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再教育、やっぱり失敗していたかもしれない件につきまして。





 ◇


「だーから言ったじゃないですか、ソルフィナ様。遠心魔法がかかっている最中に、逃げ出すとその場から動けなくなるから気をつけてくださいねって」


 地面に磔にされたように、うつ伏せになっているソルフィナを見下ろすと、彼は悔しそうに芝生を握り締めていた。


「くそ……悪魔魔女め……覚えてろよっ」


 やれやれと思いながら、その首根っこを猫を持つように掴めば「あっ、おまえ!」と不服そうな声が飛んでくる。


「王族に対して、無礼な! 国王に言って絶対解雇させてやるからな!」

「はいはい、わかりましたよ。とりあえず、もう勝手に逃げ出すのやめていただけますか?」

「嫌だ」


 ふん、と顔を逸らすソルフィナに溜息を吐く。すると「なんでお前がうんざりした顔をしてるんだよ」ってさらに怒られた。

 ルスエルやユルと比べて、私のことを一番毛嫌いしていたのがこのソルフィナだった。

 彼はルスエルよりも年上にも関わらず、一般人と国王陛下の間に生まれたいわゆる庶子であり王位継承がないという、いわばこの物語上、複雑な人物のひとりである。


「ソルフィナ様はどうしてそんなに私の授業が嫌なんですか?」

「うさんくさいから」

「…………」

「それにかわいくないし、ださいし、俺はもっと美人でスタイルの良いひとのほうがいい! 壁にぶつけたみたいな胸してるのもどうかとおも……」

「ソルフィナ様」

「は? な……うわあ!?」

「今日は念力魔法でも練習しましょうか。ソルフィナ様だけ特別ですよ」


 念力で空中に吊り上げられたソルフィナが、血の気の引いた顔をしている。


「やめろっ、おろせ! おろせよ!」

「いいえ、おろしません。私ちょっとムカつきました」

「はぁ!? 意味わかんねえよ! おろせってウニ頭! ブサイク!」


 ぎゃあぎゃあと言っているソルフィナを、上に浮かせたり下ろしたり、時にはぐるぐると回していると、「お兄様!?」と叫ぶような声が聞こえた。

 心の中で舌打ちをしながら、私は振り返った。

 そこにはソルフィナ以上に青い顔をしたルスエルと、「何してるんですかっ」と少々焦った様子のユル。


「ルス! ユル! 助けてくれ! この魔女に殺される!」

「おい! おまえ、また懲りずに……即刻やめろ!」


 ルスエルが私に向かって指を差す。


「それは命令でしょうか、殿下」

「っ、そ、そうだ! お兄様が困ってるだろ!」

「承知いたしかねます。これは授業の一環です」

「じゅ、じゅぎょう?」


 少し狼狽えるように、ルスエルが聞き返してくる。


「そうですよ、見てわかりませんか?」

「見るってどこを……」

「いいえ。僕には、どう見たって授業には見えませんが」


 ユルが淡々と口を挟んできた。

 正直、この子にはルスエルのような純粋さはない。


「先生はよく授業と言いつつ、僕たちをこらしめているように思います」


 ぎくっと肩が強張ると、さらに。


「なにか……まるで特別なうらみでもあるような」


 ユルの頭がきれっきれなのは知っていたけど、まさか勘まで鋭いとは。

 ぐっと唇を引き結んでユルを見下ろせば、彼は何食わぬ顔で「なにか」と言っていた。

 くそ、その白くてもにもにしていそうな頬を今すぐにでも引っ張ってやりたい。

 そして、その柔さを堪能しながら「もっと子供らしく振る舞ってもらえますか?」と言ってやりたい。

 憎い、お互いの立場が。主人公たちの敵である自分が!


「ルーナ! おいっ、持ち上げ過ぎだ! お兄様が!」


 空高く持ち上げ過ぎて、失神してるソルフィナに「あ」と思う。


 しまった、やりすぎた。


「っな、なんてことをしてくれたのだ!」


 急いでソルフィナを地面に下ろせば、ルスエルとユルはすぐに駆け寄っていた。


「この……っ」

「申し訳ありません。そ、そのつい力んでしまって……」


 嘘ではない。ちょっと、違うことを考えていたせいでやりすぎてしまったのだ。

ぐったりとしたソルフィナに寄り添いながら、怒ったルスエルは「衛兵!」と叫ぶように言った。


「この魔法師を捕まえろ!」


 ルスエルの命令に、王室専用の騎士たちが私たちの元へやってきた。

 がしりと両側から腕を掴まれる。


「えっ、あの」

「おまえにはがっかりだ、お兄様を殺しかけるだなんて……」


 ルスエルが拳を震わせて、立ち上がった。


「ルーナ・オルドリッジ! きさまには三日間、地下牢での禁固刑を命ずる! 少しでも逃げ出そうものなら、今度こそこの城から追い出されると思え!」


 怒った顔で、命令を下すルスエルの隣、ユルまでも私を静かに睨んでいる。

 あー……っと、これは……。


「お前たち、この命の証人となり、その愚か者を地下牢へ連行しろ!」

「はっ!」


 複数の兵たちが、私の身体を取り囲んで文字通り連行した。

 振り返って、冷めきったルスエルとユルの顔を見る。

 しまったな。私ったら、ちょっと調子に乗り過ぎてしまったかもしれない。


 再教育、ほんのすこし、失敗したかも……?







ストック切れつつありますが、続きます。引き続きよろしくお願いいたします!

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