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初の依頼を請けて 帰路、シズまで

「右、下ろして、左、漕いで」


筏の操船は、波に揺られるのに慣れるだけでも大変だったが、幸いにも誰も転落も怪我もせず、次第に筏で海の上や水中に居る事にも慣れていった。

左右に櫂を下ろして、骨格の上で安全ロープを腋の下に巻いて後ろ向きに座るぼくたちは、櫂を操る要領を掴むと、後方中央に陣取るトモコの指示で筏を操り始めた。

波音がうるさいので、基本的に黙って身振り手振りでの指示だ。


シズまでは湾内でも安全圏だが、岩礁が牙を隠している場所もある。

そこに近づく前に、トモコの指示で周囲の地形を見回して警戒し、指示に従って長い櫂を五人総出で操って、なんとか迂回した。

それから、また方向転換して、潮流に寄せてスピードアップ。


シズとラクマカを遮る岬が湾に突き出していて、そこを廻る辺りが少し「今日は波が立ってる」らしかった。

それも迂回して、また五人総出で力泳してコースを戻す。


潮流に乗ってもそれほど速いわけでは無いが、腕を休めていても確実に南下してゆくので、楽に進める感じが何とも言えず楽しかった。


やがてシズの港が見えてきた。


また五人総出でぐいぐい漕いで、少しだけシズ港とその村域を南へ行き過ぎた所で、一気に櫂を押し込み、浜辺に乗り上げて、やっと筏が止まった。


--


上陸してから暫くは、なんだかいつまでも波に揺られているような感じがして、足取りが覚束なかった。


「駄目だ、立てねエ」

トヨキがいざるように浜辺を上る。

「ちょっと、エイコを引っ張りあげてあげて」

「エイコ、ちょっとおれの背中におぶされ。駄目か? マサ、いけるか?」

「やるから、待ってろ、うー、きつい」

四つん這いで、エイコを背中にもたれさせて背負い、一歩一歩、浜辺を上る。

先に上まで上がったトモコが見張ってくれて、エイコは疲れ切ってもう立てなかったので休ませておいた。


残りの者も交代で休みを取りながら、もしかしたらまたこの次も使えるかもしれないから、上げ潮が始まる前に筏を分解するのに余念なく、どうにか浜の上の草むらにできるだけ隠して筏の部材を積んで、縛り上げた。


--


エイコを両脇から支えて小川へ皆で移動して、潮と砂とでべとべとどろどろの身体や装備を真水で洗い流すと、ずぶ濡れのまま広場へ移動する。


広場は閑散としていて、ぼくたちだけしか居らず、好きな場所に陣取れた。

立木から二尋近く離れて焚火を熾し、地面に敷いた菰に早くも力尽きて寝転がるエイコに、風邪を引かないように、トヨが菰を足へ掛けてやる。

囲い込む菰を内側から、背負い籠やぼくの背負子で留める。


トモがキンタロ腹掛けと腰巻からまだぽたりぽたりと滴を垂れるのを手で絞って切りながら、許可を取りに官舎へ向かっていった。


ぼくとマサは疲れた体に気合で活を入れてもうひと踏ん張り、さっき隠した筏の櫂を三本取り出し、潮に浸かったそれを軽く水洗いしてから肩に担いで戻り、立木を利用して物干し場を設営する。


それからぼくは前回も水を汲みに行った小川の場所へ壺を提げて行ったが、今日も又、草藪は使用中だったので、今回は少年の邪魔をしないようにして、壺を洗って水を汲んで戻る。


マサがエイコの防具を、頭上高く渡した物干し竿代わりの濡れた丸太に懸けていたが、なんだかスペースがもったいない。


ハンガーが欲しいな。

そう思って、思案すると、とりあえず、あちこち廻って枝をちょっとずつ採って来て、葉っぱなど不要部分を切り落とし、ああでもない、こうでもない、と曲げたり引っ掛けたりしながら試行錯誤した。

やがて、枝から樹皮を剥いで紐を作り、丸太に枝をΛ状に二本結わえて引っ掛けて、それに乾したい物を引っ掛けることで落ち着いた。

これで一度に乾せる点数が大幅に増えたので、一度に一人分の防具が丸ごと乾せるほどになった。


もちろんそれでも五人分がずぶ濡れの状況では全く干場が足りていない。

でも、またガスが出てどうせ湿ってしまう事態になる可能性を考えると、早めにせめて全員分の、身体に接する部分だけでも或る程度乾しておきたかった。


トヨは漁に出ていき、戻って来たトモコが火の番、マサが見張り番、エイコはまだ眠り込んでいて、ぼくは物干しを終えると柴刈に出て、それから少しだけ海藻を拾って洗って乾しているうちに落日を迎えた。


トヨが無事に戻り、夕食を始めて、夕暮れになったので体を洗いに行ったり用を足したり、背負子や背負い籠の中の荷物を整理したりしていると、エイコが転寝から目を覚まし、入れ替わりにトモコが眠り、エイコが食事を始めて、トヨキも眠り、マサとぼくで見張り番をする。


そのうちに黄昏時になると、またしても菰の外から、春をひさぐ少女たちの誘う声がしてきたので、今回も「金なんか持ってないよ」と追い払う。

けれども、渋面で退散する子ばかりでなく、エイコに何度追い払われてもぬらりくらりと躱しながら、いつまでも揶揄い続ける子も今回は居て、結局最後まで笑顔で誘いながら消えていった。

隙を見せないように注意を払い続けたので、幸いにも何も盗まれなかったが、時間と気力は盗られた。


こんな土地でエイコだけに見張りを任せるのも危ないので、乾すものを入れ替えながら三人で見張り続け、マサに眠ってもらい、やっとトモコが目覚めたので、入れ替わりに眠り込んだ。


翌朝。


「おい、起きろ、ガスが出た!」

「ああ……」

またこの状況か、と寝ぼけまなこを揉みながら、落ち着いて胴鎧から装着を始める。


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