初の依頼を請けて ラウタ村での演戯
精も根も尽き果てたぼくだったが、
「でさァ、ホントにどーすンだ、コレ?」
の声で我に返った。
「ん~、とりあえずどうにかして封じるしか……」
「まさか!? オイオイオイオイオイ、幾ら何でもそりゃないぜ」
「違うよ、いいからトヨは先に戻ってて。遅いと心配させちゃうから。」
「おう、じゃあ無茶せずに戻れよ」
「ああ、無茶なことはしないよ。そんなに心配しないで」
ぼく一人になると、意識朦朧としている少女を優しく撫でて更にリラックスさせながら、微睡む耳元に甘い声で運命の恋という観念を吹き込んで、少女の心に妄想の種を植え付けた。
そして、目が醒めてからやたらとひっつきだした少女を持て余してしまい、
(あ、ま~たやっちまった……)
と、ぼくは途方に暮れる。
何故ぼくはこうも後先考えずに突っ込んでいってしまうんだろう?
謎だ……。
ところで、さっきから頭に浮かぶ、ダンジョンとかローグとかマカルーとか日本とかって、一体何なんだ?
なんか、『なんだかよく分からないけど、できるような気がして』勢いでここまでやってしまったんだが……本当に、幾ら考えても何がどーしてこーなったのか、ぼくにはサッパリわけがわからない。
とりあえず取り返しのつかない事をしてしまったのは分かった。
どうにかして大事にしないように、彼女を巧く宥めなくては……
今のぼくにできるのはそれくらいだ。
なんて情けない……。
「ね……もっと居てよ……うちに来て……」
「ワカコさん、済まない。ぼくは行かなくてはならない!」
「何処に行くの……?」
「とりあえずはラクマカの街へ」
ぼくの顔を見上げた少女が叫ぶ。
「あたしも連れていって!」
ぼくは顔を背け、
「でも、ぼくの旅はそこで終わらずに、もっとずっと遠くまで続いてゆく。君を連れてはいけない」
「そんな……」
背中に彼女がしなだれかかる。
「帰って来るさ、君の許へ、必ず」
ぼくは向き直って、俯いている少女の肩に手を掛けた。
「どれだけ、待てばいいの?」
少女は顔をあげない。
「一か月? 半年? それとも一年? 名前も知らないあなたを、一体どうやって待てばいいの?」
「何処に居ても、ずっと君を思い出す。必ず君を目指して帰って来るヨ、ヤクソクスル……」
少女が濡れたような瞳をあげる。
「アイシテイルヨ」
顎を引いて、瞳を覗き込む。
少女がうっとりと目を閉じた。
「ダカラ、マッテイテオクレ……」
艶やかな唇が近づき、温もりを伝えて来て──
そこで突如として背後に殺気を感じたぼくは、咄嗟に少女を庇って右半身になり、右斜め前に出ながら右手で突き出てくる枝先を左下へいなし、左フックで右頬を捉えようとしたが、危うく振り抜くところを力を抑えて、突っ込んできた少年を正面から受け止めて、後方へ突き転ばされた。
もちろん受け身をとった。
少年に邪気を感じなかったから、衝突の一瞬に、少年に怪我をさせるのはやめて、むしろ利を譲ろうと思いついたのだ。
実際に頭突きを胸に喰らったのもあったが、いかにもやられた風によろけて立ち上がり、
「な、なんだァ!?」
とヘボっぽく叫んで更に少年への呼び水として、枝での攻撃を誘引する。
しかし突きはやめてくれ、危ないじゃないか。
さすがにそれは受けたら死んでしまいます。
なので咄嗟に突いて来る枝先を掌で跳ね上げて、そのまま勢いで突っ込んで来る少年から数歩間合いを取って待ち受けて、振り上がった枝で面を打たせた。
痛いっ、けど我慢だ。
今はやられ役に徹さなくては。
それが必要なんだ。
ぼくはこうして少年にコテンパンにのされた。
ほー、痛て。
少年が少女に歩み寄り、
「大丈夫!? 変なことをされなかった?」
と心配しているのに、少女の方は
「このバカっ、何てことしてんのよ!?」
と怒って罵る。
顔見知りらしい少年少女の痴話げんかショーが始まった処へ、のびていたやられ役が半眼でゾンビーのようにむくりと起き上がると、身を屈めて少年の背後、二人の視界外から忍び寄り、素早く背後から人形浄瑠璃の黒子のように、彼の手首をとって傀儡の如く操る。
少女の腕に手を絡ませておいて、背を押して上体を少女の方へよろめかせると、少年が自分から少女に縋りついた。
そのまま彼を押し込んで少女に抱き着かせておき、少女の両腕を少年越しにとると引いて彼に抱き着かせる。
えっ? と何が起こったのか分からずに驚く二人だが、一旦少女を少年に抱き着かせれば、完全にのぼせ上がった少年は、もう少女のことしか眼中になくなり、少女が自分から抱き着いてくれたものと都合よく解釈して、無我夢中でエテ公の如く少女を貪ることに熱中するので、背後からこそこそとそれを幇助してやるぼくであった。
ご苦労様です。
少年は既に慕わしい少女しか眼中になく、僕には気づかないので、ぼくは少年の力の前に為すがままの弱々な少女の背後から忍び寄り、耳元に再度甘い声で
「彼こそは君の、本当の運命の相手だよ……」
と怪文書並の妄言を吹き込んだ。
ふう、やれやれ、少年が来てくれて助かった。
感謝するよ、名も知らぬ少年。
君こそは勇者だ。
お姫様のことはきみに任せよう。
そしてぼくは夢見る瞳の少女を置いて、遥か彼方の銀貨めざして旅立つのだった。
いつか彼は銀河の世界へと旅立つ……かもしれない。




