初の依頼を請けて 最初の野営地の夜の戦い
闇の中から、坂道を妙な動きで這い上がって来る何かが近づいてきて、ぴょんと跳び始めた。
そいつは大きなバリケードの上端まで跳んでとりついた。やばい!
トモコが叫ぶ。
「やっつけて!」
「あァよッ!」
トヨキが弓で射かけたが、グネグネっと気持ち悪く蠕動する怪物の身体をすり抜けるように、矢が刺さらずに飛び去っていった。
その時誰かが叫んだ。
「跳んだ!」
「わあ!」
全員の視線がバリケードの天辺から跳んだ怪物に注がれる。
俺は頭上の黒影をよく見つつ、戈を振りかぶり、飛び降りて来る怪物へ得物を振った。
空振り!
夜空を背に、揺れる篝火に照らされる標的との間合いを見間違えたらしい。
あっ、と思ったが、その瞬間に後ろからドンッと突き飛ばされた。
マサか!?
と思ったが、土塁からバリケードに右脇を擦らせつつ地面へ着地。
右手の中の戈がバリケードにカァンと当たって跳ね返るのを抑えて上を仰げば、マサが踏み込んで怪物へ両手でかざした盾で、敵を食い止めている。
お、左手一本で盾を支えられるらしく、右手に石斧を抜いたぞ!
思ったより軽そうな敵だ。
その背後を抜けてエコの戈を拾い上げていたトヨが、即座に振り回した。
「きゃっ!」
と邪魔な場所から慌てて飛び降りてきたエコを左腕に受け止める、とトヨキの戈が怪物に命中!
マサの盾とトヨキの戈に挟まれた怪物が正視に堪えない惨たらしい死に様を晒し、体液が飛び散るのをエコと二人、慌てて避けて、後方へ下がる。
ここは狭い。
土塁とバリケードの間だから。
一部の怪物は坂道に転がる犬の屍骸に取り付いたようだが、まだまだ俺達に照準を定めた奴らが居て、さっきのやつ同様にバリケードの天辺に取り付いた。
右端の一匹がその瞬間にパァンッ!と弾けるように断ち切られ、体液が入口の外へ降りかかった。
あの付添人か、さすがの腕前だ。
ちらっと戦況を観ながら、転がるように、エコの腕をとって後方へ下がる。
トモコは盾と戈を構えてトヨの後背をカバーしている。
トヨが司祭様の付添人を手本にしたか、入口バリケード天辺の怪物を標的に定め、マサより前、弓の射撃位置まで出て、戈を水平に振った。
付添人ほど見事ではないが、的確に攻撃が命中し、戈に植わった棘が怪物を叩き落とす。
だが、次々に怪物が押し寄せ、バリケードの天辺に取り付き出した。
幾つかの怪物が、トヨの振う長柄の武器より先に更に跳び上がって襲い掛かって来る。
マサノリが盾で受け止めると、石斧の刃を敵へ見舞う。
怪物の身体の一部がグチャァッ!と破れ潰れた。
マサはインパクトの瞬間、できるだけ盾の裏に隠れて汚損被害を減らしている。
何匹か、入口を抜けた後、真っ直ぐ突進して、待ち伏せ位置まで抜けてきた。
それが出口を閉塞しているバリケードの天辺にとりつく。
俺は頭上の黒影をちらっと見ながら、転がるように、投げ出しておいた棒網を拾い上げに走った。
飛び降りて来る怪物へ、エイコがトヨの置いてった戈を振った。
空振り!
夜だと目測が狂うよな!
俺はすぐにぐるんぐるんと棒網を頭上で斜めに振り回しだすが早いか、エイコに攻撃に気付いてもらうべく
「いくぞおおォ!」
と叫び、地面の上に降りて来た三体の標的目掛けて薙ぎ払うように網を飛ばす。
把手棒を地面に叩きつけるように、網を低く標的へ浴びせ掛け、次々に絡めまとめた!
すかさずエイコの戈が真上から襲い掛かる。
俺も網を手繰りながら、腰から棘棒を引き抜いて攻撃。
ガスッと刺さったり引っ掛かったりした手応えあり、左手の棒網と右手の棘棒の両方に力を籠めて、ずるずる引き寄せる!
ぐねぐね、と網が波立つように揺れ動いて、気色悪い。
「エイコ! 盾をくれ!」
網の把手棒を手放し、彼女から放られた盾を素早く抱きかかえる。
網の下でぐねぐねっと動くのを、網の上から盾ごしに抑え込もうとすると、ガツン、と下からぶち当たってくる。
硬い手応え。
それを棘棒で一撃!
更にもう一発!
打ち砕くべく、力を込めて振るうウォーピックから、怪物の体液が振り撒かれる。
打ち込む度にグサと刺さる感触。
蠢く爪のある多脚!
暴れるのは大きな虫! と正体が判っても、安心する要素は全く無い。
むしろ気持ち悪さが圧倒的 !!
「テメーらのような虫が居るカハァーッ!!」
決然たる殺意が、己の中で一瞬に水晶のように硬く育つのを感じ、殺意の硬さに比例した渾身の力を揮って仕留めにかかる。
エイコもその全体重をかけて、大きな虫の怪物へ戈を振り回して何度も叩き込んで弱らせてくれている。
今のうちに!
立ち上がって棘棒を思いきり振り上げると、開いた胸を一気に閉じ、反り返った全身を一瞬の裡に縮めて、烈しい一撃をデカ虫の急所と思しき部位に叩き込む!
グシャッと棍棒に叩き潰された怪物は一瞬、痙攣して、呆気なくのびて力を失った。
一匹、殺った!
やったぞッ!
もう一匹!
グシャッ!
グシャッ!
グシャッ!
「 エコ! 死体を退かせっ!」
歓喜しつつも吐き気を催し、すぐに大きな虫のまだ時折ビクッビクッと不気味に動く屍骸を棘棒で引っ掛けて後方へ放り出し、処理をエイコに任せる。
棒網は死体にまだ絡まったままだ、仕方ない。
少しガタついた盾と、棘が歯抜けになった棘棒を構える。




