初の依頼を請けて 護衛を終えてラクマカの街で休む
官舎から出てきた。
ここに辿り着くまでに疲れ果てたし、どうせ期限に余裕があるし、今日はまだ日が高いし、海の浜辺で遊べるなんてのは俺達にとっては珍しい機会だったので、自然に
「ちょっと遊んでいかないか?」
「いいね!」
「ほら、いこ~!」
となって、皆で官舎の北側にある円形小湾の東側、円弧を描く浜辺沿いの遊歩道を少し歩いた。
でも、まさかボロけた鎧をつけて籠を背負ったまま遊ぶわけにも行くまい?
荷物番が必要だろう。
そう思ったので、浜辺に降りる前に、草を倒して敷き込み、
「俺はここで荷物番をしてるから、みんな装備を脱いで、荷物を下ろして、行ってこーい!」
と座り込んだ。
「そうだね、脱がないと遊べないね!」
「よっこいしょ、っと」
「オレの籠は此処な?」
「いいの? 荷物番頼んじゃって」
「司祭様に最後に治してもらえたけどさ、もう俺くったくたなんだよ、眠り込まないようにはする」
「悪いなあ」
「いいって、むしろ休ませろ~……あ、盾こっちに頂戴、日除けにする」
「はい、これね」
皆が浜辺へ降りてゆくのを、体力あるなあ、と思いながら、俺は皆の姿と荷物が視界に収まるように陣取り、のんびりと草越しにやや和らいだ風と、海辺の開放感を楽しんだ。
浜辺に降りた連中には、時折びゅうびゅう強く風が吹きつけ、腰巻が捲れ返りそうになって女の子たちがキャーキャー黄色い声をあげる。
波頭が白く泡立って打ち寄せる波打ち際には、他にも幾組もの若者たちが居て、散歩していたり、遊んでいたりする。
ただ単に荷物番をしているだけでも、此処からは対岸にあるラクマカ市街とその北の断崖を遠望することができて、珍しい景色が面白く、興味が尽きなかった。
ん、エイコが何やら言っている。
「ねええ~、つぼお~、とってえ~」
壺?
とりあえずはエコの荷物を探って、壺を取り出す。
「これでいいの?」
と身振りで訊ねると、にっこり頷いた。
取りに来たエコに訊けば、浜辺の生き物、砂に急いで潜っていこうとする蟹とか、ぴゅっと潮を吹いて自ら位置をばらしてしまう貝とか、そういう色々な小さな生物を壺に集めて、あとで食べるらしい。
「いいねえ、旨いだろうなあ」
「いっぱい捕って来るねえ~」
「うん、楽しみにしてるよ!」
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元々疲れていたのが、遊びはしゃいで猶更に疲れたところで、浜辺から上がって来て、官舎が見えてくる南の辺りまで戻った。
海水で洗ってきたから砂はほぼ落ちているとはいえ、海水そのものがべたつくところへ、背負い籠や防具を引っ掛け、腕に抱いてそこまで運んでくるものだから、塩でそれらがべたべたになってしまうが、「今更だ」と笑い飛ばされた。
海辺での遊びが楽しかったようで、何よりだ。
着いた場所には小さな水場が砂場併設で在った。
裸足で歩いて来て砂だらけになった足を洗い、焚火を熾し、捕ったばかりの蟹や貝を壺で茹でて食べ、なんとなく温い気がする水を口にして、のんびり休んだ。
この辺りは松林でもあるが、他の木々もまばらに生えて、そこそこ風を遮っている。
寝所も設営しやすいので、今晩はここで休んでいかないか?
そういう話になったので、わりと近くに官舎もあるし、一歩きして許可を得て来た。
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広場ではない小さな砂場なのだが、官舎にも近く、こじんまりとして、林に囲まれた感じが居心地が良かった。
夕方まで閑になったので、その辺りに生えている適当な草を刈って、とりあえず寝所設営用に菰を作り始める。
「今晩は、とにかく寝て休もう。見張りは一応は立てるけど、なんだかラクマカってのは、相当安全みたいだな」
トヨキが云うと、トモコが
「海辺だけど、大丈夫かしら……」
と不安そうなので、さっき官舎を再訪したぼくが
「ああ、ぼくもそう思って訊ねてみたら、バリヤーで護られてるんだって、ラクマカって」
「バリヤー? な~にそれ?」
「司祭様が言っていた『結界』みたいなものらしいよ、よくは知らんけど」
「ふうん……観光案内には書かれてなかったわよね……」
トモコも一応納得したようで、今夜は此処に泊まることで決定した。
帰りにも、まずは山越えで山賊の類が待ち構えているらしいし、その後はシズ周辺の野犬だらけの低湿地の藪の中、そしてガントリッシュ緑道へ行けばまた盗賊や竜みたいなのが居て……
防具や履物をしっかり作り直しておかなくちゃならない。
できれば予備も欲しい。
あまり重くなると逆効果だから、履物の予備だけしか無理だろうけど。
でも手甲脚絆は野犬にガブリガブリ嫌という程噛みつかれたからなあ。
「マサ、明日からは鎧と盾と履き物づくりだぜ」
「ああ、忙しくなるな」
「まァ、落ち着いてゆっくり行こうぜ、焦ったってしゃーねー」
「ああ」
駄弁りつつ、草数本をそれ自体の葉で巻き込んで束にして、別の草で綴じてゆく。
或る程度形になって来ると、あとはエイコやトヨに続きを任せ、また新たな草を刈り集めに行く。
目をつつかれないように用心して、疲れて屈めるのも辛い身体でしゃがみ込んで、腕を伸ばして草の穂先を脇へ退かすように動かしてから、できるだけ根本で一本一本、石ナイフで切り取る。
刈り取った草を束ねて持ち帰り、
「マサ、ナイフ貸してくれ、こっちのナイフを研いでおいてくれ」
「おう」
鈍らになったナイフを取り換えて貰い、また刈りに出る。
暫く菰づくりに勤しみ、やっと五人全員が休めるだけの分を作り終える頃には、夕陽が西の海に沈もうとしていた。
雲で隠れたり、また少し顔を覗かせたりする太陽の上方は、燃えるように赤く染まっていた。




