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過ぎし暗く寒い冬を振り返る 防犯会議


ぼちぼち雪も降り出す秋の終わり頃に、斜面に石段を刻んで水汲みの足場を作ってから数日後だった。


「ここを作るのに使った丸木橋がまだそのまま掛けっぱなしなので、そろそろ何とかしたいのだけど」


当時まだ破損していなかった作業小屋で、暗くなってもまだ皆で作業していた時に、トモコが話題を切り出した。

ぼくとマサは空が薄暗くなるまで柴刈をしていて、さっと水浴びと洗濯を済ませてから戻り、今は作業小屋の燻し場で被服類を燻しつつ、焚火にあたって自分の身体共々乾していた。



毎日一度は橋を点検して、彼岸と此岸とで二分して重ねて縄で綴じている丸木橋の連結を締め直していたお蔭で、橋が不具合を起こす事も無く、偶に誰かがうっかり落ちかけてはセーフティネットにぶら下がって助けを求める叫び声をあげる破目になる程度だった。

ただ、明白なセキュリティホールなので、盗賊に襲われたりする前に対策が必要だった。


「うん、で、どーするンだ?」

ぼくを見て、叩き台を出せ、とトヨキが催促した。


「この拠点の全体を考えてみようか」

「ん?」

「仮に橋を撤去してしまうと、外からの進入の仕方は大きく二つ、いや三つだ」


一つは川を渡って急斜面に取り付いて登る。

川の水量が少ない時には流される惧れはないが、高さのある崖のような急斜面で、特に下の方は垂直で手がかりもなく、岩は手がかりを掘るのも難しい硬さなので、準備なしには困難を伴う。


二つ目は、同じように川を渡るが、この間作った石段を上って来る事。

これはセキュリティホールを増やしてしまったわけだが、利便性と安全性を天秤に掛けて、どうしても欲しかったのだから仕方ない。

これに対しては、何か塞いでおくような仕掛けを作ることは可能だ。


三つ目は、山側から壕と土塁と防御壁を越えて来る。

ちなみに、最初に高速展開した携行柵は既に回収して、代わりの簡易柵を建てた。

土塁を越えたら、防御壁を乗り越えるか、或はぼくたちがそうしているように隙間を抜けて来るか。

ただ、隙間には、ぼくたちが山側へ出ていない時には、塹壕の戸口同様に嵌め戸を押し込んで、閂をかけてある。

だから基本的には、防御壁は乗り越えて来るしかない。


「それで?」

「橋があるお蔭で、川向うへ出るのは今は簡単だが、橋が無くなると、ぼくたちにとって不便だよ」

「それはそうなんだけど、それじゃ困るのよね」

「ぼくたちの防御壁は、あくまでも智慧の無い獣対策でさ、悪知恵の働く盗賊対策じゃないんだ」

マサを見る。

「うん、そうだね」

「この島だってさ、川に囲まれているから、川向うから獣が渡って上がって来る事はまず考えなくて良い」

「うん」

「ただ、ぼくらが架橋したように、梯子とか持って来れば、人一人が渡るのはできる」


ぼくたちの場合には、或る程度重量のある資材を大量に搬入する必要があったから架橋しただけで、そんな必要のない盗賊が侵入するのには、長い梯子が一つあれば足りてしまう。

それを防ぐには、斜面の上にも防壁を巡らす必要が出て来るだろうが、今ある防御壁にしてもそうだが、木製では放火されたら崩壊してしまう。

だから岩を積まない限り、壁で防ぎきるのは難しく、でもそんなことはぼくたちには無理なのだった。


「だから、見つかった時点で駄目なんだよ」

エイコとマサが

「橋があったら絶対見つかるから、不便でも橋は取っちゃうってこと?」

「でも、ぼくたちの建物があるし、今は外側に階段も掘っちゃったよ? どうしたってバレるんじゃないのか?」

「だから、もうこうなったら、そもそも道を通って来られないようにするしかない」

ええー、と声があがる中、

「川沿いにカーブを回って来られなければ、そもそもこの島自体が見つからないからな」

と言い切る。

「出来ンの?」

「じゃあ、部落の方たちと話し合わなきゃならないわね……」

とトヨトモが云うので、

「そうだ。交渉を頼む。それが上手く行かないと話にならないんだ。そこが通れば、あとはトオルにお伺いだ。二つの関門を突破できれば、道を辿って来る奴は先ず気にしなくて良くなる。静かに暮らす前提だけどね」

「道を塞ぐわけか……道を辿ってきたヤツは、行き止まりと勘違いするわけだな?」

「うん」

「オレたちが外に行く時には、どうするンだ?」

「まず塞ぎ方だけど」


草むらっぽく草の束を作って立てて固定し、土盛をして草を植えこみ、不自然さを消して、行き止まりと勘違いさせる。

草むらっぽい部分は或る程度の奥行が必要だが、2mもあれば充分だ。

草むらくらい踏み越えようとする奴もいるだろうから、棘だらけの茨も持って来て、草の束に絡ませる。


ぼくたちが通過するには、草深く隠した獣道の狭いトンネルを這い潜るか、梯子を使って上を越える。

といっても、普通の段梯子なんか作ってる余裕ないので、簡易な三角梯子を作って頭上の高木の枝に立てかけて、枝に上がったら腰掛けて梯子を持ち上げて、今度は人工藪のあちら側に下ろして、降りた後に隠す。

枝の上に居る処を遠くから見つけられないように、他の枝葉で姿が隠れるような枝を探し、その下に藪を設ける。



「ただ、こうまでしても、山中を渉猟する奴の目からは逃れられないから、山側からの視線を遮ったり、蔦を這わせるとかして上手く誤魔化す工夫は要るんだけどね」

「ああ、まあそれは仕方ないでしょ」

「この島の拠点の敷地自体も、周りに少し表土を盛り土して、丈の高い草を植えるよ」

「すぐには生えないよ~」

「当面は草の束を置いておくくらいだね……色々な草を挿し込んで、少しでも天然に生えているようにみせかけるか」」



で、橋はもっと使いやすい頑丈な橋を新たに造って、架け替える。

橋を島に架す地点は石段の最下部にまで下げて、少しでも見つかりにくくする。

石段最下部は水場用に広めに作ってあったから丁度良い。



拙作をお読み頂き、実に有難うございます。

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