初の依頼を請けて ガントリッシュ緑道をシズの村へ
危惧された襲撃も起こらぬままに街道を随分下って来て、いつしか低地の道に入り、森と藪で周囲の視界が遮られるようになった。
警戒を緩めることもできず、辛い行進が続く。
ロバが止まった。
小休止地点?
だが小休止なら、少し前に取っていた。
小休止には少し早くないか?
「守って下さい」
「来るぞ」
二人が同時に声をかけてきた。
敵か!
だが、何処からだ?!
「行くぞ!」
一瞬ぼくが焦った時、弓矢を構えたトヨが前に動いた。
それにトモエコも続き、マサとぼくもすぐに続く。
依頼者の前に出て、仲間の中でぼくが最後尾位置を維持する。
盾を構えたマサが前衛位置に出た途端に、右の藪を突き抜けて何かが襲ってきた。
マサの横から一発素早く射ち放つなり、トヨがくるりと振り向いて後方へまっしぐらに走って来る。トヨの一矢は何かを貫き留め、哭いて倒れたことで正体が野犬と判った。
野犬の群か!
なら今日の晩飯はこいつらだな!
喰ってやるわっと、前に野営地で食った犬の味を思い出し、食欲がやる気を後押しした。
最後尾はトヨに任せることにして、戈を右手の藪に放って立て掛け、ぼくが前へ出てマサと並んで盾と棘棒を構える。
両側から藪に挟まれていて、マサの近くだと狭くて戈が振り回しづらい場所だから。
マサは既に一匹を受け止め、盾と片膝を道について勢いに耐え、石斧で犬の胴に一撃を加えようとする。
マサの右後ろに立っていたぼくが観る余裕があったのはそこまでで、あとは何匹も一斉にマサに跳びかかろうとしてきたので、すぐにマサの左に盾を並べて地面について防戦に入り、背中は仲間に任せて、盾の横を抜けよう、上を跳び越えようとする犬を棘棒で打ち殺し叩き落とす作業に入って、無我夢中で棍棒を振う。
二匹ほど叩いた後、跳び込んできた犬に顔に噛みつかれそうになって、はっとしゃがんで躱し、それで背負子が落ちかけて、肩にぐんと重さが掛かる。
後方でトヨが戈を振ってくれてるのを信じて、背負子の重さで崩れた体勢のまま、マサのように片膝をついて、結果的に完全にマサと戦列を組んで野犬の群の突進を食い止める柵として機能することになり、ぼくはとにかくひたすら牙を剥いて跳びかかって来る犬めがけて斜めに棍棒を叩きつけ続ける。
いきなりマサが少し跳び上がる感じで、左側のぼくへ体重を載せて来た。
驚く間もなくぼくもマサも左側に倒れ、街道の地面にどさっと倒れ込んだ。
左手に握る盾も蹴とばされるようにぼくらの上に倒れかかり、それで半身を隠して護りながら、マサが背中からぼくの右腹の上に乗りかかって、後ろへ放り出された背負子の紐にも引き倒されて、立ち直れないぼくは、とりあえず頭を護るように右腕の棍棒を構えて振り回し、何度かガツンガツンと手ごたえを感じながら、マサの振う棍棒が当たらないように必死に避けなければならなかった。
必死の数秒か十数秒が過ぎて、自分でも三匹くらいはブッ叩いたと思った頃、黒旋風がぼくら二人の上を薙いだかと思うと、犬が次々に首や胴を断ち切られて屠られたので、今だと思って、
「マサ、オラッ、退けェっ!」
と怒鳴って、盾を離した左手と左膝で奴の上体を押し起こした。
マサもそれまでに起きようとしていたので、その動きと一致して一気に態勢が治って再び盾を立てて構え、残る犬と対峙できるようになったが、その頃には俺達を抜けた犬は後衛へ襲い掛かっていて、既に付添人にほぼ斬り殺されていた。
でもまだトヨが二匹の野犬に両側から襲い掛かられて、腕と足に噛みつかれて苦闘していたので、すぐに駆け付けて一匹ずつ石斧でカチ割って片づけていった。
ぼくはマサが退いた後も背負子の紐に引き倒されてまともに立ち上がれず、残った一匹の犬に左肩に噛みつかれていたが、防具のお蔭で防げていて、でもうるさくて臭くて堪らないので、棍棒で殴りつけると、野犬は悲鳴をあげて退散し去った。
右手に握り続けた棘棒は、既に棘がすっかり無くなって、ただの棍棒だった。
それまで態勢がすっかり崩れてしまっていて、別の棘棒を抜き出すだけの精神的余裕も失っていたが、やっと周りに犬が居なくなった瞬間、すぐに何とかしなきゃと考えて、先ず紐を引いて背負子の呪縛から逃れると、脚を蹴り上げてから交差させながら引き戻し、反動で一気に立ち上がる。
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女の子たちや司祭様も襲われていたが、司祭様に襲い掛かる犬は付添人がシャットアウトしていた。
トモコもエイコも、付添人の指示で下がり、司祭様のロバのお尻を護る位置に立って、盾を構えて防御に専念してくれていた。
トヨキは防御に専念する女の子たちを優先的に守って戦っており、トモに襲い掛かった野犬が一匹、棘に突き刺され引っ掛けられてスッとんでいって、頭から胴の半ばまで藪に刺さっていた。
そんなわけで司祭様の後方は安全が確保されていたので、司祭様のロバと前衛のぼくの間は、付添人が自在に槍を振える状況になっていた。
それで大半の野犬は付添人が素早く片づけてくれていた。
屠られた野犬の骸は全部で十五ほど数えたが、ここは野営地でもないので、藪へ放り込むだけで済ませた。
ぼくたちは物欲しげに指を咥えながらも、その場で即席に作った草束で互いの身体の汚れを手早く払い落としただけで、さっさと出発せねばならなかった。
やがて、夕陽に照らされた草のトンネルの曲がり角をくぐると、そこが藪の出口で、急に目の前がひらけた。
正面に竪穴住居の集落があり、その向こうには浜辺と海が広がり、黄金色の夕陽に照らされていた。




