初の依頼を請けて カスコヨの街の初めての夜
もう受付はしてない時刻じゃないかと思うが、一応広場に面した兵舎に入り、廊下の掲示板を見て、依頼に目を通す。
「あれなんか、丁度いいんじゃねえかな、ほら、ラクマカへの配達」
「……都合、いいね、多分……」
「じゃ、これにしましょ。……行って来るわね?」
まさかあたし一人で行かせるつもり? という幻聴が聞こえる……。
「おら、いくぞお」
俺はいいよ……疲れた。
「やだよ、『こんな遅くに来るな』とか恥かきそうじゃん」
「あー、俺は繕い物あるから。いってらっしゃ~い」
マサもノホホンと言うと、
「ほらっ、そういう弛んだ姿を晒さないの」
気持は分かるけど、無茶いうなよな。
「俺ももう疲れたよ。一緒に荷物番してるから、いってきて」
それで、動ける者だけパンパンと埃をはたくと、トモコを先頭に依頼取扱い室に入って行った。
だが少しして戻ってきて、
「駄目だったわ。まだ信用が充分じゃないってさ」
と不満顔。
ここで請けようとした依頼内容は、
「ラクマカの街に小荷物を届けて貰う。届けてここに戻って報告するまでが仕事だ。期限は今日から14日。報酬はスタッグ銀貨で120枚」
というもので、ぼくたちにとってはとても都合が良さげだったのだが、宅配依頼は持ち逃げされたら困るから、或る程度は信用がないと駄目らしい。
ぼくたちはこのカスコヨの街ではまだ全然信用がないのだった。
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このカスコヨ村にも、サカヌキ村のトールのような、新参者にとって窓口となる男が居た。
ケンジという黒髪のヒゲもじゃ中年男で、やはり小太りで黄衣だった。
其処で宿屋以外に無料で泊まれる場所はないかと訊くと、
「いや、傭兵なら宿屋に泊まれよ」
「まだ傭兵になりたてで、お金が全然無いんです」
「じゃあ、邪魔にならん辺で適当に寝てろよ、責任は持てん」
と眉を顰められた。
「家畜……小屋、とか空いてませんか?」
「家畜小屋ねえ、ああ……いっぱいだなぁ今は」
街は人で賑わっている、ということは、宿も家畜小屋まで含めて埋まるのが早いということだったか。
一つ勉強になった。
……じゃあ、広場で寝るしかない。
とりあえず兵営に許可を取ろう。
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その晩は、広場に面した兵営の前でぱちぱちと音を立てて燃えている篝火の傍に陣取った。
其処が一番安全そうだからだ。
そして修繕作業をしながら、交代で見張りに立ったり眠ったりした。
履き物の修繕を最優先にして、その次には、行動中には応急修理もできなかった下半身の防具の破損個所をできるだけ直す。
といっても、虫に齧りつかれたり鉤爪で引っ掻かれた硬革の傷などは簡単には補修できない。
とりあえずは草束の潰れた隙間に新たな草束を足しこんで埋め、切れた紐は草を結んで補強しておく。
へし折られた右脚絆や右腿前面の簀の葦を交換したくても、替えは背負子と一緒に落として来たから、代わりにさっき採って来た細い枝で充てておく。
他の防護パーツの補強材の破損などは、細枝の通常交換で済むから何も問題ないが、基材となってる草束の渦巻編みは鈎裂きができていたりするから、軽い損傷なら細枝から『縫い針』を削りだして、それで草を縫い込んで補強する。
酷い破損が二カ所、右の腹部と右の手甲にあり、そこだけは表側基材を全損扱いにしてバラし、鍋敷きを編み直し、整形して、裏側基材と綴り直して、補強材を挿入し直し、周囲の部位の防護パーツと連結し直さねばならなかった。
背負子を失っていなければ、簡易寝具として常備している草の束を広場の床に敷いて、横にした背負子を立てて六角形の一辺を抜いた形で囲み、上から包む大きな菰を背負子に紐で固定して、草と菰の間に潜り込んで、身を寄せ合って一緒に包まって、見張りをちゃんと立てて休息をとっていたところだ。
することは野営と同じだが、城壁内なので安全性は全く違う。
だが、今は背負子とともに日用の雑具を菰も含めて殆ど喪っている。
火の粉に気をつけながらも出来るだけ篝火の傍に居て、五人で互いに身を寄せ合って過ごすしかない。
全身の防具も汗まみれで湿っていて不快だが、我慢だ。
まさか、こんなに早く背負子を失う破目になるとは思わなかった……。
せっかく城壁の中に居るのに吹きっ晒しの処で寝ることになるので、臭い家畜小屋でも良いから屋根と壁が欲しい、と皆が思った。
家畜小屋に泊めさせてもらえれば、見張りも不要なのが良い。
少々のデメリットとして、臭くなってしまうけれども、利点の方が大きい。
広場には、サカヌキ村同様にやはり大きな木があって、いきなり雨が降り出しても、雨宿りができる。
身を寄せ合えば、一応は眠れないほどではない。
俺達の他にも宿屋に泊まらない物売りなどが広場に居て、この寒空に天幕すら立てず筵や革に包まるだけのみすぼらしい仮の寝床で沈黙しており、旅の夜の侘しさを感じた。
違和感をずっと感じていたが、山では森の樹々の梢を渡る風が潮騒のような音を常に立てていたのが、ここでは波が打ち寄せる響きに変っていたからだった。
それに爽やかな山の風の匂いと違い、この海港は潮風の匂いが漂い、喉が刺激された。
今までずっと山の中で暮らしていた事を、ここにきて初めて強く自覚した。
夜が更けた頃、エコが見張りに立っていたが、トヨトモの二人が眠る前に予め了解を取っていたので、皆の余った草でマサとぼくとが薄い菰を作りあげた。
余っていた草自体の長さが短めなので、出来上がった菰の丈も低いから、僅かに地面近くの風除けとして、眠る二人の周囲に立てて、飛ばされて行かないようにマサとエコが足で抑えてやり、ぼくがエコに代って見張りに立った。
翌朝、未明に全員で僅かな朝食を摂り、そのまま広場で待機し、依頼者と合流して、日の出前に街を発った。




