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初の依頼を請けて ガントリッシュ緑道を行く

ラウタ村から次のシズ村までの間は、歩きで二日と聞いた。

ラウタもシズもどちらも港だが、半島部の逆側にあり、二つの集落を繋ぐ街道は内陸部を通り、少し標高が上がる。

そこはガントリッシュ緑道と呼ばれていて、非常に緑鮮やかな高原なのだが、途中ではぐれの竜が出るという良くない噂も囁かれていた、そうだ。


「一体どこでそんな噂を、いつ耳にしたんだ?」

「漁師さんとお話した時」

「耳が早いというか……」

トモコがそう言うところ有能で本当に助かる。


そんなわけで、上天気が続く中、今日は潮風匂う海辺から離れて、再び爽やかな高原の風を浴びるようになっていたが、歩き続けていても涼しくて助かる。

旅も四日目に入り、少し体が慣れてきて、相変わらず辛くはあるものの、ロバに遅れずに尾いてゆけるようになった。


しかし、付添人は小刻みに周囲を観察し、少しも油断していなかった。

それを見て、ぼくらも護衛として雇われたのを思い出して、少し警戒しだした。

いつも通り、昼食も摂らずに一定のペースで進む。


--


昼下がりに、珍しく街道をやってくる別の一行と遭遇。

襤褸布の継ぎ接ぎのような軽鎧を肩から尻まで被り、ぼくらのような手甲脚絆を着け、太腿とか上腕とかは襤褸布で覆ってるだけのようだった。

日焼けとかヒゲもじゃとかは他と変わらないが、どことなく汚く、だらしない感じがした。

笠と蓑でそれらを覆い、盾は持たず、弓と葛籠を背負い、腰には太いベルトを巻いて物入を取り付け、石剣を佩いている。

左右の手にそれぞれ小さな杖を握り、草臥れた短いブーツの動きに合わせて、せっせと動かしていた。

全部で三人。


司祭様のロバは足を止めずに近づいていく……。


或る程度距離が詰まって来たところで、司祭様が騎上で印を組み、対向の一党が道の脇に出て待機態勢をとった。

司祭様と付添人がそのまま通り過ぎ、ぼくたちもあとに尾いていった。


振り返ると、向こうの者もこちらを振り返っていたが、すぐに歩き出して去っていった。



少し距離が空いた時、つと横顔を見せて、ぽつりと付添人が言葉を漏らした。

「あれが盗賊の斥候だ」

「……っ」

言葉の意味に気付いて、息を呑む。

「それで、司祭様が……」

「ああ」

と、もう振り向きもせず、歩き続ける。


--


まだ空が橙色のうちに、何も言わずに付添人とロバが方向を転じて、歩調を変えずに街道から横へそれた。

何事かと思ったが、ぼくたちも黙って後に随う。


緑道の名に恥じぬ一面の緑に覆われたゆるい斜面を登り、丸く大きな円を描くように歩いて、少し前に通り過ぎた方へ戻ると、街道を見下ろす場所にある少し離れた岩場に至った。

岩に囲まれた狭い窪地に入り込み、全員が収まると、司祭がロバから下り、ロバが座り込んだ。

司祭様が手づからロバに給餌し、付添人は辺りを検査して安全を確保すると、荷駄の中から畳んである大筵を取り出して、岩から岩へと張り渡して天井にした。


戻って来た付添人が

「明朝まで全員ここから出るな。用を足したかったらここでしろ」

と隅の一か所を指示した。

そして司祭様も付添人も岩の狭い隙間に入り込むと、身体を小さくして、それきり声一つ立てずに静かにした。


どうやらここが今日の野営地らしい。

互いに顔を見合わせたぼくたちは、とにかく二人の真似をすることにして、荷物を各々が潜り込む岩の裂目の前に立て掛けて、盾と戈も置いて、完全装備の鎧姿で狭い場所に潜り込んで、じっとしだした。


これがまた新たな苦痛だったのは言うまでもない。


--


完全に暗くなる前に、付添人が用を足しに立ち、次に司祭様も続いたので、それをお手本にして、ぼくたちも女の子から順番に用を足した。

それからは、夜になっても火も焚かず、真っ暗なまま囁き一つ憚られるような静けさの中、ひたすらじっと息も殺すように静かに過ごした。

今夜は十三夜で、かなり明るい月光が地上を照らしているのだが、菰よりも密に編まれている筵に殆ど遮られている。


当然何一つ口にしても居ない。


それだから気づいたのかもしれない。

空腹は神経を敏感にするから。


外を何か、重いものが歩き回っていた。

遠いところをのし、のしっと這いまわるように動いている。

噂の竜、だろうか?


岩に成り切ろう。

岩の化身になるのだ……。

心を静かにして、呼吸はおろか、鼓動の数も減らして、毛筋一つ動かさずに、そこらの空気のように、そこに無いかのように静かに……。


静かに……。


…………


めし、みし、ずるるるっ


急に響いて来た音と振動に、動揺するのは心の何処かに居る誰かさんだけに留め、今ここで行動を決定している意識は平静を保つ。


「っ……」

しかし、仲間の誰かは動揺を表に漏らしてしまった。


その後はまた心と動きを鎮める事ができたようだが、さて、外に居る何かはどう出るか……。


静かだ……。


…………


…………そろそろ、また来るか?

あれはソナーみたいなものだろう、きっと。

突然驚かせ、慌てて動き出すマヌケを見つける漁の仕方だ。

今、もしも反応があったと認識したのだったら……もう一度確認の為にやるか?

それとも、既に方向を掴んで、こっちに近寄って来てからやるか?

どっちだ……ろう……か……


どすん、ばたん、ずるるるっ


…………


よし、今回は皆うまく凌いだ。

でも、近寄って来ていた。

臭いでバレないだろうか……まあ、落ち着こう。

焦ったら奴の思う壺。

ここは、のんびり少し遅れてもいいや、くらいの気持ちで構えておこう。

だって、どうせ真っ暗で何にも見えないからね。

地面に頭を近づければ少しはぼんやりと、空を背景に浮かび上がるだろうけれど、とてもじゃないけど機敏な対応など望むべくも無いから、反射神経で対応するような真似は全く不可能だ。

本当は筵の外に出れば十三夜の明るい月光に周囲が浮かび上がるだろうけれど。

でも、この窪地から出るには岩を越えて出なくてはならない。

たとえ逃げようとしても、岩を越える間に食われそうだ。

こんな状況では、落ち着いて隠れておくことだけしかできないのだ。

自分も含めて誰かが犠牲になっても、仕方ない。

運が悪かったんだ。

そう割り切ることが肝腎だ。


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