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シズにて

もうクタクタで、すぐにも寝転がりたいが、頑張って村の中へ歩いてゆく。


まずは広場へ。

木の下に場所取りして荷物を下ろし、籠と盾とで小さく風除けにする。

トモコとエコが官舎へ許可を求めに行き、トヨが見張りに立つ。

座り込みたい。

血と汗と埃で汚れた身体を、早いとこ小川で洗い流したい。

けど、時間がかかる事の準備を先に済ませてしまうべきだろう。


「先に防具を燻そう」

「ああ」

と、面倒くさそうに顔を顰めながら、材木を探しに行く。


広場の隅に置いておいた筈の櫂三本分は既に無くなっていた。

この村の奴らに、薪にでもされてしまったんだろう。


海辺へ降りて、少し南へ歩き、草むらの中に隠しておいた解体した筏の材料がまだあるかどうか。


あった。

鬱陶しい虫どもを追い払う。


半月放置していた割には、まだ使えそうだったので、翌日組み立て直すことにして、二人で櫂七本を砂の上に引きずって、一旦小川に寄って真水で洗い浄め、それから広場へ戻る。


「おう、マサ、薪頼んだ」

「おう、わかった」

「じゃあ、ぼくも行って来る」

「おう、頼んだ」

今度は薪採り。


それが済むと、既にトヨは漁に行っていて、既に戻っているトモも壺を抱いて水を汲みに出て、エコもまたトモに尾いて草を採りに出かけた。


ぼくとマサとで焚火を熾して、物干し場を作り始める。

「材木もう少し持って来た方がいいな」

「うん。マサ、行ってくれるかい?」

「おう、任せて」


ぼく一人で荷物を見張りながら、物干し場を作り、薪を焚火にくべつつ、装備を外して煙に当てて燻すように乾し始める。


--


トヨが獲って来た魚で食事にすると、もう日が暮れて、満月が昇って来る。


そして、満月の光に照らされて、蝙蝠の群のように、スラム住まいの淫売婦が闇の中からぞろぞろと次々に涌き出て来る。


例によって「お金なんて持ってきてないよ! 金なら返せん!」──あれ、何か違った?──と追い払うと、

「金寄越せー!」

「今に見てろー」

「絶対に払わせたるで!」

「今晩とこはこれくらいで勘弁したるわ、ぺっ」

「満月の出てる晩ばかりやないでぇ?」

と口々に凄みながら去って行く。


それを見送り、

「……いや、オレ達、べつに借金なんてねーだろ……」

と呆れた顔で云うトヨキへ、

「あの子たち、ノリがいいわねー……」

とこんちこれまた呆れた顔で呟くトモコ。

マサまでが

「満月でなくても、べつに暗いとは限らないよ、ね……?」

と自信なさげにツッコむ。


エコが一人疑り深そうに

「あたし達が知らないところで、こっそり買ってたりしないよね?」

と顔を覗き込んできた。


「俺にだって、できないことくらい、ある」

と、明るく光を振り撒く満月から暗闇へ顔を背けながら、ぽつりと呟く。

マサに

「意味がわからないよ」

と困った顔でツッコまれたが、

「世の中、色々あるんだよ、色々とな……」

と、明るく光を振り撒く満月から暗闇へ顔を背けながら、ぽつりと呟く。


「ねえ、さっきからなんであの子のことチラチラみてるの?」

とエイコが怒りかけた雰囲気を滲ませて背後から声を投げかけて来た。

「え?」

「さっきからずっと笑顔で手を振ってるあの子、気に入っちゃったの?」

「え?」

「あの子、この前も最後まで居た子だよね?」

「え?」

「とぼけないでよぉ」

「え、そんな子いるの?」

エコに肘を掴まれてぐらぐら揺さぶられる。

「もー!」

「いやだな、怖い話は無しだよエコ」

「ねー!」

後ろから首に跳びつかれて、おんぶされ、腰を脚で挟みつけられたので、ここが踏ん張りどころだと、腰に力を入れて堪える。


そのまま腕で首も締め上げにかかるエコの攻撃に耐えていると、件の女の子が寄って来て

「ね~、そんなに締めたら彼氏イッちゃうよ~? もったいないからあたしにちょ~だい♪」

と挑発的に綺麗な笑顔を浮かべるのへ、

「バカじゃないの? ビョーキがうつるから、どっか行きなよ」

「休むのに邪魔だから、近寄らないで」

と冷たい言葉を投げつけるエイコとトモコ。

それを無視して

「あたしなら、もっと気持ちよく締めてあげるな~♪ ね~いいことしな~い?」

などなど、色々に言葉を連ねたり、くねらせた腰のくびれと対照的に大きなお尻を見せつけたり、無きに等しい肌着を更にはだけて見せたりして誘惑を繰り返す女の子だったが、遂にエイコが

「トヨ、弓矢、貸して」

と手を伸ばして、トヨが面倒くさそうに手渡すと、

「じゃあ、あなたの名前だけ教えて? あたしイクコ。イく子って呼んで?」

と最後に訊いて来るが、もちろん応えたりはしない。

「ざんね~ん、あたしイくね♪ また次通る時には教えてちょうだいね♪」

と最後まで愛想よく去って行く。


--


エコが採って来た草で、菰を作る。

隙間だらけのスカスカな菰だが、一応多少の風除けになるので、それで場を囲んだ。

トモが汲んで来た水を沸かした湯で、草汁を淹れて、啜りながら憩う。


今日最も敵の攻撃に晒されたマサに一晩熟睡してもらう事にして、最初にトモとエコに見張ってもらい、ぼくとトヨは眠り込む。

焚火と満月に照らされながら、夢も見ずに、ぐっすり眠り込む。


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