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初の依頼を請けて 帰路、カスコヨの街で店を見物

カスコヨの街の繁華な朝の市場を出て、次は店を見に行くが、一旦休憩を挟む。

壁際の荷物の周りに円座を敷いて腰を下ろし、スリや引ったくりを用心して、口数少なく周囲を警戒しながら休み、暫くして立ち上がり、籠を背負う。

ぼくは五人分の戈を縛り付けた背負子もある。


店は市場の区画から続く通りの両側に、間に一、二軒の家を挟みながら並んでいた。

そもそも店の数が多くない。


薬くさい匂いが漂ってきた。

近くに寄って、

「なんだか、ずいぶん人が並んでいるわね」

「薬屋だってさ」

「よく効きそうだね、あの行列は」

薬屋は繁盛していて行列が長い。

客一人一人に時間をかけて、その場で処方しているようだ。

それは時間かかるだろう。


二階の小さな窓の前に、虫除けの草花を鉢植えに容れておいてある家が多い。

日が高くなってきたので、家の壁に斜めに陽光が射して、花が明るく赤紫色に透けて輝いている。


仕立て屋がある。

こちらはカウンター方式ではなく、道から少し中へ入って腰を掛けられる。店の者が一人のお客に応対している。

お客の身なりも、その前に広げられている数々の布地も、それが掛かっている衣桁なども、実にお高そうだ。

「住む世界が違う、って感じ」

「それよ、それ」

「本当に、溜息出ちゃうわ……」

「稼いで連れて来てやるよ、今に見てろって」


路の反対側には道具屋があった。

職人の手になる高級な道具ばかりだが、宝飾品や酒、家具・建具などの上質な品物も扱っていた。

小型の百貨店というべきか。

一つ一つの質感が違う。

値札が出てないのが恐ろしい。

宝石が宝飾品としても扱われているのを見て、何がなし安心を覚えた。


その近くに間口の小さな家が並んでいた。

変った構えの家だな……何だろう、と思ったら廂の上の看板に両替と書いてあった。

いずれは出入りする日も来るかもしれない。


通りの奥の方には、工房もあった。

中からトントン、カンカン、シャーシャー、ゴロゴロと工作する音が響く。

狭い戸口に小さなカウンターがあり、客の相手をする番の小僧さんが立っている。

「此処は、どんなものを作ってるんですか?」

「ああ? 荷車から、家まで、木の事なら任せな」

「おお、凄いんですね。食器とかそういうものも?」

「ん? いや、小物は別で扱ってるよ、うちはもっと大物」


そこより先へ行こうとして、通りの奥の角を曲がる。

すると、小型の城門みたいな門が閉まっていて、番兵の一隊が監視していた。

「ここはもしかして、お殿様の御屋敷なんですか?」

「そうだ。入るんじゃないぞ」


既に或る程度見て回り、少し疲れたので通りを引き返して、市場の脇を抜けて、広場へ戻った。


--


お昼前に、再び食事をして腹ごしらえをした後、水浴びに行ってから、真昼の眩しい広場で一休み。

海辺の広場で木蔭に場所を取る。

菰でこじんまりと周囲を囲い、腰巻とキンタロ腹掛けだけで涼む。

日向に戈と盾で物干し台を設けて、脱いだ装備などを出して、お日様と潮風でカラカラに乾し上げている。


「さすがに街だね、繁盛してる」

「箒や塵取り、籠くらいなら、あたし達のでも商品になりそう」

「いや、職人の技はやっぱり違ったよ。まあ、安いのはともかく」

「でしょ? 安いのを売れば、少しは売れるんじゃない?」

「競合すると信用で負けるし、売れ残りを持ち帰るのは大変なんだぜ……」


少し駄弁りつつ休憩していたが、ぼくは板草鞋に足を通すと、つと立ち上がった。


また兵営へ、今度は依頼を見に行った。

帰路にシズの官舎やラウタの兵営でも見ていたが、これという好い依頼は無かった。

カスコヨの街なら何かあるかな、と思ったのだが、カツトやヤガドホの村々、ワサジフの街といった知らない名前の目的地ばかり並んでいたので、無理だなと思った。


一応皆のところに戻って相談してみたが、エイコがカツト、トモコがワサジフの街の名を知っていたくらいで、それぞれラクマカより北と西の先へ行った処に在るのは分ったが、方向が逆だし、今回は無理だと意見が一致した。


そもそも、まだこれから無事にサカヌキ村へ戻れるかどうか、それすら分からない。

前回は魔物の群が居て、穢れに触れてしまい、偶々同行する依頼者が司祭様だったから良かったようなものの、そうでなかったら一体どうなっていたのか、想像もつかない。


明日は早く立って、またあの野営地を目指す。

今日は早く休んで、充分に鋭気を養わなければならない。



午後、一休みした後。

少しでも滋養を付けようかと考え、物は試し、スープを食べていこう、と日が翳りだした市場へもう一度行った。

またトヨエコぼく、午前と同じ面々で、つっかけ草履と腰巻とキンタロ腹掛けに胴鎧の中核部分だけ、懐をスられにくくする為に装着して、装帯も締めて菰から出る。

予め値段は把握しているので、各人からなけなしの銅貨を徴収しておいてぼくが握って行き、値段を再確認して、ほぼ持ち金ギリギリの支払いをして、野菜スープだけ貰った。


量はともかく味にはそれなりに満足して、三人分の皿を返して銅貨三枚を受け取り、小銭を受け取った掌の中に握ったまま市場を出て、トモとマサが待っている広場の菰の中まで戻って来てから分配した。

スリに懐から巾着を取り出しているところなんか見られたくなかったので。


「あー、トモからおかねをもう少し貰っていくんだった」

「え」

装備を脱いでまた乾しながら、

「お代わりしてきたかったよ」

「お、そんなに美味しかったの?」

「それなりに旨かった」

「いや、それより、日頃摂れてない栄養が摂れた感じがして、身体が元気になりそうだからね」

トモとトヨが

「じゃあ、あたし達はお代わりしてくるわ」

「オレはもう一度行くしな」

「え~狡い」

「あとでもう一度行かせてよ」

「オレは戻ってきたら休むよ?」

「じゃあ、ぼくが行くよ」

「あの、おかね、そんなに持ってきてないからね? お代わりなんて冗談だから、ね?」

「ええー!」

がっかりするマサを連れて、トモトヨが市場へ行くのを見送り、エコと交代で荷物番をする。

少しずつ白い小さな雲が出始めて来たが、空は良く晴れている。



その後マサ達が戻って来ると、この日は早いうちからもう居眠りをして、美しい夕焼けも見ないで菰の蔭でエコとだらだらし始め、見張りだけは交代で立てながら、その晩はぐっすり眠り込んだ。


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