初の依頼を請けて ラクマカへの分岐路
いつものように、一定のペースで歩き出す付添人に続き、司祭に牽かれたロバが重い荷駄を載せてぽっかりぽっかりと歩き出す。
それに続いて背中に籠、腹の前に盾を抱いたトモコとエイコが戈を杖にして歩き出し、トヨキ、マサノリが後を追う。
そしてぼくが最後尾で背負子を背に立てて尾いて行く。
山頂からスタートだから、ここからは基本的に下りかと思ったら、さにあらず。
尾根から尾根へと伝っている感じで、下ってはまた登り、また下っては登る。
そのうちに朝日が山から顔を出し、眩しく輝いた。
ところどころで急な下りや登りがあるのが、乗騎を連れた身には難しそうだ。
司祭様が一旦ロバの手綱を離して、先行して急な階段──梯子と同等の急傾斜──を降りると、振り返ってロバに自分で降りさせている。
その間にも、付添人は止まる事無く先行する。
重い荷駄で大変そうだな、とロバに同情しているうちに、少しずつ器用に下り始めた。
こいつ本当にロバか? と思うくらい見事に下って、司祭様にドヤ顔を見せつけたような気がするが、きっと気のせいだ。
ロバのお蔭で、ぼくたちは却って山道で休んだり、自分たちの好きなペースで駆けて行く事が出来て、むしろ楽だった。
そして坊の鼻、つまり尾根の先端で山から降りると、街道は起伏のある草原の中へ続いていた。
ここからは、司祭様はまたロバに乗り、進み方は一定ペースに戻ってしまった。
こういうところは草原から盗賊とか襲って来るんじゃないかと思ったが、有難いことに平和そのものの道行きで、昨日との落差に驚いた。
なんであっちにばかり野犬があんなに居て、ここには全く出て来ないんだろう?
考えても分からないまま、一定のリズムを保って、草原を歩き続ける。
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暫く行くと、次の山に差し掛かった。
そこで道が分かれていた。
付添人が立ち止まって、小休止を告げる。
ぼくたちは腰を下ろして、静かに警戒に入った。
ロバの上から、司祭様が付添人と何か話していて、耳をそばだてると──
「もしも本当に幽霊なら、私が力になれるでしょう」
「本当にそうなら、ですね。そうとも限りませんので、切通しが」
「でも、切通しは山賊が出ると」
「噂ではそうですが、一概に出るとは限りません」
「幽霊は必ず出ると言うのも、噂ですね」
「必ず、と強調されている噂は少し問題でしょう。なかなか滅多に聞きません」
「そう、かもしれませんが……近道なんですよね?」
「そうだったんですがね、以前は。しかしながら、実害が出ているし、誰も通らなくなり」
「私が解決できるかもしれませんから、行きます」
「もう決定ですか?」
「はい」
「……」
何か、山賊だの幽霊だのと聞こえたぞ?
怖いな。
顔を顰めて仲間と顔を見合わせていると、司祭様がロバの上から
「ここで道が分かれていますが、洞穴を通る道を行きます。幽霊が出るという専らの噂ですので、私が退治して通り抜けるつもりです。ここが最後の関門です。行きましょう」
と宣言した。
思わず履物の中で指を回して、足と履き物の密着度を確かめる。
行くか。
仲間と一緒にざっと立ち上がる。
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分岐した街道の左へ進む。
路は山の鼻を回り込んで、洞穴へ続いていた。
真っ直ぐだ。
向こう側に出口が明るく見えている。
どのくらいの長さか分からないが、そこそこ長そうだ。
用意してきた松明に火を点すまで待ってもらった。
二本のうち、一本はトヨキが持ち、もう一本はマサが持った。
二人とも左手に掲げている。
ぼくも一番長い柴を取り出して、いつでも火を貰えるようにした。
一定のペースで歩みだす。
洞穴の中は静かで、何故か倒木が積み重なって進路を遮っていた。
まるでバリケードのように。
厭だな、逃げづらいじゃないか、と思いながら進む。
何事も起こらないまま、洞穴の中ほどまで進んだ時だった。
なにも感じなかったが、エイコが、
「なんか、感じた?」
と訊いて来た。
「いや、何も」
と俺達が横に首を振って否定すると、エイコが首を傾げる。
「どうかしたのか?」
と付添人が前を見たまま呟くように口にした時、司祭様が
「結界です! それも、かなり強力な!」
と強い緊張を口調に滲ませて喋った。
なにか、ぼくたちにはよく分からないことが起きているらしい。
ざわりと緊張が走り、警戒を強め、ぼくもすぐに
「マサ、火を、火を頼む」
と松明から左手の柴に火を貰ったが、何も目には見えない。
付添人が
「進んでいいか?」
とぽつりと言い、司祭が躊躇いを見せながらも
「……行きましょう」
と肯じて、印を組みだした。
ただ事ではないのは分るが、さりとて法力が絡むとあっては、ぼくたちに何ができる訳でもない。
ただ、エイコだけでも何かを感じ取れたというのが、少し心強かった。
そうしてまた進みだしたが、ペースは少し落ちていた。
付添人の後を、ロバに乗ってぼくたちの先を行く司祭様が組む印が変わり、洞穴に響く祈祷の文句も変わったのが分った。
すぐにエイコが息を呑み、戈を握る手の甲を口に押し当てて、悲鳴をあげて司祭様の邪魔をするのを辛うじて自制した。
次にぼくら四人にも何か厭な、云うにいわれぬ不吉な、陰惨な雰囲気が感じ取れてきた。
「な、なに──」
「しっ……」
驚いて叫びそうになったぼくだったが、肘でぼくの脇腹を防具の上から押してきたマサの押し殺した声で、それ以上の声を出さずに口を閉じた。
(何が起こっているんだ……っ!?)
恐怖と、不安とで、防具の内側が汗まみれになってきた。
右手の戈と左手の燃ゆる柴とが、握る手の中で滑りそうな気がして、焦燥に駆られて益々手汗が出る一方だった。




