初の依頼を請けて 帰路、ラウタで一休みしてカスコヨの街へ
翌日は、海で個人消費分だけ漁をして、まともに食べて休んだ。
文句を言われてしまうほど一度に沢山取らなければ良いわけで、腹が減っていたから、朝と昼と午後の三回、トヨはトモと一緒に海辺へ元気に漁へ出かけたが、漁師さんに許されていたのは基本的に魚だけだったので、持ち帰って来たのは魚と、ついでに少量の海藻だけだった。
トモは地味に海水を壺に容れて持ち帰り、焚火と焼石でどんどん沸騰させて煮詰めては苦い海塩を得て、エコに火の番を任せて小さな壺へ収めて更に乾し上げつつ、またゆっくりと海水を汲みに行った。
エコは、ぼくが突き殺した盗賊から剥ぎ取った、腹が裂けて血塗れだった長袖の貫頭シャツの一部を使って、手拭を作ろうとしていた。
針と糸が無いので即席で準備しようとして、魚の背骨から伸びている骨を切り取って洗い、糸を引っ掛ける溝を削り、糸はシャツの裂けている辺りから一本ずつ抜き取り、洗って裂いた布切れの端の始末をつけようとして、糸が外れやすい針でチクチク縫っている。
マサは柴刈で出ていて、ぼくも午後からはトモと潮汲みを交代した。
午前中は、ぼくも最初のうちマサと柴刈をしていたけれど、途中で一人で散歩に出た。
盗賊の男から剥ぎ取った古ズボンをちゃんと履いて久しぶりに少し文明人っぽい気分になったが、あとはキンタロ腹掛けだけで、裸足だった。
ぶらぶら村中を見て回っていると、随所で村人に出会うので、のんびり気分でまだ駆け出しの傭兵だと自己紹介し、あちこち廻って来た近隣の土地の現況を知っている範囲で喋り、興味を持って色々訊いて来る村人の好奇心にできる範囲で応えた。
「ほお、ラクマカの近くには、そんな恐ろしい化け物が出るのかい」
「ええ、うちのも一人、危うく焼き殺されそうになりましたし、ぼくも、ほら、頭が何か変でしょう、髪型が」
「うん、そうかあ、良かったなあ、オメーさんまで焼き殺されなくて」
「いや、仲間は死んでませんよ」
「そうだったか、アッハッハッ」
そこへ小母さんが
「まあ、一杯どうかね」
「あ、これはどうもご丁寧に。何もお返しできませんし、いやいやいや」
「まあまあまあ」
そんな感じであちこちの家で、お茶が出てくるたびに「あっ、それじゃそろそろ」と手を付けずにお礼を言って立ち去り、散歩を続けた。
そうしていると、村の隅の方にある、一軒のこじんまりした家で、生垣越しに、あの少女──ワカコちゃん、だったと思ったが違うかもしれない──が日向ぼっこしながら糸繰りをしているのを見つけた。
平和な顔で、手元に目を落として、繭から引き出した糸を、手にした赤ちゃんのガラガラみたいな感じの道具に巻き付けていく。
とりあえず今は問題無さそうだな、と思って通り過ぎようとすると、目が合った。
「あ……」
「元気?」
「ええ……」
「彼とは幸せにやってる?」
「はい」
「それなら良かった。じゃあね」
「あ……」
繭を持った手を上げて、何か言いたげに口を半開きにしていたが、言葉が洩れて来ることもなく、ぼくは生垣の先へ立ち去った。
そうしてのんびりと栄養をつけながら気候に身体を慣らし、塩分も採取して、次の日も早朝のうちに充分に栄養をつけてから、カスコヨの街へ向けて裸足で出立した。
カスコヨの街までの道程は、今度は羊の群も居らず、当たり前のように平穏無事に到着した。
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カスコヨの街。
夕刻に町に着いた。
相変わらず人や行き交うロバや大蜥蜴などで賑わう街路だ。
念の為に履物を履く。
城門には行列が出来ていたので並び、ここで初めて旅券検査を受けた。
行列の前の人に訊いて、旅券を見せて、身体的特徴を確認されるというので、待機中にスリや引ったくりに用心しつつも武装を外して肩の後ろの烙印とか顔や上半身の概形などが一目瞭然にしておいた。
行列で幾らか時間がかかったが、無事に中へ入れた。
すぐに城壁を背後にして警戒し、懐に旅券を仕舞い込み、また装備を着装する。
空は青く暗く沈んだ色に変わり、白い層の下には夕暮れの茜色が水面に降りている。
別に大して汚れてもいないから水浴は明日にして、先ずは官舎へ許可を取りに行き、潮の匂う夕風が吹く広場に陣取りする。
広場に生えている大木の縁の下辺りに、背負子から柴の束を下ろして焚火を熾し、長く繋ぎ合わせた菰で周りを囲み、内側に立てた背負子や背負い籠で留めた。
地面に菰を敷いた上に、草束の渦巻、別名円座もどきを各自の座布団代わりに置いて、腰を下ろす。
広場の端の岸壁に釣りをしている人々が居るのを見て、トヨが
「あ~、釣りがしてえなあ……」
「結局、糸とかずっと作らずにここまで来てるもんなあ」
「いや、糸はあるよ、オレ持ってる」
「えっ、あったの? いつ?」
「前にトモが作ってくれた」
「ほおー、知らなんだわ……」
「ただよ、針が無えんだ」
「なんだ、それなら帰れば余ってる細骨で作れる。言ってくれたらもっと前に作ったのに」
「いや、ずっと忙しかったじゃん、細骨も棘にするので忙しかったろ?」
「あ~、ま~ね~……」
「ま、今度頼むよ」
「ほい、了解」
「それじゃ、獲って来る」
「いってら~」
その夜は返しのついた矢に細紐を繋いだトヨが弓で仕留めた魚で食事をした。
「今日も御馳走様」
「はい、御茶」
「有難う」
エイコから草汁を貰う。
「明日は市場を見て回りたいけど、荷物が心配だなあ」
「まあ、気をつけるしかねえな」
「はい、お代わり」
「お、ありがと」
「どんな物が売ってるのかしらね」
「やっぱり布とか道具とか野菜とか」
「何か果物売ってないかなあ」
夜の見張り番の後、装備点検している際に、脚絆の紐が一部切れているのに気づいた。
普通に修理したが、殺した盗賊の手甲も貰っておけば、麻紐が使えたかな。
汚れてても洗えば良かったし、少し惜しいことをしたか。
ま、もう済んだ事だ。
次の機会があれば、ああいうのも……でも結局のところは嵩張るからやめたんだっけ。
そんなことを考えながら、自作の紐で繋ぎ直していく。




