二つ目の依頼へ出発
未明の真っ暗闇の中、松明を掲げたぼくが一足先に滑りやすい石段と橋を渡って、対岸で待機する。
まだ真っ暗だし、小雨だから、少しでも明るい方が良い。
マサノリも石段を下りる皆の足元を照らすように、上から松明を二本かざしてあげている。
松明を掲げたトモコがぼくの後から渡って来て、左の方に立つと、未だに臆病なエイコを勇気づける。
「エイコ、大丈夫。いつも渡れてる。落ち着いて、すたすたと、いつも通りに、渡るの」
「うん」
エイコはこの橋で何度か落ちかけたので、何年経っても未だにここを渡るのには勇気を奮い起こさねばならない。
この橋も、去年また新しくして、蹴ってもビクともしない頑丈な造りにしたのだが、やはりしっかりした手摺りがなくて未だに側方には自分で編んだ網を張っているだけなのがいけないらしい。
それを見ると、過去に落ちたのを思い出してしまうようだ。
一応は、手摺り増設案はあるのだが、まだ実行に移す閑がない。
エイコが無事に渡り切ったので、
「よーし、もう渡り切った。こっちへおいでー」
と左手で脇に抱き寄せて、安心させる為に彼女の身体をぴったりくっつけておく。
エイコが落ち着いたところでトモに交代してもらい、橋を戻ってトヨがやってる動物に荒されない為の戸口の戸締りを手伝う。
既に戸口の廂を下ろすところまで済ませてあり、あとは隠蔽工作だけだ。
真っ正直にやると雨でドロドロになるからやりたくないけれど、そうも言っていられないので、とりあえず
「じゃあ、雨だし、レーキでちょこっと土を盛っておくだけにするか」
「あァ、それでいいだろうなァ」
とトヨと頷きあって、なるたけ手足を汚さないように簡単に済ませる。
それが終わると、ずっと松明二本を掲げて明るく照らしていてくれたマサに感謝して、三人で次々に対岸へ渡り、藪を梯子で慎重に越えて、外へ出て行く。
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途中、仮拠点だった塹壕小屋が荒らされてないか、戸口だけ見て検め、問題なかったので今日は手入れはせずにそのまま出かける。
降りやまぬ小雨の中、松明が消えそうでハラハラしながら、でもそれよりも足元の滑りにもっとドキドキしつつ、中央道を速足で急ぐ。
暫くして坂道に入ってからは、慌てて転ばぬように、付添人に尾いて歩いた時の落ち着いたペースで登って行く。
松明を人数分だけ掲げて城門へ迫り、門内の番兵と門越しに問答して、小さな扉から身を屈めて入り、すんなり通過、神殿へ。
神殿では、戸を叩いても中々出て来てくれなくて不安になったが、やっと出てくるとテキパキと諸事確認して滞りなく済ませてくれたので、短い遣り取りの後に受け取った小荷物をトモコの背負い籠の中の安全な場所に確実に収めると、すぐに外へ出た。
サカヌキ村で新たにぼくが一人で請けた配達依頼の品物は、当然ぼくが自分の背負い籠にしっかり収めてある。
最後に全員で用をしっかり足しておいてから、城門へ戻り、出門理由をトモコが述べて、また開けてもらい、いよいよ出発。
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なんだか、雨が止んできた様子だが、相変わらず真っ暗闇で足元は滑りやすいので、安全第一で行く。
曇天の下を、さっき登って来たばかりの比較的歩きなれた坂道を下り、谷間に降りるコースをとる。
谷間の中央道に出ると、少し速足になって渓谷を下って行く。
あまり急いで、もしも暗いうちに先へ進みすぎてしまい、疲れてる時に大型獣などに遭遇したら危険なので、走らずに速足のまま進み続ける。
誰かが何か言い出さないうちは、止まらずに進む。
「松明、交換する」
と声が掛かると、自分のもそろそろだと考えて、新たな松明に火を移し替えて、古い松ぼっくりは捨てて行く。
曇天の暗闇の中、サカヌキ村の境界に到達したので、番兵に挨拶して、一旦ここで休止する。
色々と緩んでいないか、冷えて濡れた装備を松明と篝火の揺らめく明かりで照らして確かめる。
互いの装備を確認してから、少し段に腰掛けて休みを取る。
あまり長く休むと身体が冷えてしまうので、籠を置いて足を上げて血流を良くして、寝転がって軽く体操をしながら休み、起き上がるとまた装備を相互確認して、
「行けるか?」
「行こうよ」
と歩き出す。
サカヌキ村の境界の外へ出ると、最初は今まで通り速足だったが、体が温まって来ると、
「そろそろ走り入れよう」
と声がかかり、それで先頭を行くトヨキが
「じゃあ、10,50から」
と云って走り出すので、それに尾いて10歩走って速足に戻して50歩、また小走りで10歩、と繰り返し始めた。
また降り出しそうなどんよりした空だが、なかなか降らず、はっきりとしないまま、じわじわと曇り空の明るさが増してくる。
トヨはペースをゆっくり上げて行く。
小走り10歩,速足50歩のペースから、10,40になり、15,40を経て、小走り20歩,速足40歩になった。
それにつれて空を覆う雲の明るさもゆっくり増してくる。
「松明、そろそろ消そうぜ」
「うん」
「だね」
もう松明が無くても転ばずに走れると考えたトヨの判断で、全員の松明から古い松ぼっくりを足元に捨て、背負子……は用意していないので、各自の盾に張ってある紐の隙間に挿し込んでしまう。
ひんやりした弱風の中、小走り20歩・速足30歩の繰り返しに全員がついて行けるようなので、30分ほどそれで進んで小休止を五分ほど挿むペースで旅を続ける。




