表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/215

初の依頼を請けて 最初の野営地

他人に指図され、自分たちでペースの配分一つ決められないというのがこれほど堪えるものだとは、ついぞ久しく忘れていたような気がする。

休止地点の間隔も次第に長くなるように思われたが、恐らく疲労による錯覚だろう。

午後の陽が傾きだす頃には、休止地点に辿り着く度に、女の子たちはすぐに背負子を下ろしてへたりこんだ。

ぼくたち男組は意地で静かに腰を下ろしたが、足や肩甲骨の下がずきずき痛んだ。

鎧の下の筋をよく揉み込むこともできず、身体を丸めて筋を延ばして少しでも休め、次の歩行に備えていると、すぐに小休止が終わり、また立ち上がって出発する。


こんな苦痛が、まだ一日分すら終わっていない。

そのことに気が遠くなりかけ、とても警戒態勢をとるどころではなかった。

付添人のあとに尾いて一歩一歩辿る。

意識は次第にそれだけに集中していった。


--


晴天が続き、夕方になった頃、先頭を行く付き添い人が、ちょっと動きを変えたので、気づいた。


いつの間にか、左右を緑の尾根に挟まれた街道の行く手、残照に輝く橙色の雲を背景に、こんもりと盛り上がった場所が川沿いにあった。

付添人が指さしていて、司祭が頷いていた、ということは、きっとあれが最初の野営地だ。

依頼者の様子では、予定通りの頃合に到着したようだった。



高い土塁と分厚い土塀に守られた、小丘のような野営地に近づくと、深い濠に囲まれているのが分った。

ぼくたちが到着しても、中からは音一つせず、煙一本立ち上っておらず、他に誰も居ないようだったが、薄っすらと燃えさしの臭いが漂っている。


付き添い人が

「中が安全か、誰か見てこい」

と指示したので、遊撃役のぼくが行く事にする。


背負子を下ろし、背負い籠も戈も傍に置いて身軽になると、盾だけを手に、濠を渡る巾一尋の狭い坂道を登って、遮る物のない入口から中へ入る。


土塁内には薪や杭が積まれていて、奥には地面に間隔を空けて打ち込まれた杭や取水用の跳ね釣瓶が見えた。

木製のバリケードも幾つかある。

人影は無い。


大丈夫、問題ない。

一行の方へ振り返り、腕を回して、「安全」の合図を無言で送る。


--


全員が入り、荷物を下ろした。

トモコもエイコもへたり込んで、ぐったり休んでいる。


休む間もなく、司祭様の付添人から

「入り口を封鎖しておけ」

と言われたので、土塁の内側に立てかけられたバリケードに取り付く。

「そっち持って」

「重いなっ……!」

「手を挟むなよ!」

背丈より少し低いバリケードを、男三人がかりでうんうん唸りながらどうにか持ち上げて、入口までもってきて一旦下ろす。


付添人に

「それは坂の途中に置け」

と言われたので、あまり広くない坂道から濠へ転落しないように気をつけて坂の途中まで運ぶ。

坂道の途中に、さっきはあまり深く気に留めていなかった凹みがあるので、そこにバリケードの足のどれかを挿れようとしたが、うまく収まらない。

一旦バリケードを置いて、中へ戻ると、やはり固定用の杭があったので、抱えて戻り、バリケードを固定した。

これでバリケードは充分な強度を発揮してくれる。


虫食いになっていたら大変なので、バリケード自体の強度も、充分な目視と軽いハンマリングで一応確認しておく。


入口にも同様にバリケードを固定。

これで、山賊などが襲撃してきても、坂道の途中で勢いが堰き止められるから、そこへ弓矢や投石、投槍などで攻撃できるし、突破して来たら入口で土塁と土塀に身を隠しながらバリケード越しに迎え撃てる。


入口のバリケードは固定の為に更に、内側に長い粗朶の太い束を三つ、押し転がして当てた。

敵が入口のバリケードを押し込んで退かそうとしても、抵抗が大きくて難しいうえに、バリケードを乗り越えて跳び込んで来ても、粗朶の隙間に足が捉えられて身動きできなくなった処を攻撃しやすくなる。


バリケードはまだ大きいのが残っていたので、付き添い人の指示で中庭へ全部設置した。

二つは入口の粗朶の束の側面を抑えて、敵が入口を突破してきた時に、横へ逃げにくくする。

そうして正面しか突破先を無くしておいて、敵が粗朶を抜けて地面に降り立ったら、そこもバリケードで囲まれているので、狭い出口に殺到してきた処を、足元の逆茂木と顔の高さの棘のカーテンとで勢いを殺し、待ち伏せして迎え撃つ。


いざ襲撃となってから慌てないで済むように、防御構造物を設置しながら防衛戦術について簡単に説明を受けた。


--


中庭奥に何本も打ち込まれている杭に、付き人が油布の紐を縛り付けて、夜営の天幕を組み立てている。

トモコやエイコも、付き人の働きを見て、同様に早めに寝所の設営に入る。

油布は無いので、代わりに持って来た長い菰に付けた紐を杭に縛り付けている。


マサはそれを横目に中庭を横切って、跳ね釣瓶を操作して近くの川から水を何杯も汲み上げる。

重い板蓋を取り除けた石の水槽の中をよく濯いで、排水栓を嵌め直すと、新鮮な水を満たしておく。


土塁に上れば、土塀の内側から遠くまで見渡せる。

最初に見張りについたトヨとぼくは、土塁がぐらつかないか、緩んでいないか、恐る恐る調べながら登った。

少し離れた場所で同じように付添い人と交代で見張り番に立つ司祭様を視界に入れながら、左右前後を見張り続ける。


暮れ行く残光の中、付き人が土塀の外と中庭に篝火を焚いてくれた。

依頼者たちは彼らだけで片手で行動食をつまんで夕食としていた。


次第に空も明るさを失い、地上はそれよりも早く暗くなってゆく。


トヨとぼくは早めに見張りをエコたちと代わり、周囲の見え方を覚えておいて貰う。

警戒に立つ二人以外の三人で、手早く夕食の仕度をする。

中庭のバリケードの蔭で、小さく焚火を熾す。

ぼくたちは食糧としてカチカチの魚や肉の乾物を携行しているので、火と水が必要なのだ。

各自の鉢に水を注ぎ、焚火で温めておいて、奇麗に洗った各自の温石を焚火で充分に熱したところで長箸で鉢に入れ、焼石で微温湯(ぬるまゆ)と乾物と草の葉を一気に加熱。

食材は刻んであるので、湯で解れたらそのまま湯と一緒に食う。


焚火も始末し、陽もとっぷりと暮れてしまうと、風で揺らぐ篝火の焔だけが暗闇を照らした。

時々、篝火に薪を足す。


暫くの間は何事も無く、静かに夜が更けてゆく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ