表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/215

旅券

「廊下の掲示板に出ていた護衛の仕事を請けたいんですが・・」


朝、そう切り出したトモコを先頭に、俺たち五人が訪れたのは、兵舎の中にある守備隊長室だった。

去年と同じ室内風景。



去年同様、たっぷり一分間、俺たち全員を値踏みするように観察したあとで、守備隊長は何かメモをとりながら、ゆっくり話し始めた。


「ラクマカの街まで、司祭のエリアノーラを護衛して貰う。送っていった後にここに戻って報告するまでが仕事だ。期限は今日から数えて40日。報酬はスタッグ銀貨で400枚」


掲示板の文面に少しだけ情報を追加した依頼内容を伝えると、そこで一旦口を結び、また開いて


「何か質問は?」

「報告が遅れた場合はどうなりますか?」

「多少遅れても、護衛がきちんと済んでいれば、報酬は全額払う。但しお前達への評価が少し下がる。期限の倍も遅れると報酬は半分だ。その場合の評価はいわずもがなだろう」

「噂の『五回失敗すると』っていう事ですね」

「そうだ。『他所へ行け』という破目にならないように気をつけろ。他には?」

「ありません」

「そうか、じゃあ旅券を見せてみろ……」

「え?」

「どうした、分らない事はもう無いのだろう……」

「いえ、旅券って何ですか?」


隊長はトモコを、そして後ろの俺達にも一人一人に目を合わせて、それから


「いいか、自分が何を知っていて何を知らないのか、それを弁えるように努力を怠るな。知らない事は罪じゃない、だが知ろうとしなければ身を亡ぼす」

「は、はい」

「旅券は、お前たち一人一人が持っていなければならん。お前たちが何者かを、国が証明する物だ」

「はい」

「旅券なしではお前たちが誰なのか、誰にも解らない。お前が自己紹介しても、それが信用できるかどうか、誰にも分らないのだ。そうなればお前たちは怪しまれて、酷い目に遭うかもしれない。旅券が、お前たちが何者かを保証してくれる」

「はい」

「旅券無しでは仕事にも就けないのだ。先ず旅券を取得しろ」

「はい」

「旅券はとても重要なので、下手な奴に任せると不正が起きる危険もある。それで敵国の工作員が我が国の民になりすましたりすれば、我が国の安全も脅かされる。少しでも危険を減らす為に、必ず守備隊長自ら住民を直接検分したうえで発行しなければならない。そういうわけで」


隊長は一旦別室に出ていき、少しすると、板の束を抱えて戻って来た。

デスクの席に座ると、板の束から一枚を取り上げて、さっと目を通すと、


「エイコ」

「はいっ」


と彼女が応えると、隊長が手招きして


「こちらへ。これからお前に秘密の質問をする。絶対に仲間や親兄弟にも口外してはならない。こちらの部屋へ来い」


隊長さんに促されて、エイコが一人で別室へ入っていく。

その扉を閉めると、隊長さんが別の扉へ入っていった。


少しして、二人がそれぞれの扉から戻ってきた。

隊長さんが、さっきとは別の一枚の板をエイコへ差し出し、二人で一枚の板に手を掛けている状態で、

「字は読めるか?」

「はい」

「書かれている内容に間違いはないか?」

と訊かれて、エイコはまごつきながらも、板に記されている内容に目を通すと、


「間違いありません」

「では、このまま変更なしで授ける。決して無くさないように。失くして再発行する場合には、懲罰として労役が課される」


と、そこでエイコを一旦下がらせると、既に熱してあった烙印を持ち出して来て、板に圧した。

じゅわあ~、と白煙があがり、板に焦げた捺印の跡がついた。


その印は見覚えがあった。


夏に水遊びする時に、仲間の身体に必ずみかける引き攣れた火傷の痕だ。

親から、国の民全員が、肩の後に圧されていると言われていた。

俺達のように元々この国の民の場合には、物心もつかない頃に圧されているようだった。


「これか? お前たちも幼い頃に圧されてるんだぞ」

「ええ、知っています」

「なら良い。身分証明の時には肩の後ろを見せることを求められる。武装したままではみせづらい。鎧や上着などは予め脱いでおくことだ」

「はい」


それから今烙印を圧したのとは別の、最初の板に何かを書き記し、そちらにはもっと小さな烙印を圧した。


「まだ仕上げがあるから、旅券を交付するのは明日だ。明日また来い」

「はい。今日は有難うございました」

「うむ。それじゃ、あとの者も一人ずつ呼ぶから、呼ばれたら前へ」


そうして、残る俺達全員が検分され、板に無事に烙印が圧された。


小部屋で隊長さんと一対一で仕切り越しに交わされた秘密の質問は、肩の後ろの烙印の確認の後、以前にトールの処でも為された問答の確認と、今回新たな質問を一つされて完了した。


--


翌日、また兵舎を訪れた俺達は、隊長さんから旅券を頂いた。

左右の掌を合わせたよりも大きな、厚みのある板で、重みがあった。


旅券には身体的特徴など、俺達を知らぬ赤の他人にも俺達が見分けられるような事柄が、墨痕鮮やかに記されている。

その他にも、俺達の来歴などが書かれていた。

要所の文字が彫り窪められて、朱を流し込まれていた。

そして最後に記述の日付と交付者(隊長さん)の名前が記されて、大きな烙印が文章の上から斜めに押されていた。

仕上げに、板全体に透明なニスが薄く塗られていた。


俺は旅券に縄をかけて首から吊るし、腹巻の腹のところにしまい込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ