初の依頼を請けて シズの村を初めて訪れる
逆光で黒く影になったロバと司祭様が、夕陽に照らされる街道から逸れて、シズ村へ入って行くS字に軽くくねる細い道を辿る。
その後ろをぼくたちも尾いて行く。
路の両脇にお墓が並ぶ場所を抜けると、竪穴住居が不規則に多数あり、そこがシズ村だった。
中央が広く空けられ、広場らしく、高床式の大きな家が一つ建っていて、官舎らしい。
「今日はご苦労様でした。また明朝、夜明け前にここで会いましょう」
一礼して、官舎に入って行く司祭様を見送る。
その後ロバとともに司祭様を待っている付添人と少し話した時、ここにはスラムがあるから、村の北側、海に向かって右手には近づくなと言われた。
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ぼくたちは野犬の群を撃退した高揚感がまだ残っていたし、まださっきの現場から近かったので、
「じゃあ、さっきの犬ころンとこ行くかっ」
とトヨが言い出したのにすぐに同意して、小走りに戻った。
するとまだ生き残っていた野犬が数匹いて、屍骸に齧り付いていた。
「あ、この野郎!」
とマサが石を拾って投げつけるが、外れる。
ぼくとトヨやエイコも石を投げつけて、マサとぼくとで盾と戈を構えて突進していくと、生き残りどもが唸っていたが、後ろから三人も走って来て、ぼくらが奴らから肉を奪う為に本気で殺しに行ってるのが判ると、ぎりぎりまで踏み留まっていた犬も逃げ出し、その直後にぼくの戈がそこへ突き立った。
「ちっ、逃した!」
肉の取り分が減ったなあ、と思って悔しがったが、まだ遠巻きに唸り声が聞こえる。
「オイ! オレたちで見張ってるから、とりあえず肉だけ切り取れ!」
トヨが叫んで急かす。
俺もトヨとマサと三方に展開して、戈を振り回して藪を叩き、しつこい野犬どもを威嚇しながら、肉を捌いているトモとエコを警護する。
「本当なら肩の骨くらいは欲しいけど、しゃァねえよな!」
「ああ! 依頼請け負ってる間は無理だ。諦めよう!」
「そうだよ、あんまり欲かかない方がいいや」
俺とマサも同意する。
時々思い出したように藪をバシバシ叩いて、野犬にこちらの戦力の存在をアピールし続け、姿を見せた奴には石を投げつけ、そうしてるうちにエコが
「トモ、こんなとこでいいかな~?」
「うん、もういいでしょ」
と立ち上がるので、
「よし、引き揚げるぞッ!」
とトヨが先導して、マサとぼくが最後尾を護衛しながら撤収した。
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とりあえず集落の西の石積みの石段を下り、広がっている浜辺に降りて、落日の海に感動を覚えつつも急いで肉を海水で洗い、流木や海藻を拾ってこれも洗い、広場へ引き揚げた。
このあとトモが交渉するので、トモは自分の汚れた手と道具だけ洗い、肉の処理はトヨとエコがやった。
ここには官舎だけあって、兵営が無かったので、官舎の人に広場での焚火と野営の許可を貰った。
水場を訊いたら、なんとこの村の中には無くて、近くの小川から水を持ってこないといけないらしい。
「ぅわ、めんどくせェ」
「なんてシケたとこだ……」
とトヨもぼくも呆れたが、そういう土地なんだな。
仕方ない。
もう日暮れも近いので、急いでぼくがトモエコから壺を一つずつ受け取り、左右の手に握って水汲みに走る。
小走りに教えられた南の方向へ行くと、割と近くに小川があったので、足場を探し、水汲み場らしき場所があったので、すぐに駆け寄ると、隣の草藪でがさがさと音がする。
はっとして、壺を足元に置くと膝から棘棒を抜き出して構える。
左手にも腿から棘棒を抜き出して、二刀流にしたが、何だか様子が犬とかとは違って、これは……男の喘ぎ声?
ん?
恐る恐る近づいて覗き込むと、一人の少年と目が合った。
あ……気まずい。
「ごめんっ」
途端に少年が立ち上がって、こちらへ駆け出して来て一言、
「くそっ」
と小さな声で呟くように苛立ちを吐きだし、逃げ去っていった。
はぁ~、一人で慰めていたわけね、それにもっと早く気づいていれば、覗くような無粋な真似をせずに済んだんだけど、さぞかし今の俺はマヌケづらをしてるんだろうな……やれやれ……。
なんか、寝不足やら格闘の疲れやらが一度にどっと出てきた気がして、疲れた。
まあ、野犬とかじゃなくて良かった。
とでも思わないと、やってられないぞ、っと。
疲労の自覚とともに、今更からだのあちこちが傷んでいるのにも気づいて、特に首の痛みに顔を顰めたが、
「さ、急いで水を汲んで行ってやるか!」
と気合を入れ直して、壺二つを水で満たすと、水と土器の合わさったのが二つも肩をもごうとするような重さに、歯を食いしばって一歩一歩慎重に歩いて戻る。
思っていた以上に酷く疲れていた。
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石段にぶつけないように、壺を一個ずつ上へ置いてから、また両手に提げて広場へ。
仲間が焚火を既に熾してくれていた。
これから肉を炙ろうと串を肉に刺している。
「水、水だよお~!」
やっと持って帰って来られた。
ここには絶対に住みたくない。
ぼくが置いて行った荷物を使って、菰を拡げて囲み始めたトモコが
「おかえりなさい、お疲れ様」
とねぎらいの言葉を掛けてくれる。
「ありがと、よっこいしょ」
とやっと水から解放されて、よろめきながら焚火に近寄り、とりあえず座り込む。
疲れた。
そのままごろっと横になると、腕を枕に忽ち寝入ってしまう。




