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初の依頼を請けて 帰路、カスコヨの街からサカヌキ村を目指して

深夜に目覚めた。

エコも背後で目覚めたから、二人で用を足して戻って来ると、

トモコが

「みんな起きたから、説明するわね」

と前置きして、未明にカスコヨの街を進発して、今日中にサカヌキ村まで辿り着こうという方針を切り出した。

いきなりで驚かされたが、トヨもマサも了解済みらしい。


カスコヨの領域は割合しっかり街道巡回していて昼間の治安は良いし、暗いうちに治安の良い処を進み、明るくなり出してから危険な処を一気に抜ける予定という。

「うん、いいんじゃないか。正直、またあの野営地に泊まりたいとは、あんまり思えなかったんだ」

「でしょう。サカヌキ村まで行けば神官の方に助けてもらえるのかもしれないけれど、幾らかかるか分からないし、助けてもらうのが無理かもしれないし、ね」

「だよな」

「そうそう」

「荷物、大丈夫かな……」

エコが背負子をちらっと見る。

今は五人分の戈を野営に利用してるが、俺が一人で背負子の荷物とともに運んでいくんだよな。

ま、いざとなったら捨ててもいいんだ、また。

「心配するな、俺は大丈夫だ」

「うん……わかった」

「じゃあ、いいわね、みんな?」

「ああ」「うん」「おう」「ええ」


よし、全員一致で決定だ。

今日中に頑張ってサカヌキ村まで走り抜くぞ。


「腹ごしらえをしておかないとな」

「いえ、もう昨日の内にしっかり食べてるから、今は簡単に干し魚の残りを炙るだけよ」

「分かってた」

「元気になるお茶淹れるから、それで頑張って」

「おう、有難うな」


「走ると決まれば、背負子なんか無い方がいいな」

とマサが言い出したので、それじゃあ、と持ち帰りたいものを、少しだけ背負い籠に移す。


当面不要な素材類も外し、戈五本も外して、それぞれを束ねて紐掛けする。

再訪時回収の可能性を慮り、裸足で下から見えづらい上方の枝まで登り、下から焚火で照らされていても暗い中で、それらの束や畳んで縛った菰などを順次引っ張り上げ、枝に乗せたり吊るしたりして、結わえて来た。



それから自分の履物や鎧各部を点検し、引っ掛かりがないか確かめる。

少しのトラブルが生死を分ける事になるから、可能な限り滑らかに走れるように、走行振動下の重心の揺れに気をつけて微妙に補強材の挿入位置を調整していく。


「そろそろ出たいんだけど……」

まだ空が真っ暗で満点の星空の下、トモに急かされ、ふぅーっと息を吐いて心を落ち着ける。

ミスや忘れ物が無いように、いつもの順序を心掛けて、防具を着装してゆく。

装帯の蔓籠なども細かく調整し、出来た。


「できた」

「忘れ物は無いわね?」

「ああ」

「じゃあ、焚火を消すわよ、松明を点けて」


パチパチ、メラメラと燃え上がるのを見て、焚火に壺の水を掛けて消す。

燃えさしは広場の隅へ置いておき、出発する。


--


未明のうちに早くもカスコヨの街を出たぼくたちは、先頭でマサが松明をかざして、街道を南西へ速足で急ぐ。

真っ暗闇の中への進発で不安ではあったが、意外とこんな時刻にも街道巡回は行われていて、最初は遠くから対向で接近してくる松明に緊張したが、出会って挨拶して、トモコが旅券と依頼札を見せて説明すると頷いて、

「この先で危険な獣が日中に出たという話があるから、遠方が見通せない夜間は特に気をつけていけよ」

と親切に忠告された。

きっとあの獣の事だと思いながら、道を進む。


次第に身体が温まって来ると、小走りに40歩駆けると、速足で40歩進むという進み方を試してみた。

トモコがどこぞで訊いた方法らしい。

だがやってみると、ぼくたちの中には少しきついという声も上がったので、色々と試した結果、結局は20歩小走りに進んでから30歩速足で進むペースで安定した。



幸い、往路で必死に逃げることになった恐ろしい獣に見つかる事もなく、朝にはジンメ渓谷のくびれ目の手前の野営地前に到着して、休憩した。

野営地の中の安全を確認し、見張りを立て、跳ね釣瓶を動かして川の水を汲み上げ、街道脇で沸かし始める。

野営するわけではないので、見張りのトヨに命を預け、いつでも逃げ出せるようにしながら最小限の休憩だ。


「ここからだな、危険なのは」

「まだ討伐されてなかったんだね」

「付添人と司祭様が必死に逃げたくらいだから、相当ヤバイのが山の中にうろついてるって怖いなあ」

「さすがに明るくならないと無理だけど、そろそろ遠くも見えやすくなってきたから、タイミングは計算通りでしょ」

「うん、あとは逃げ切る、走り切る体力勝負だから、今のうちに水をしっかり飲んでおこう」

「まだ沸いても居ないから、ちょっと待ってね」


焼石で壺に沸かした湯を各自の湯呑に注いで、海藻を噛んで水分と塩分の補給をする。

俺とマサとエコがトヨと見張りを交代して、トヨを休ませる。


暫く休んで、充分に明るさも増したところで、愈々ジンメ渓谷のくびれ目めざして突入することにした。


松明はもう要らない。

ここからはトヨが先導し、エイコとトモが並んで続き、マサとぼくが後ろから追う。


少しずつペースを上げて、小走り20・速足30のペースに復帰する頃にはくびれ目に入り、何も不審な影は見えぬままに、上流へ、上流へと休まずに一所懸命足早に進み続ける。

ぼくは右側のトモの後ろを走ったので、右側後方を警戒していたが、何も出なかった。



何も出て来ないまま、サカヌキ村からの最初の野営地に辿り着いたが、小休止して安全確認後、再び進み始めた。


その後は駆け足気味の速足のまま30分毎に5分警戒小休止のペースになり、一度だけ野犬5,6匹の小さな群れが追跡してくるのと遭遇したけれども、マサとぼくが立ち向かっていって鎧袖一触、4匹ほど殺戮後に逃げ出した残りは追わず、石斧から犬の血を垂らしながら休みも取らずに進み続け、太陽が山の端に沈む頃、やっと無事にサカヌキ村の防衛線の土塁に至った。

往路では通らなかったし、ぼくたちにとっては初めての場所で、番兵に確認されて、無事通過。

安全圏に入ったので、小休止後、小走り10・速足50のペースに落として進み出した。



まだ暫く速足に進み続けて、何度か小休止を挟んだ後、もうかなり薄暗くなっていたが、上弦の月の光に照らされて進み続け、とうとう見覚えのある農場まで辿り着いた。

見覚えのある中央道の風景だ。

風が、懐かしい冷え冷えとした山の匂いを運んでくる。


そのまま脇道へ入って、坂道を登って尾根に上がると、もう上弦の月が左手の峰々の上に傾いていた。


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