初の依頼を請けて 帰路、ラウタに泊まる
やはり、先手で殺した後は、後味が良くない。
特に、殺した後で、こいつらは放っておいても俺達を殺さなかっただろうな……と考えられる場合はそうだ。
しかし、生かしておけば通過する度に俺達の情報が敵に蓄積されるわけで、それは将来必ず俺達の死に繋がる。
放っておいても今は俺達に襲い掛からなかったかもしれない。
でも、将来もっと確実に勝てる状況で俺達に襲い掛かっただろうと考えられる。
結局、俺達は今あいつらを殺すことで、俺達の明日を買ったのだ。
よし。
何も良心の咎めを感じる事は無い。
死にたくなければそもそも盗賊の仲間になるなって話だよ。
死ね。
大体、ほっときゃあいつらはいずれ必ずトモやエコを玩んでボロ雑巾みたいになって病死するまで放置したに違いねえんだよ。
そういう手合いなんだよ、あの手の連中は。
なんで俺があんな奴らのことで、厭な想いなんかしなきゃならねえんだ。
ふざけんな。
ああいう連中を生かしておいたって、更生なんかするわきゃねーんだよ。
何が更生だ。
寝言は寝てから言えボケが。
そんなに更生の可能性を信じてるんなら、お前の家で監視してみろってんだ。
他人にやらせんな。
他人任せにして、自分の手は汚さない、苦労を知らない。
だからいつまでもおつむがお花畑なんだよ。
悪は賊だけじゃねえな。
悪党の更生の可能性には配慮するくせして、必死に努力している庶民の事情は知ろうともせずに、心太突きみたいに判を押したようなバカの一つ覚えの対応で、一寸の瑕疵でも見逃さずに庶民の家族が最も大切にしてきたものを踏み躙りやがるんだよ、あの手の法の番人気取りのバカどもは。
なにしろ、老人をその憩うべき自宅から無理やり拉致して軟禁してボケさせたんだからなあ。
それも、当事者に一切なんの説明もなく。
説明せずに拘束するのは不法行為じゃァねえのか?
あと、健忘症の進んでる高齢者には一度だけの説明じゃ駄目だって、一体いつになったら官憲は理解するんだ? そのおつむの中には脳味噌入ってねえンじゃァねえのかぁ?
家族の誰も望んでない、むしろ最も嫌がっていたことをやりやがって。
愛する家族から引き離して介護施設に軟禁なんかしたらボケるに決まってンだから、やめろと抗議しようとしても聴く耳もたずに、それどころか家族との連絡を妨害して、家族をつんぼ桟敷に置き去りにして、自分たちだけで処理しやがって。
ボケたら抗議できねえから、やったもの勝ちだって、え?
本人に一切説明なく拉致して軟禁とか、まるで北朝鮮や中共の支配領域そっくりだなあオイ!
『保護』名目で拉致軟禁とか、今ならウクライナの子供に対するロシアの非道で悪質な手口と云ったら分りやすいですかね?
高齢者は包括支援センターつまり介護業者の金蔓扱いかよ!?
警察も市役所の介護関連の課も包括支援センターもグルなんじゃねえのか?
警察や高齢者いきいき課とか言う名前のふざけた連中は、高齢者を包括支援センターの施設に一人送り込む度に、キャッシュバックでも懐に入れてるンじゃァねえのかァ?
ボケさせて抗拒不能にしてから解放、とか公務員がやることかよ!?
特殊公務員暴行陵虐じゃあねえのか、それは?
特殊じゃなくて一般公務員の場合はどうなんだ、あ!?
証拠がねえからやったもの勝ちィ!?
そうかよ、社会が、法がテメーらを裁かねえってンなら……
死ね。
むしろ殺す。
絶対に許さねえ。
産まれてきたことを後悔するような拷問を加えてやって、お前らがしたことをその身に返してやるぜ。
確定的に明らかにボケると傍目に分かり切ったことを強制してボケさせたんだ。
自分がそうされても、文句言えねえよなァ?
テメーなんか、抑えつけてスタンガンで大脳新皮質を焼いてやるよ。
命まではとらねーで勘弁してやる。
目には目を。歯には歯を。
それであいこだろ。
誰にも裁かせないってこたァ、俺とテメーとサシでケリつけようぜ、と言ってると同義なんだよ。
その覚悟がねえ奴が調子ブッこいてンじゃァねえぞッ!!!
今すぐにそうしねえのは、まだ親が生きていて世話しなきゃならねえから、だよ。
精々うちの親が長生きするように祈ってろ。
俺は一度本気でやると言った事は大概やる男だ。
スズメバチの巣も自分の手で「森へお帰り」してやったしな。
俺は失うものなんかあんま無ェンだから、必ず報復に行くぞ。
その日がテメーのお終いの日、終末の刻、最後の審判の日だ。
また、何か俺の胸の中に眠っていた古い怒りが目覚めたような気がしたが、俺には怒りの元になった事の覚えがなかった。
少し、不思議な気がした。
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その後、ガントリッシュ緑道は無事に通過し、また潮風が鹹く香るラウタに到着した。
広場に直行して、兵営で許可を貰い、広場に僕たちの居場所を設けて、一休みした。
もう夕暮れだったので、水場で汚れものを洗ってさっぱり清潔にしておいて、メシは後回しにして、とにかく休んだ。
ここまで来るとお天気は回復して、西の空には晴れ間が広がり、三日月が出ていた。
見張り番に起きるたびに、少しずつ乾燥食糧を炙って齧り、水を呑むだけという晩飯の在り方、まあ旅をしていればそういう日もある。
でもやっぱり、ラクマカで食べたいだけ食べていただけに、空腹が堪えた。
三日月みたいに痩せそうな気がしてくる。
一晩中、腹の虫がうるさかった。
水場は、往路ではたしか水温が快適に感じた筈なのに、今ではなんだか冷たく感じた。
温暖なラクマカに慣れてしまったようだ。
暖かさに慣れてしまった身体を、今度は逆に冷たさに慣らす必要を感じたので、ラウタで一日休みをとることにした。
「ラクマカで請けた依頼の期限はだいじょうぶ?」
「一日くらいならね」
「どうせ途中留まるのなら、カスコヨの街を色々見てみたいんだけど」
「大きな街はどんな危険や面倒なルールがあるか分からないし、休むならここが安心だよ」
「ラクマカも大きな街だったけどね」
「あそこは例外だろ」
「まあまあ、カスコヨも一日くらい休み入れてもいいんじゃないか? ぼくたちお金が無いから、冷やかししかできないけどな」
「たしか、カスコヨもラクマカのような店は無くて、サカヌキ村より大きな物売りの市場があるだけでしょ? 冷やかしったって……」
「いや、店があるらしいよ」
「店ってなんだい?」
「品物を建物の中に置いて、道端から通りすがりに眺められるんだって」
「ふうん? 物売りと何が違うの?」
「さあ……見た事無いから……」
「まあ、とにかく、それなら後学の為にもカスコヨの街でも一日見て回ろうよ、用心を絶やさずにね、もちろん」
「スリっていうのが居るらしいね」
「ああ、聞いた事ある。気づかないうちに懐のものを盗み取っていくんでしょ? なんだか怖いね」
菰の外へ用を足しに出ると、暗い夜空の星の瞬きは、その広がりを増していた。




