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初の依頼を請けて 護衛を終えてラクマカの街で訊ねる

それにしても、ラクマカの街には、広場とか水場とかないのだろうか?

それでは傭兵にとっては不便なのだが……


「広場と水場の場所を訊いて来るわ」

トモコが盾と(ほこ)をエイコに持っててもらい、日除け付きヘッドギアをとって小脇に抱え、大通りを歩く通りすがりの人に、腰を屈めて呼び掛ける。


「あの、すいませんが、少し道をお訊ねしても宜しいでしょうか」

「は、はい? なんですか?」


細身の踝まであるパンツと腰で帯を巻いた長袖の全体にふっくらしたクリーム色の貫頭式シャツを着たサンダル履きの、頭が半白の骨太な中年男性だ。

右腕に何かが溢盃入った袋を抱きかかえ、左手で一つの実を取り出して齧っていた。


丸腰で、一切武装していない一般民間人っぽい。

だから、寄せ集めの素材で継ぎ接ぎして作ったお手製の粗末な防具で、頭以外の全身を固めたトモコに話しかけられて、少し引いている。


「ラクマカの広場と、それと水場は何処にあるのでしょうか?」

「ああ、広場? 水場ね、水場なら、結構そこら中にあるし、広場は由比ヶ浜の上にあるよ。多分だけど、広場にも水場はあるんじゃないかな、あまり利用しないから知らないけれど」

「ユイガハマ、とはどの辺りなのでしょうか? 今この街に着いたばかりで、右も左も分からなくて……」

「ああ、そうか、由比ガ浜はね、この若宮大路を真っ直ぐ海まで行って、右に曲がったところの浜辺だよ。ちなみに左に行くと材木座ね」

「真っ直ぐ、右手ですね」

「そう。そうそう、官舎に行けば観光案内のしおりが貰えるよ。一度行ってみるといいよ」

「官舎というと、ここへ来る途中の狭い砂浜にあった、あの白い木造の建物ですか?」

「うん、ラクマカ七不思議の一つさ。それじゃあね」

「あ、どうも有難う御座いました。呼び止めてすいませんでした!」

じゃあね~、と齧りかけの丸い実でバイバイをしながら、おじさんが去って行く。



「それじゃあ、先ずは官舎に行ってみるか。なんだか早めに行った方が良さげな口ぶりだったし」

珍しくマサがリードをとり、

「おう」

「うん」

「それでいいんじゃない?」

「いいよ」


--


今日はラクマカの街に泊まらねばならないので、野営地とか街のことを予め色々調べるために、街中から砂州へ戻り、ちょっと官舎にお邪魔してみた。


「こんにちは、失礼しまーす」

「は~い♪」

すると、メガネをかけた、ほっそりした陽気な中年女性が出てきた。

白いスカートに薄黄色い長袖のブラウス、足元は白塗りのサンダルだ。

愛想が良い。


トモコが色々喋っていたが、観光案内のしおりというものを手渡された。

ラクマカの地図、及び周辺地域の概略図が多色刷りで表裏両面に記載されていて、成程、これがあるから小父さんが勧めてくれたのか、と納得した。


それに付随する説明文によると、ラクマカの街について──



東に狭い円状の小湾があり、その湾口は北にあるが、東西から延びる陸地によって、湾はほぼ閉ざされかけた汽水湖状になっている。

実際、北の湾口中央には水門が建設されていて、閉ざす事ができる。

普段は水門は完全に開いており、船が行き来している。

この狭い湾内では、夏期には遠泳が盛んに行われている。

円状の小湾に面する浜辺は、至る所に松が生えて、白砂青松の風光明媚な景観を成す。

小湾の南では、北側の小湾と南側の大きな湾との間で細い砂州を成しており、町の庁舎がある。

砂州は小湾から離れて東に伸びると少しく陸地の巾を増して、隣のラウミ地区へ接続する。

南東に徒歩二日でシズの地。


東方への街道の北方の僻地は、接近厳禁。

その地には、なぜか今も機能している小規模な攻撃ロケット装置があり、怪物との遭遇も多く、非常に危険。


ラクマカの庁舎は南北の湾に挟まれた細い砂地に孤立しているが、市街は湾の西方の平野部に広がる。

その平野部の北側は高い崖で遮られており、そこを越える道は古来「切通し」と呼ばれ、太古の伝承によればこの名称は先史時代に遡るとされる。

切通しを抜けて北へ旅すると、徒歩二日でネフワアの地に至る。



と言う事が書いてあった。

他にも色々と街中の名所紹介とかも記述があったが、歴史的事項に関しては理解の及ばない部分だらけだった為、割愛する。


トモコが女性に訊く。

「あの、この『攻撃ロケット装置』って何なんでしょうか……」

「さあ、私にも分りませんわ」

分からないのに書いてるんだ……

「何しろこの建物自体もそうですけれど、この『観光案内のしおり』も暗黒時代以前の産物だと伝承にありますし、その頃からあまり変わらないのだけは分りますけれど」

「そんな貴重品を頂いても、宜しいのでしょうか?」

「これまでに数えきれないほど配っていますけれど、不思議な事に決して尽きないのですよ、ホホ……」

ん?

「これ、布……なんでしょうか?」

「あ、違います。これは紙と言って、或る種の木を搗き砕いて粉々にしてから、色々な材料を加えて水中でドロドロにして、再び形を与え直したものです。紙自体は今の時代の私達にも作れるんですよ。材料や器具を揃えるのがなかなか難しいらしいのですけれども」

「はあ~……」

「湿り気には弱いので、長持ちはしませんから、ご注意ください」

「あ、はい」


紙はともかくとして、暗黒時代って何だっけ?

たしか、父さんか兄さんか誰かが言っていなかったっけ……駄目だ、なんとなーく聞き覚えはあるんだけど、真面目に聞いてなかった。

分からないや。


--


それから、暫く野営したいことを伝え、広場と水場の場所を確認し、漁の許可とか、伐採の許可などを求め、幸いにも得ることができた。


許可証はその場ですぐに発行してくれた。

耐熱樹脂性の硬化処理が施された名刺大の小さなもので、サカヌキ村で発行される手の平サイズの板とは比較にならないコンパクトさだ。


トモコたちは見たことが無いのか、目を白黒させて、

「なに、このツルツルの、なにこれ?」

「うわッ、滑ったッ、わりィッ!」

とトヨが手から落として慌てて拾い上げたりして、少し騒いでいた。


ぼくは一歩引いて、

「すいませんね、慣れてないみたいで、騒いじゃって」

「いいですよ、いつもの事ですから」

と小母さん職員に陽気に笑って流された。


「他には用はありませんか?」

「もう大体こんなところだと思いますが……おーい」

「あ、えと、とりあえずこれで結構です。有難う御座いました」

「また何か分からない事がありましたら、来てください」


帰りがけによく見れば、傭兵に仕事を依頼する掲示板もあったが、後がつかえていてさっさと出なければならなかった。

どうせ目先の仕事として、まず帰りの準備をせねば何も始まらないから、見るのは後回しでいい。


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