過ぎし暗く寒い冬を振り返る 隠蔽と架け直し
翌日、初冬の好天に恵まれたので、トモトヨ二人で午前中に小部落に行ってお爺さんに例の件を相談し、快諾を得た。
それでその足で上村へ急ぎ、トオルに相談すると、本当なら関係の事務へ回すべきところを、一存でお殿様へ直通で持って行って、すぐに承認を取り付けてくれた。
ついでに遂に拠点を建設して入居した事を報告した。
「よくやった。君たちはまだ全員が子供で収入も皆無なので、税は掛けられない。安心し給え」
「本当に有難うございます」
そして後がつかえているからと、すぐに追い出され、また急いで帰って来た。
その間、家に残ったぼくたち三人はとりあえず、敷地内の縁に視線を遮る為の草の束を立て、その外側に盛り土をして草を植えこんで生やす作業をしていた。
草の束が倒れないように打ち込む細い杭は、拠点建設工事の余りがまだ物資集積所にある。
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トモトヨが小道閉塞の許可を得て黄昏時に帰還すると、早速その翌日には小道の適切な箇所を選んで藪にしてしまい、ついでにトンネルも確保して閉塞工作を完了させた。
そっちは小柄コンビのエコトヨだけで出来るので、同じ日に橋も架け替えた。
当然マサと二人で一日がかりだ。
トモコはその間の見張りや火の番などを島の上で引き受けてくれた。
橋は従来のを完全に撤去するのではなく、裏側から長い木材を宛がって補強して再利用することにした。
まずは紐編みとその杭を撤去した後、彼岸側のロックを紐を引いて外し、地面に固定していた杭は指先に刺さった棘を抜くときのように木槌で横に何度も叩いて少しずつ緩め、最後にマサと二人でズルズルと引き抜く。
そうして彼岸側の固定を解くと、安定を増す為にマサに橋の端に乗っていて貰い、ぼくだけ島側に戻る。
ぼくが斜面から橋を蹴り落として、対岸のマサが抑える事で、此岸側で橋の先端が斜面を引っ搔きながらずるずると少しずつ落ちて、途中で止まるから、斜面を削り掘って作った石段を下りていって、手でぐいぐい、マサも足でぐいぐい、二人で押して少しずつ横へずらしながら落としていき、最後に水場まで落としておいて、その後マサ側にある末端重量増加で安定させる為の丸太を、結わえ付けている縄を解いて、除去する。
橋が軽くなったところで、
「よーし、じゃあ一旦立てるぞー」
「おーし」
「よっとー」
マサと橋の両側から、呼吸を合わせてぐいっと片側を持ち上げて、一旦立てて、それをまた
「じゃあ、ひっくり返すぞー」
「おーし」
で裏返しにしたところへ、念の為に少し伐りだしていたものの使わずに余ってしまい、夏の間ずっと物資集積所に立てかけて乾燥するに任せてあった、ぼくたちの伐りだす木材としては特大級の、5m級の材を、架橋時にも使った太い蔓で縛って、蔓を枝に巻き付けて少しずつ緩めながら、橋の上に倒した。
二本倒しこんで、橋に最初から開けてある縄通し用の穴を利用して、新たな縄で橋の裏に木材を縛り付けた。
既に通してある縄の所為で新たな縄を通せない場合には、通せる太さの蔓を採って来て、それで縛っておいた。
一本につき、マサの居る彼岸側で二カ所、中央で一か所、島に居るぼくの近くで一か所、縛り付けたら、あとは主にぼくが転落しないように気をつけながら、補強済の橋を裏表ひっくり返して元に戻して、最後はマサの方でまた杭打ちして出来上がり。
架橋地点は今までよりも少しだけ下流になる。
じゃ、なかった。
このあとまだ、長い木材が古い橋の下から突き出ている処へ、燃えさしと石鑿でできるだけ細くほぞ穴を削り開けて、そこへ細い杭を打ち込み、橋の両端の杭の間に紐網を張る仕事が残っていた。
そして、色々と使い心地が変わっているので、少しでもマシになるように、石鑿であちこち細かく削り直して仕上げておく。
これでようやく橋の架け直し作業が完了。
いや、まだ除去した錘の丸太材を何本も物資集積所へ片づける作業が残っていた。
紐網が相変わらず両端でしか留まってなくて大きく撓むので、エイコにブーイングされた。
実際に落ちかけて網に絡まって泣いていた者の抗議は無視できない。
疲れた頭で翌朝まで案を考えた。
橋の材には穴を開けてはいけない。
古い橋は中央やや対岸寄りに段差があるので、そこに木材を一本横に突き出るように置いて紐で固定し、突き出た所に穴を開けて支柱を挿し込む。
勿論、実際には加工は予め済ませてから、置きに行く。
翌日、橋の中ほどで紐網の為の支柱を取り付け、紐網の固定部を橋の途中に追加できた事で、多少マシになり、エイコを宥める事が出来た。
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島の対岸の川沿いの小道は、島から架橋部へ向かって右手の下流側については4mに渡って藪化させてしまい完全に閉塞させた。
トンネルも無いし、梯子も準備していない。
数年もすれば、周囲の草が侵入して根付き、本当に完全に藪になってしまうだろう。
茨を挿し木したので、早ければ来年根付くかもしれない。
架橋部から島へ向かって右手の上流側については、3m程度の閉塞になっている。
上流側も下流側も、カーブの内側は小丘状に盛り上がって草木が生い茂っているから、そこを登って拠点を観望するのはあまり考えられない。
道があるのだから、道を外れてわざわざ藪を漕がないといけないような真似を、単なる盗賊の偵察が一々やるとも思えない。
ただ、煙の臭いや音声が風で曲がり角の外まで流れ出て行くと、勘の良い奴は気づくかもしれない。
なので、いつも落ち着いて静かに暮らし、拠点を草むらで囲って音や煙を少しでも遮蔽する。
「そういうわけだから、特にエイコとトヨキ、頼むよ?」
「ぁぁ、ゎぁってるょ……」
「ぅん、静かにするょ」
本当にできるかなあ?
不安だ。
できるなら草むらの内側に高く土塀でも立てたい。
今後、少しずつやるか。
石と粘土と砂と灰を混ぜて。
そう思ったので、来年の日課として、できたらやることにした。