって、あなどれない男だ。


「ところで先生は、先ほどソルフィナ様と何をなさっていたのですか」

「え……何って……」


 急に訊ねられて、はっとする。


「ああ! えと、ソルフィナ様とはその……」


 答えようとして言葉に詰まってしまう。だらだらと冷や汗を垂らす私をユルは無言で見下ろしていた。


「その、なんですか」

「あの場所から私が動けなかったから、話し相手になってくれていたんです。いやあ、ソルフィナ様ったら、暇なんですかねえ。あはは……」

「……」

「はは……は」


 ぎこちなく笑う私へ、ただただ無表情を向けているユル。お願いだからこれ以上何も追求しないで欲しい。


「……そうですか」


 呟くように告げたユルにほっとする。よかった。もしもさっきの出来事を最初から見られていたら、あらぬ誤解をされてしまうところだった。


「まあ、どちらだって構いませんが」


 目を合わせたまま、ユルは続ける。


「あの人は例え暇でも、誰かのために無償で時間を削る方じゃありませんよ」

「……そ、う、ですか」


 何故、さっきから答えに困るようなことを……。


 ぎこちない私を置いて、ユルは踵を返して歩き出す。


 や、やりづらい……。


 それもこれも、あのソルフィナのせいだ。


「先生、食堂に着きましたよ」


 ユルに言われて、顔を上げると食堂が見えて来た。


 ん? この香りはもしかして……。


「この時間は誰も使っていないので、好きに……」


 ユルの横を駆け抜けて、少し先にある食堂を覗き込んだ。


 そして中をぐるりと見回したあと、再び振り返って、ぽつんと立ち尽くしてるユルを見た。


「ユル様、なんかパンの焼けたいい香りがします! 早くいらしてください、せっかくなら内緒でもらっちゃいましょう!」


 生き生きと言う私に、ユルは目を丸くする。


 あれ、なんで反応しないんだろう。もしかして、ユルってパンが嫌い……だった?


 しまったな、流石に食べ物の好き嫌い設定とか覚えてないかも。


「す、すみません。ユル様はパンがお嫌いだったりします……?」


 探るような面持ちでユルの元へ戻る。


 それでも特に何も答えないので、何かおかしなことをしたかもしれないとその顔を覗き込んだ。


「あの、聞こえてますか……?」


 まさか『内緒でもらっちゃいましょう』って言ったから、盗み食い幇助になっちゃった……とか?


 だとしたら最悪だ。ユルはもう子どもじゃないのに。ついいつもの調子で……。


「確かに……その、内緒はよくないかも知れませんね……」

「いえ、いいんじゃないですか」

「えっ」


 顔を上げると、ユルが少し微笑んで「俺はいいと思いますよ、内緒で」と再び続けた。


 ほ、微笑んでる。あのユルが……。


 破壊力がすごい。これは映像化したら、きっと原作ファンが増えること待ったなしだ。


「……あの、ユル様。何か楽しいことでもありました?」


 私がそう訊ねると、ユルは少し考えるように目を背けたあと。


「……ちょっと、懐かしい気分になっていただけです」


 今度はユルが私の隣を通り過ぎて行った。


「ほら、先生。早く盗み食いしなくていいんですか」

「そんな風にはっきり言われると、逆にやりづらいのですが……」


 あはは、と引き攣った笑みを浮かべながら、その隣に並ぶ。


「そういうものですか?」

「そういうものですよ」


 きょろきょろっと周囲を確認しながら、食堂の中にそそくさと入る。


 そして、パンバスケットを覗き込んで、美味しそうなバターロールを見つけた。


 はわ、いい香り……。


「いいですか、ユル様……」


 涎が垂れそうになるのを我慢して、隣にやってきたユルを見た。


「盗み食いと言うからには、ユル様も共犯ですからね」

「共犯ですか」

「わかりましたか?」

「悪くない響きですね、わかりました」

「さ、じゃあ、ユル様もパンを持って……」


 紙に包みながら渡そうとしたら、バスケットに肘がぶつかった。


 あ、まずい!


 パンが落ちる、と思って、手のひらを翳すとふわっとパンが浮いた。


「あれ……」


 待って、私。魔法が使えてる?


 …………あ。そうだ、足枷!


 さっきルスエルの枷を取ってもらったから、私自身に対魔力術がかかってないんだ!


 ルスエルったら、きっと遠隔で遠心魔法を解く術をまだ学んでないんだな。だからさっき、ユルが物理的に外してくれたんだ。


「やった、これで……」


 これでようやく、黒龍を探しに行ける!


「ルーナ先生」


 名前を呼ばれ、顔を上げた瞬間。


「なんですか? ユ……」


 ユルの指が軽く私の首元に近づいた。


「ル……」


 ユルの前髪がさらりと揺れて、距離が近くなる。


 至近距離でその翠色と目が合うと、ぐっ、と首に指が食い込んだ。


 え、なんで私、今、首が絞められ……。


 状況を理解しようとしたその時、カチッと首元で音がした。


「……え?」 


 首に何かつけられた。


 チョーカーのような……って。


「えっ、首輪!?」

「対魔力術の首輪です。やっぱりつけておきます。なんだか危険な感じがしたので」

「なっ、何でですか!? 今せっかく魔法が……」


 使えるようになったのに!


 急いで、窓に反射している自分の首を確かめると、ユルの髪色に似たチョーカーのような首輪がついていた。


「魔法が使えてしまったら、先生は何をしでかすかわからないでしょう?」

「そんな、私は良識ある大人ですよ! 魔法を使って暴れたりなど……」

「暴れる暴れないの話など、誰もしていません」



長らく休止して、大っっっ変申し訳ございませんでした……!

更新を再開して参ります。頑張って一部完結を目指します、引き続きよろしくお願いします!

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