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初の依頼を請けて シズの村の夜

少しだけ眠って、目が醒めると、もう薄暮で、ぼくは首の痛みが増していた。

「マサが倒れ込んできた時に、横に投げ出されて、首をやっちまったよ」

痛え、と首を(さす)る。

「大変、気をつけて」

「すまん、真横の藪から飛び出て来たやつに噛みつかれてびっくりしてた。痛む?」

「痛むと言えばあちこち痛むけど、首が特に」

「薬を付けてあげる」

トモが薬草を揉み始める。

「あれ、エコとトヨは?」

「汚れた手を洗いに小川へ行ってる」

「あ、そう……暗いけど大丈夫かな」

「まあ、二人だし、近いんならすぐに駆け付けられるでしょ」

野犬の焙り肉をマサが取ってくれたので、齧りついた。

海藻を貼ってあり、塩味がきいて旨い。

トモが首だけ手当してくれた。


そのうちエコトヨも戻り、みんなも寝不足で疲れが出てきたので、その晩は修繕もそこそこに、皆食うだけ食って、防具を脱ぐと背負子や籠に掛けたりして乾しておいて、寝ようとした。


首が痛くて仰向こうとすると

「ぅいっ!」

と思わず呻いてしまう。

「大丈夫?」

とエコが心配して、近寄って来た。

「仰向けになろうとすると特に痛いみたい」

(さす)ってあげる」


そうしているうちに、痒くなってきたので、

「虫かな? 厭だな」

「痒いね、そういえば」

と、腰帯一丁になって、貴重な虫除け液を湯呑に少し取り、これまた貴重な水で薄めてから、身体に塗り付けて虫除け処理をしていると、どこからともなく人が近寄って来る気配を感じた。


見回せば、サカヌキ村に辿り着いてすぐの頃のぼくらみたいに腰帯に菰を被っただけの女たちがどこからともなく涌いて、ぼくら以外にも広場で仮の宿をとっている旅人に近寄って、「ね、いい事しようよ」と誘いをかけていた。

こちらへも近寄りながら、声を掛けて来る。


「ねえ、あたし達と気持ち良くならない?」

「いいこと、しようよ~」

「ね♪」


声だけ聴いてると、良い声をしているので、快感への期待で背筋がぞくぞくして、あそこが怠ぅく硬ぁくなって、腰巻を突き破りそうに立ち上がってくる。

頭がボーっとして、更に菰の隙間から漂って来る強い女の子の匂いに涎を垂らしてフラフラと尻尾振って尾いて行きたくなるが、同時に頭の中で警鐘が鳴る。


「要らないわよ」

「そうよ、あたしたちが居るもの。あっち行って!」

トモエコが追い払おうとしている。


遊びに誘ってくる女の子は一人でなく五、六人も居て、焚火の火が菰を照らす、その外側の暗がりからこちらを覗き込んで、愛嬌のある笑みを浮かべている。

思わずニッコリと微笑み返す。


だが、菰越しにうっすらと照らされている様子をよく観れば、明らかにスラム街にずっと住んでる女乞食、少女娼婦の類であった。

聞かされていた集落の北側にある場所から、暗くなるとともに出張って来たのだろう。


そういう手合いは顔と上半身は美しいが、手足の先は鉤爪になっている妖鳥の魔物の類だ。

たしかシレーヌとか言った気がする。

これは兄さんに聞かされた記憶があるぞ。


隙を見せられる訳もなく、気が休まらない事夥しいから、堪らなくなって

「俺達は今、依頼を請けている最中で、金なんぞ持ち歩いていないから、誘うだけ無駄だぞっ」

と冷淡に追い払った。

途端に、それまでの愛想の良い笑顔が憎々し気な顰め顔に変るや、

「ちっ」

「なんだ、声かけて損した」

「ぺっ」

と舌打ちしたり酷いのは菰へ唾を吐いて、ささぁーっと波が引くように去っていった。

小川しか水場も無いことや、ここの海辺の酷い磯臭さと相俟って、今後再びここに泊まるのは厭だな……と思った。


--


盗賊の仲間じゃないのかと疑りながら、女娼がちゃんと去っていったのを確認すると、やっと落ち着いて寝られるようになったので、とりあえず皆は先ず眠り、先に転寝したぼくがとりあえず最初の見張り番に立った。


閑なので、見張りながらも自分のかなりズタボロにされた防具を火で炙ったり汚れを払ったりしてみると、あちこち野犬の牙や爪でかなりズタボロにされていたので、修繕が大変そうだった。

とりあえず、出来る範囲での応急処置に取り掛かる。

見張りながらだから、あくまでも軽い応急処置だけだ。


そうしているうちに、完全に夜の帳が降りた。

広場に、二、三カ所、ぽつん、ぽつんと焚火が見える。

中には娼婦を連れ込んで大腰小腰を使い分けているのも居る。

元気な奴だ。


うちの仲間は、最近ではもう大っぴらに二組で見せあいながら盛ったりするけれど、今夜は全員疲れ切って、キンタロ腹掛けと腰巻で、すやすやと寝入っている。

起こすような奴が来ないのを願いながら、静かに背負子から草束をとって、切れた紐の代わりに草を撚って結び付けたり、噛み砕かれた葦の代わりに予備の串を挿したりする。


もしかして犬の汚い牙に傷つけられたかな、と思う腿の傷には、薬草を揉み潰してなすりこんで、応急処置とする。

ショルダーガードの左肩先は犬が噛みついた痕が凹み、臭いのでとりあえず虫除けに使った薄め液の僅かな残りと臭い消しの香草をなすり込む。


見張りながら少しずつこれらの処置をしているうちに、時間が経過して、エコが目覚めたので、交代で松明を掲げて用を足しに行って、その後少しいちゃつくうちに眠たくなったから、あとの見張りを任せて眠り込んだ。


--


ぐいぐい揺すぶられて起こされた。

「ん?」

「起きろ、ガスってる」

「げ」


顔を擦りながらすぐに起き上がり、急いで防具を着装した。

一番大きな胴鎧から真っ先に、次にショルダーをとりあえず引っ被る。

最悪の濃霧(ガス)でびしょ濡れになった。

それでも起こして貰えたから、鎧の内側の湿りは幾分か抑えることができた。

見張り番をしていたトヨに感謝だ。


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