初の依頼を請けて ラクマカへの洞穴からの脱出
走り続けると、やっとまたバリケードがあり、乗り越えて、出口へ殺到する。
ここまで来れば、さすがに何も無くて、無事に脱け出た。
「はぁっ、はぁっ」
皆、息が、荒い。
司祭様たち、依頼者達の指示で先行したけど、それにしても、無事なのか、彼らは?
呼吸が調わないので、思考もまとまらない。
ぼくたちは皆、洞穴出口の外で、洞穴側を向いて待機している。
やがて、こちらへ駆けて来るものが見えた。
やった、来た。
いや、違う。
あれは……何だ?
その形は、人のようで人ではなく、輪郭が霧のように不確かだった。
遂に洞穴の出口近くまで来ると、それが立ち上がった。
今までは伏せていたか、這っていたのか。
とにかく、今は!
下がれ!
「下がるんだ!」
全員が下がりながら前へ盾をかざす。
マサが最前列だ。
トヨと俺は戈を立てて、振り下ろせる態勢をとった。
そこへ、怪物が屈むと焔の息を吐きだした。
「うああああっ!」
「ううっ」
全員が地面すれすれに屈み、盾を地面につけて、焔を頭上にやり過ごすが、最前列のマサが真っ先に浴びたので躱し損ねて、炎上した!
マサがかざした盾が、みるみるうちに燃え上がる。
いかんッ!!
盾をかざしたまま即座に戈でマサの盾をどついて、マサの盾を捨てさせると、盾が燃えおちる。
ぼくも火の点いた盾と戈とを投げ捨てる。
両手で燃えているマサを引きずり倒して、地面に押し付けた。
背中を怪物に向けて、マサを地面へ押しつけ、押し転がして、全面を消火する。
トヨトモエコも一旦後退して、戈と盾を放り出して互いの火が点いた箇所を叩いて消すと、すぐに走り戻って来て、手でマサの防具の燃えている箇所を叩き潰して消して回る。
粗方、火が消えた。
「オメーもだッ!」
トヨが跳びかかって来たかと思うと、背負子の胸紐をひったくるように引き絞って解き、背負子を背後に落とさせ、ヘッドギアの顎へ手を突っ込んで来て、顎帯を裏返されて、ヘッドギアをもぎ取られてしまった。
燃えていた。
「うおおーっ」
頭が熱いっ!
トヨに首輪の後ろの紐を引き千切られ、首輪をもぎ取られて、足で踏みつけて消火され、女の子に跳びかかられて頭の火を消され、今度は俺がマサのように転がされ、押し付けられる。
背中が燃えてたらしい。
「ぶっ、お、おい! もう消えただろ!?」
「ああ、消えた! 今、消えた!」
すぐに立ち上がると、トヨと二人でマサを引き起こし、皆走ってもっと遠くへ脱出する。
近すぎたんだ、きっと。
どんなもんでも、射程ってもんがあるだろう、きっと。
「くそっ」
油断したぜッ!
その所為で、マサがッ!
マサの焼け焦げた防具を脱がせた後は、エコトモトヨにマサの手当てを任せて、怪物の様子を観に戻る。
と、怪物がまだ出口付近にうろついていたので、慌てて下がると、こちらへは出て来られないらしく、軽く焔の息をしゅぼっ、しゅぼっと吐きだすのと睨み合った。
そこへ、いきなり閃光が走り、怪物が背後からズタズタに切り裂かれて、霧散する。
光る黒い槍を握って付添人が現れて、その背後にロバに乗った司祭様の姿。
「司祭様!」
思わず叫ぶ。
安堵、喜び、驚き、畏敬などが混ざって、感情が昂るのを抑えこむ。
それ以上言葉が出て来ない。
「逃げましょう!」
だが司祭様の方から出てきたのは、深編笠の下、フードの薄絹の下で顔面蒼白なのだろうと思わせる、愕きと不安と焦りの籠った必死な声だった。
その事に動顛したぼくは、既に横を走り抜けた二人と一匹を追って、転げるように走り出した。
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マサノリの防具は大半が駄目になってしまったが、すぐに火を消し止めたので、軽度の火傷で済んだ。
軽い火傷とはいっても、上半身はあちこちが火傷を負っていた。
司祭様の司祭様たる所以、それは既に野営地での夜の魔物の襲撃の時に思い知っていたが、今回またあらためてそれが示された。
マサノリの火傷や俺の負傷が、司祭様が祈ると次々に全て治ったのだ。
傷口に手をかざす事すらしていない。
愕くべき、超自然的な現象を齎す、奇跡の異能力であった。
ただ、その後で司祭様は力尽きたように倒れかけ、付添人が咄嗟に支えて、
「菰を敷け」
と云うので急いで敷こうとしたが、トモコが
「背負子と一緒に燃えてしまいました!」
と叫び、あっと思ってると、
「盾でどうですか!?」
とエイコが残ってる三枚の盾を次々に敷き並べた。
長さは足りなかったが、
「それで良い」
と付添人が応え、ゆっくりと司祭様をそこへ寝かせた。
それで、ぼくも手甲脚絆を脱いで、司祭様の足の下へ挿し込んだ。
「もう安全なんでしょうか? 今襲われたら、大変危険です」
「まあ、ここまで来れば、大概何も起きないさ。心配するな」
「はい……」
盾も防具も大きく損なったので、ぼくは非常に不安が大きかった。
それでも、痛みの消えた首で振り向いて、癒された仲間の顔を見ていると、またどうにかするさ、という気持ちが湧いて来るのだった。




