初の依頼を請けて 帰路、ガントリッシュ緑道へ
野犬との遭遇後、速やかに離脱したのが功を奏したか、その後野犬とぶつかることもなく濃霧とともに低地の藪道を脱して、登り路に入った。
いよいよガントリッシュ緑道だ。
緩やかに少しずつ高度が上がる中、雨が降り出した。
冷たい雨だ。
雨の中を進み続けたが、さっきの戦闘の疲れもあり、岩陰を見つけて入ると、シズを出て以来、今日初めての小休止をとる。
生憎の天気でもあり、時間の感覚があやふやになってしまっている。
忘れていた日除けを取り出し、ヘッドギアに取り付けた。
シズを出る前に、どうせ藪道で野犬に噛み砕かれると思って取り外して仕舞い込んでいた。
一応雨避けになるように、幅の広い葉片を背後へ垂らして、首筋が濡れないようにできる。
誰も口をきかず、黙って腰を下ろし、耳を澄ませて、目を凝らして、ひたすら警戒している。
どこかに盗賊が伏せているかもしれない。
最悪、竜の足音が響いて来るかもしれない。
恐怖。
--
マサが雨の中を立ち上がり、続いて皆も立つ。
耳を澄ませるのをやめずに、目だけで軽く「行くぞ?」「おう」と遣り取りする。
足音を立てないように、盗賊は少数なら即トヨの射撃から入って、罠に嵌められないように注意しつつ撃退、為し得れば殲滅、竜の足音が響いたら全力逃走、とにかく今晩の休憩地点まで無事に辿り着くこと。
出立前にガントリッシュ緑道での行動要領は共有した心算だが、皆はちゃんと頭に入っているだろうか。
とにかく、一歩一歩、足音を響かせないように慎重に、用心して警戒を絶やさずに進む。
見つけられる前に見つける。
罠を看破する。
逃げ道を確保。
生き残る為に不可欠な条件だが、能力に大差ない人間同士の場合、少しの隙で生存条件を失う。
偶然今近くに居るのが狡知に長けた経験豊かな人狩り狩人かもしれない。
油断は死に繋がる。
ザーッと雨が強くなってきた。
厭だな……雷雨にならないと良いが……。
こんな起伏の少ない、なだらかな山で雷雨とか、どこにも逃げ場がないから溜まったもんじゃない。
雷を喰らったら一溜りもない。
精々が荷物を身体から離して(突起物になるから)、身一つで少しでも窪んでるところにぴったり伏せて、雷雲が去るのを願うことくらいしか出来ない。
雷雨になるなよ~……
戦々恐々としつつ、広々とした緑の絨毯の中の街道を、ザーッと降る強雨に打たれてびしょ濡れになって、一歩一歩登って行く。
ぼくたちは小休止をとるのを少な目にしたつもりだが、ガントリッシュ緑道で往路にどのくらいの間隔でとったかをもう覚えておらず、本当に少な目だったのかは分からない。
雨は小降りになり、休憩地点に辿り着く頃にはやがて止んだ。
こんな悪天候だと、盗賊も嫌気がさしたのだろうか、全く姿を見せなかった。
司祭様の付添人がやったように、少し行き過ぎてから大きく円を描くように警戒しながら戻り、追跡者が居ないのを確認してから、街道の上の方の岩場へ入り込み、繋ぎ合わせた菰を岩から岩へ張って天井にして、窪地の隅で用を足し、暗くなる前にもう一度済ませ、あとはずっと岩の狭い隙間に身を押し込んで、息を潜めた。
--
夜中、再び雨が降り出した。
菰越しだからまだマシ、直接冷気や冷たい雨に晒されてはいない。
それでもじわじわと体力を奪われる。
こんな冷たい雨は竜だって厭なんじゃないかと思うが、分らない。
雨の所為で、岩場の外の気配も分りづらく、結局は夜明けが来るまで潜み続けるしかなかった。
夜明けになったので、小雨が降り続いているが、乾燥食糧を削って口にして出発準備。
出立直前に天井にしていた菰を取り去り、ぼくの背負子に括り付けた。
戈も相変わらずぼくの背負子に縛り付けてある。
足音一つ立てぬように気を配り、砂利一つ蹴とばすのも控えるようになった今となっては、暢気に杖をついて歩こうなどとは欠片も思わない。




