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過ぎし暗く寒い冬を振り返る 吹雪の日

次第に雪が頻繁になり、作業小屋の支柱がとうとう折れてしまい、冬も本番。

素晴らしく天気が良い日もある。

ずっと雪が吹き荒れて夜か昼か分からないほど暗くなり、一歩も外に出られなくなる時もあった。

そんな時は屋根が潰れないかと不安になりながらも、だからといって今更出来る事もないので、家の真ん中の一番低い場所にある、そこだけあかあかと明るい炉の周りに集まって、暖まりながら手仕事をしているより他は無かった。

家の中は煙いので、皆マスクを掛けている。


「あ、水、足さないと」

焔に赤く黄色く照らされたエイコが、炉に設けた格子状の加熱部に載せている土器の蓋を持ち上げて言うので、近くに置いてある水の壺に手を伸ばすが、空っぽだった。

「? ……ぁ」

さっき注いだ後、仕舞いかけてる途中で、マサに声を掛けられたのでそのままうっかり置きっぱなしにしてたんだった。


「わかった」

と応えて、円座と呼んでいる──草を束ねて渦巻型に綴じただけ──粗末な代物から尻をあげて左横へ手をつき、最近は体力が落ちているのを自覚しているので、よろめかないように一旦這いつくばった体勢をとってから、外側の一段高いところへ手をついて片膝を立て、空の水壺を拾い上げて、膝に手をついて前のめりに立ち上がり、そのまま勢いで上段へ上る。


雪を幾つかの壺に詰めたのが壁際の区切られた一画に並んでいる。

蓋つき壺で、蓋の両端に付けた穴から、壺の耳に紐を掛けて結わえて、口をしっかり塞いであるので、虫や埃が入らない。

空の壺をその並びの前に置く。

壺の並びの途中で壺二つ分の間が空けられているので、間の隣、戸口から遠い方の水壺を一つ取ると、

「よっ、と」

壺の耳を握った手から、腕や肩を経て、背中や腰に重さが伝わって来て、うっかり落とせないぞ、と用心する心持になる。

壺を抱いてる自分が転ぶのは良いが、壺を床などにぶつけて割るのは駄目だ。


両腕で水壺を抱いてゆっくり戻って来ると、段差の縁で腰を落として、お尻を踵と地べたにつけて坐り、それから足を前へ出して下の段へつけ、

「ん、しょっ、と」

少し斜めに切ってある段差のところで、短い腰巻(スカート)を巻いたお尻をちょっと上げて前に出し、斜面に着けて滑り落ち、水の壺を両腕に抱いたまま炉の近くまでずり寄る。


腰巻はまだ草が生えていた秋の頃に少しずつ、トモコが男の子みんなに作ってくれた。

もう腰帯がかなり破けて来ていたので。

ぼくのは最後に作って貰ったので一番新しいが、最初に作ったトヨキのと同様、もう枯れた色に変わって来てる。


「ありがとう」

「うん、入れるよ」

壺の紐を解き、蓋と一緒に脇の小さな置台の上に置いて、壺の水を炉の土器へ注ぐ。


置台は、マサが暗く長い夜の手遊びに作った物だ。

三十本くらい、太さ1㎝程の細枝の皮を剥いて、一尺ほどに長さを揃える以外は特に加工の手間も懸けず、平たく一列に並べて簾のように紐で綴じ、裏から少し太い丸太を二本宛がって足として、隅の四カ所で結わえた。

使いやすいように手元で片方の端を一直線に揃えたので、向こう端は長さが不揃いで凸凹している。

こういうのがあると地べたに着けなくて済むから便利だ。


トモコはちらっと目線を寄越して、また手元に落とす。

今は草鞋か何かを繕ってるようだ。

トヨは銛を新しく作っていて、マサは斧を研いでいる。


ぼくは水の壺に蓋を宛て、紐で結わえておき、炉の上を見上げる。

そこは部落のお爺さん家を真似て、教えて貰ったやり方で通気口を設けてある。

この広い谷間では土地の風向きは一定で、ほぼ恒に南の高い山から吹き下ろしてくるので、風向きが北風に変わって困ることが無い。

今も炉からの煙は家じゅうを燻してそこから抜けていっている。


誰も彼もが栗色に日焼けしているが、煙で燻されて黒くなってる分もあるだろう。

肺迄燻されては堪らないので、マスクを掛け、薪だけでなく炭を併用しているが、一日中家の中に居るので、基本的にはほそほそと息をして、疲れたら無理せず横になっている。

ぼくも横になることにして、上段に置いた自分の簡易寝台に横たわった。


手仕事のガサガサ、しゃこしゃこと立てる音や、薪がぱちっと爆ぜる音を背景に、コットに横になって丸太屋根や竪穴の土壁を見ていると、秋に積雪に備えて改修した時を思い出した。


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