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初の依頼を請けて サカヌキ村からの出発

出発する頃には、既に日がかなり上がっていた。


「それでは参りましょう」

「司祭様、御伴致します」


初仕事を請けたぼくたちは、司祭様たちのあとについて、歩き出した。

有難いことに、司祭様を乗せたロバは、のんびりした歩調で進んでくれた。


尾根からいつもの谷間へ下りる道へ曲がらずに、暫くは尾根の上を辿る道を進んだ。

いつもと違う道なので、足首を挫かないように、足を下ろす場所一つにも注意する。

土混じりの砂がキラキラ光るが、所々で下の岩、粘土の岩盤じゃない本当の硬い岩が露出していて、八割れになっていても板底の草鞋とは相性があまり良くない。

杖でバランスをとりながら慎重に歩く。


それでも小石を蹴とばしたり、枯れ枝を踏み折るのはざらで、ともすれば出っ張った石の角につまづいて、装備の重量によろける。

時には転びかけた背後のトモコがぼくに体重を浴びせて来ることもあり、その度に踏みとどまって持ちこたえて、ゆっくり振り返り、仲間の無事を確かめる。

背負子を落としてしまっていたりすれば、最後尾のマサが掛け直してやる。

ヘッドギアの中の口元をぎゅっと食いしばるように、すまなそうな顔をしているトモコの肩を、努めて口元に笑みを浮かべて、二人でぽんっと叩いて励ますが、司祭様のロバは立ち止まって待ってくれたりはしない。

少し距離が空いてしまった前方に遅れまいと、またすぐ歩き出す。


かなり進んでから、前方でロバが立ち止まり、小休止しているところへ追いついた。

さして休むこともできないうちに、行軍が再開される。


--


また暫く歩くと、監視哨地点があって、そこで二回目の小休止をとった。

付き添い人と司祭様は監視兵と何か話していた。


五分ほどで行軍再開。

尾根道はまだ続くようだったが、監視哨地点から谷間へ下る道へと逸れた。


谷間へと降りてからは、街道をひたすら歩いた。

起伏の多かった山上の道に較べて、平坦な街道は遥かに歩きやすい。

特に山麓の脇道から谷間中央の道へ合流すると、小石も稀なので、裸足でも行けるくらいだが、護衛中の今は常に警戒中で、履き物の紐を緩める余裕はない。


帰路はきっと自分たちだけで戻って来るから、迷子にならないように、道をしっかり覚えておこうと思ったが、分りやすい一本道だった。

たまに分岐があっても、本道は明白だから、油断さえしなければまず間違いなく帰り着けそうに思えた。


いつ襲撃があっても対抗できるようにぼくたちは全員が完全武装だったが、力まずに楽にしていた。

鍛えて体格も良くなっていたが、そうであっても全身の防具はやはり負担だから、淡々と歩いて行かないとへばるのは目に見えている。

スコッレの時に使うような余分な緩衝材は装着していないが、その分食糧と水がある。

女子の防具は男子のよりも軽量化してあるが、それでも彼女らには負担が大きい。


手には戈を握って地面に杖つき、左肩から胸と腹の前に横向きにぶら下げた盾を子守りのスリングのように軽く抱いて揺れを抑え、重量を受けて地面に食い込み気味の八割れ板草鞋をできるだけ無駄に上下させずにすっすっと歩いた。

司祭様たちが黙って歩き続けるので、ぼくたちも無言で尾いて歩いた。


去年と違い、大籠は持っておらず、女子も男子も小型の背負って走りやすい(つまり逃げやすい)籠を背負っていた。

背負子は籠をそれに括り付けるのではなく、むしろ籠と干渉しないような枠として作り直し、遠目に目立たぬように高さも抑えた。

背負子の運び方は以前と同じく、腰の左右脇の受け具と額に掛けた縄帯での三点支持。

いざとなれば背負子で運ぶものは一挙動で丸ごと全部捨ておいて、最低限必要な物だけ容れた背負い籠を担って逃げられるようにしていた。

採集した草や水、旅用に作った木製の軽量小型カップなどの替えの利く日用品などは全部背負子にじゃらじゃらと括りつけて、いざとなれば捨てる覚悟だった。

そうは言っても、ぼくたちにとってはどれも一つ一つが、それを集めたり作ったりするのには総て己の労力と時間を費やさねばならない物だから、できれば失うような破目には陥りたくなかったが。


街道では、人の姿は殆ど見かけなかった。

風が草木の葉や衣の裾を翻すのが、目立った僅かな変化で、特別変わった事は無かった。


雲が少し湧いているが、上天気と言える。

爽やかな風が、火照った頬の上を心地良く滑り、熱を奪って流れ去って行く。


たまに飛脚が走ってきて、忽ちのうちに去っていく。

その都度、彼者の背後に追いかけて来る怪しいものが居ないか、確認しては安堵した。


一定間隔で道標が立っていたが、小休止の地点は道標とは無関係だった。

時間にして概ね30分程歩くと、5分休むといったところだった。

休むというよりも、不自然に尾けてくる者が居ないか、待伏せている者が居ないか、異状の有無を確かめるのだ、だから気を抜くな、と付添い人は言った。


ひたすら同じリズムで歩き続けた。

完全装備でこれほど長く歩き続けるのは初めての経験で、もっと息が上がるような激しい運動経験はあっても、これはまた別種の苦しみだった。

ロバの歩みがゆっくりだから尾いて行けたが、一年間の鍛錬が無ければ、途中でへばっていたかもしれない。

一年間鍛えろと言った守備隊長の見立ては正しかったようだ。


昼になっても昼食も摂らず、ひたすら30分ほど歩き続けて5分ほど周囲を警戒する一定のペースで進み続ける。

ひたすら同じリズムで歩き続ける。



拙作をお読み頂き、実に有難うございます。


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