ラウタで夜に
「早く……寝なくちゃな……」
防具は兵営の壁に立て掛けて焚火で暖めたり、手甲脚絆みたいに夜露に濡れても良い物は背負い籠に積みあげたりして、胴鎧の中核部分(肩帯に連結した尻当・腰当・背甲・胸甲と腹当)だけは身体に着けっぱなしだ。
あとは腰巻腹掛け、念の為の草鞋履き。
それで焚火に当りながら、円座もどきの上に転がってる。
でも、なんだか元気が余っていて、旅の注意を語る司祭様の声が耳の底に響き、なかなか眠れないので、起き上がった。
「うーん……全然眠れないよ……エコ、見張り代わるから、寝ちゃっていいよ」
「そう? ありがとう」
そう云うと、エコが背中を合わせて坐る。
「エコ?」
「……」
沈黙が続き、背中が離れ、少しがさがさと音がすると、手が伸びて来てぼくの鎧を外し始めた。
見張りの邪魔をしてでも、今すぐしたいらしい。
眠ると思って諦めかけていたところへぼくが起きてきたので、我慢できなくなったらしい。
明晩のことを思えば、ストレスで狂おしい気持ちはわかる。
自分で脱いで坐ると、前へエコが肩につかまりながら腰を下ろして、密着した。
「あ……」
「おぅ……」
少し離れたところで当直に立ってる番兵さん、すいません、ごめんなさい。
できるだけ静かにします。
暫く、黙ってぴったり抱き合いながら、ぼくは見張りもしていた。
でも、明日の今頃は、息も潜めてじっとしてなきゃならないんだと思うと、焦燥感がじわじわと苛む。
見張り番の緊張が無く、背後の番兵さんの姿が目に入らないエコの方が先に動き出した。
彼女には好きにさせつつ、見張りも続ける。
自然なうねりに悠然と身を委ねるうちに、身体に沁みついた調息法が目覚めだし、天地合一の呼吸がクンダリーニを覚醒させる。
そこまで行けば、昔取ったる杵柄、慣れたもので忽ち一気に五つまで目覚め、エコの相手も見張りも余裕で同時にできた。
本来ならいっきに全通させるのだが、この身体でそこまでやれるか分からないし、今の状況で無理はする意味がない。
というか、そもそも全通で覚醒させるということは……
「ああ……ああ……」
「ああ、これはいかんな、益々盛んになって、眠気が欠片もないや……心臓への負担が……」
白目を剥いて、仰向けた唇の端からたらりと垂らしつつ、舟の上で揺すぶられるように揺れ動き続けるエコの體が、何度もビクビクッと痙攣する。
この覚醒状態がいつまで続けられるのか、今の自分には統御できるのか、昔とは何もかも条件が違っているので甚だ心許ない。
こころの奥底を引っ掻くような軋みが響きを上げて、瞼の裏に輝くピンクの蛍光ランプの輝きが360°発散する。
ぐったりと脱力したエコを抱いて支え、屹立する五重塔はぐらんぐらんと揺れながらも倒壊することなく悠久の時の重みに耐え続け、精気を無羅陀羅の灼蹄に一瞬だけ注ぎ込めば、失神していたエコが両目の裏からカッと白い輝きを放って覚醒した。
意識は無いままに。
「やはり、君には素質があったか……」
洞穴での反応から当然そうだろうな、と推察の正しさに満足して、一人頷きながら、確認は済んだので、彼女を改造してしまわないようにこれ以上はエネルギーを注ぎこまず、すぐに経絡を撫でて流れを調整し、穴から放出させる。
少しは残るだろうが、自然に吸収されるので問題ない。
見張りは続けている。
私自身の消耗が殆どない、その方が問題だ。
統御してばかりでなく、解放してやらないといけないが……難しい。
明日直面する緑道の労苦の後の、休みと云えないような長い休憩の間の忍耐を想う。
ひたすらひたすら、たとえ漏らしそうになっても我慢してじーっとじぃーっと息を止めんばかりに潜めて隠れ潜んで眠りそうなほど心臓の鼓動も抑え込み、プラーナが雲散して消滅しそうな気の薄さへ持って行ってそのままずっと保つ苦行に耐えねばならない。
付添人の指示で最初に潜んだ時の苦痛を、思い出すほどに背骨の髄から原初の獣が狂おしい叫びを上げ始める。
もう我慢ができなくなり、さっきから俺の肩に大量の涙と洟と涎の滝を垂れ流しているエコと横に臥して、エイコを愛おしく貪るように深く交わり激しく流れ込み溢れる流れを繰り返す。
胎の底から活を入れられたエイコが目覚め、泣きながら俺と同じような激しさで爪を立てて齧りついて来る。
淫欲の霊気が高まり、やがて逃れ得ぬ快楽を共有するに至った。
憑き物が落ちたように狂おしさが去り、エコが深い眠りに落ちてゆく。
俺も眠くなったが、見張りを代わると言った手前、一人で見張り続ける。
暫くするとトモトヨが相次いで目を覚ました。
とりあえず用を足しに行って、戻って来てから、見張りを交代してもらい、俺も休眠に入った。
--
夜明け前にトヨに起こされ、抱き着いていたエコと共に目覚めた。
なにか、夢を見た気がしたが、覚えていない。
昨夜は、今晩起こる事のストレスで寝付けなかったぼくはエコとそうしていたし、そのお蔭だろう、今朝はスッキリした感じがあるんだが……それだけだったっけ?
なにか釈然としない。
だが、もう皆起きていて、朝食準備やら水浴びやらで忙しく、深く考える閑はなかった。
まあ、きっと抱いたまま寝てて意識がぼんやりしていて、それで記憶が曖昧なんだろう。
どうせそんなとこだろ。
この先は、背負子はまた邪魔になりそうだし、ラウタで背負子をまた隠しておいた。
そうして内陸へ向かって出発した。




