過ぎし暗く寒い冬を振り返る 警報装置と出入口の防御
隠蔽工作は一応できて、あとは日々少しずつ改善するだけ。
例えば作業小屋で暗くなっても火を使ってるのが遠くから見つかるとマズいので、作業小屋の壁が半分開放なのを完全に塞ぐとか(当時はまだ作業小屋が雪で破損していなかったので、そう考えたこともあった)。
だが、もしも一旦山賊の群に発見されてしまったら、戦いは避けられない。
まだ鳴子は結局張り巡らしていないので、見張りを立てておかないと、接近に気づけない。
絶対に勝てないのなら逃げなくてはならない。
「というわけで……」
「いや、もう今日は休ませて~」
「オレたち働きすぎだろ、常識的に考えて……」
「わかった、疲れが取れたらにしようね」
「そろそろお湯が沸く頃かしら」
課題はまだ沢山残っていたが、連日決まりきった保存食しか口にしていないぼくたちは、急いで工作作業をしたばかりで疲れてしまっていて、ハーブティーを飲み飲みしてからだを温めながらでないと、なかなか動くのも億劫だった。
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「よーし、今日こそはやるかー」
「おー、やろうかー」
「めんどくせ」
数日休んだ後、ダルい身体でふらふらしつつも、まずは鳴子を設置した。
簡易的でいいから、見張りを立てなくても進入に気付けるように、一応だ。
見張り番なんてかったるいことは、とてもやってられなかったので。
前は踏板トラップを用いようとしたが、草藪で上手く行かなかった教訓から、今回は無難に単なる細紐を張った。
拠点を隠蔽しておきたかったから、山に仕掛けて「何かある」と勘づかれるような真似はせず、敷地への侵入路にのみ設置した。
積雪の問題があったが、とにかく仕掛けた。
防御壁や家の周囲には、今後蔦や蔓を這わせる心算だったし、それらが生じて来れば紐はその間に紛れてしまうから。
ただ、設置の箇所にしても、「進入路によっては必ずここは通る」という程度のもので、他の経路ですり抜けて来る可能性は当然ある。
その中で戸口前に設けた廂の下の鳴子は、風向きの関係で雪が吹きこんで来る事もほぼ無く、出入口の外で敵に待ち構えられているというリスクを減らせた。
ぼくたち自身で間違って音を鳴らしても困る。
敷地内だと作業の邪魔になるのも言うまでもない。
だから「今日はもう全員家に引っ込む」というタイミングでないと、仕掛けられない。
この毎日毎日やるべき事が少しずつ増えるというのもまた、ぼくたちにとっては厭だった。
只でさえそういうのが多いのだから。
絶対に間違ってぼくたち自身で音を鳴らさないように、夜間設置してある鳴子を毎日家から最初に外に出て解除する係を当面置くことにした。
トモトヨぼくの三名が指定され、この点に限り他より少し迂闊な処のあるエコマサは、朝最初に家の外に出てはいけないと決められた。
ぼくたちの栄養状態がもっと良ければ、或は更に工夫できたろうが、当時のぼくたちにとってはとても面倒くさくて、そんな閑があったら眠っていたかった。
エイコやトモコがそれぞれの好みで淹れてくれる草汁の援けが無ければ、毎日の最低限の仕事もせずに眠り込んでしまっていたかもしれない。
「少し冷ましたから、まあとりあえず一杯飲んで、ね?」
「お、ありがと」
「ありがと」
「酸っぱい」
トモが勧めてくれるのは、大抵酸味が強かった。
強い酸味で苦みを隠していたようだ。
それを呑むと体が温まり、元気が出た。
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最終防衛ラインとなる家の戸口内部も、侵入者を阻止撃退しやすく改造した。
巾を狭くしたり、或は這いつくばらないと入って来られないようにできるよう、必要に応じて中から部材を容易に宛がえるようにした。
また、その狭隘化部品を個別に閂機構で固定する仕組みも備えた。
もともと戸口の間を設けて、進入を一定の高さと幅の通路に制限する支柱と横壁を構えていたが、改造に当たっては支柱を強化した。
高さを制限するのは、中から出入口通路に向かって左手の支柱のこちら側、その手前に新たに立てた支柱との間に、予め固定の高さで上下にガイドレールを準備して、その間に横幅の広い戸を載せておき、いざとなったら対面の支柱間の隙間まで一気に滑らせて、止まる処まで押し込んだらガイドレールに跨って設置した閂機構をロックして、元に戻せないように固定。
左右の巾を制限するのは、同じく右手のもう一つ手前の支柱間から半分ほど突き出して止まるようにした戸で、こちらは地面にだけガイドレールを設け、戸の上部は通路枠より高く、押し込むと戸の上部がストッパーに当たって止まる。
戸とは言っても板ではなく、これまでも暫定拠点や本拠の嵌め戸といった要所で使ってきた、丸太を少し削って出した平面同士で継ぎ合わせた、重たく頑丈なものだ。
今回は更に工夫して、締め上げて緊密に連ねる為の縄は、全ての丸太の同じ高さであけた穴を通していて外側には露出していないから、すぐに断ち切られる惧れは無い。
この改造は、敵が戸口を破って侵入してきた時に、戸口内通路から土間に出て来る処を少し開けておくことで、そこへ敵を誘き寄せ、元々狭い通路で暴れづらくなっている敵を、通路の隙間から杭で串刺しにして殺してしまおうという意図で成された。
なので、仕上げとして本当は逃がさない為の落とし格子を通路出口に設けたかったが、そこには戸口の嵌め戸があって干渉するので、出来なかった。
ぼくはそれでも、隙間を設けて横から三連格子を押し込んで脱出を阻害する案を出したものの、
「まあ、もーいいよー」
「ンだな、メンドクセーよ」
「トモちゃんお茶ー……ああ、眠い~」
「はーい」
てなわけで、皆やる気が出ず、ぼくも眠かったのでお茶を貰って眠ってしまったのだった。