過ぎし暗く寒い冬を振り返る 武具づくり1 弓
ぶちッ!
バシッ!
「あッ!」
マスクが吹っ飛び、壊れたが、そのお蔭かどうか、目はやられずに済んだ。
「大丈夫かっ?」
「おいっ?」
マサとトヨも心配してくれたが、鼻の横に小さな傷がついただけだ。
「大丈夫だ」
「一応傷に薬つけてもらってこいよ」
「ああ、わかった」
弓を張ってみたのだが、弦が切れてしまった。
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冬は草も枯れるので、新たに色々手仕事しようとしても、限界があった。
それでも、乏しい、劣った質の素材を使って、どうにか作ろうとしていた。
しかし吹雪が続いたあとは、世界が一変してしまったかのように、白銀の世界に変わっていた。
数日間晴天に恵まれたが、深い積雪の為に、もはや素材採取すらままならなかった。
水分補給にだけは困らなかったが、拠点の敷地内がまずあちこち雪が溜まっていたので、それを片づけないことには、土塁の先へ便壺の中身を空けに行くのも困難だった。
水を汲む必要はなかったが、橋が心配だったので、石段と橋の除雪をする。
折角掘った石段も滑りやすくなっていて、丹念に雪掘りをした。
橋も対岸も雪で埋まっていたが、幸い橋が折れては居なかったので、橋から落ちないように気をつけながら、これも慎重に除雪する。
「これさァ、もうこうなったら盗賊とかも来ねェだろォ……」
何もかもが深い雪に埋もれているのを見て、トヨキがすっかり投げやりになった表情で言い放つ。
「いいから、雪を掘る作業に戻るんだ……」
今は一個の『雪を掘る機械』になり果てたぼくが、ノロノロとゾンビのように動きながら、表情が抜けた顔から声を出す。
「ああ、本当、ここに来るまでもなく引き返すよねえ、この雪じゃ……」
作業小屋を片づけているマサも溜息をつく。
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「やっぱり武器が欲しいなァ、敵を一発で殺せるのがよォ」
「木の槍でも突き殺せるじゃん」
「助走つけないと突き刺すのは大変だし、外したらお終いじゃない?」
「そうそう、怖いよね~」
「こんな雪の中じゃあ走って勢いつけることなんかできないよ」
「投げたら?」
「重いっ」
「弓でさァ、バシッと射ち貫くとかいいじゃン」
「いいねえ、作ろうよ~!」
こいつら……
「弓は矢が消耗するし、貫通するほどの力で弓を張るなら、使える木が限られるんだよ、それに……」
「いいから作ろうぜッ」
「おー!」
雪掘り作業を止めて家の中へ戻り、炉の火で暖まりながら、駄弁る。
話題は、この冬の間に作りたい武具だった。
ぼく以外は弓矢への憧れが強いのを知った。
問題は、今の季節は手持ちの材料以外は、そんな遠くまで取りに行けないってのと、そもそも誰も弓矢の作り方なんか知らないということだ。
色々な木を試してみたかったが、無理なので、とりあえず既に薪として採って来てある木材から適当に靭そうな材を選んでみた
今までに見た弓を思い出して、
「たしか、こんな感じじゃなかったっけ……?」
「それじゃどこを持つんだ?」
「うーん、じゃあ……」
と地べたに落書きを繰り返して、アイデアを纏めていった。
そうしてアイデアに基づいて、材を丁寧に割いて、板バネみたいな平べったい感じになるようにひたすら石鑿で材を削っていった。
それを実作するのは勿論ぼくだ。
こいつら……。
或る程度薄っぺらく、見るからに板バネっぽくなったところで、樹皮の紐を試しに張ってみたが、ぶちっと切れてしまった。
さて、どうするか……。
困った時には、知っていそうな人に訊く。
勿論、小部落のお爺さんが第一候補だ。
しかし雪が深く積もっていて、それほど遠くなくても、なかなか行けなかった。
とりあえず、もっと強くということで、六本の樹皮紐を丁寧に編み込んで、組紐のような弦を作った。
その両端に予め環を結んでおいて、弓の両端に残した突起部へ引っ掛けて、二人がかりでどうにか張れた。
だが、引いてみると、非常に硬く、しかも弓の上下で微妙にバランスが悪い。
それでまた苦労して弦を外して、全体に削る中で硬い方を少し多めに削り、また張って確かめ、と何度も微調整を繰り返した。
やっとまあまあ良くなったので、弓は一応出来た。
次は矢だが、ここら辺には葦が生えている湿地があるので、それを使うことにした。
葭簀にも使ったので、少し減ってしまっているが、まだまだ生えている。
ただ、雪の中を取りに行くなんて冗談じゃない。
葭簀張りにした屋根が壊れたのがそのままだったので、それを回収して再利用するのがとりあえずは手っ取り早かった。
矢につける羽根は持ってなかったが、とりあえず軸だけで試し射ちすると、思ったよりも良い感じだったので、ここに弓が一張完成した。
ただ、レーキの頭が緩んだ件もあり、材は乾燥させないといけないんじゃないか、とトモコに言われて、成程と思ったが、雪に降り籠められて退屈していた皆の玩具として、鏃のついていない矢が何度も家の戸口の前に置かれた草束へ射込まれる事になるのだった。
拙作をお読み頂き、実に有難うございます。