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怪我をしても防具

作業BGM: "It's Me , Cathy" by Hubert Kah. "Runnning Up That Hill" by Kate Bush.

好事魔多しというが、ぼくもそうだった。

物事が総て順調だったので、少し気が緩んでいたのか、それとも順調で励み続けて知らないうちに疲れがたまってどこかぼーっとしていたのか。

とにかく、その夏、一番暑い頃にぼくは怪我で戦力にならなかった。

申し訳ない……。



「オイッ!」

「あ!」


最初は狩りの時で、崖っぷちなのに気づかずに、足を滑らせて落ちかけた。

ギリギリで気づいたトヨキに声をかけられてなかったら、そのまま落ちていただろう。

寸前に気付いたお蔭で、もう既にズルっと滑って落ちかけていたが、あわやというところで僅かに足先と手がそれぞれ木に引っ掛かった。

完全に落下していくのを免れたが、腋の下で引っかかってる状態で、泥だらけになってあちこちに擦り傷も作って這い上がり、エイコの水難の時を思い出す破目になった。


その傷を水で洗い流して「沁みるぅ~」とかまだ言っているうちに、本当に負傷した。



作業自体は何と言う事もない、いつもの柴刈りだった。

作業に入る前の休みに貰った草を噛んでたら、小さな欠片が内側の歯茎の窪みにぴったり貼り付いてしまって、舌先ではどうやってもとれず、鏡を見ることもできないので指先でもなかなか取れず、作業が始まるからと放置しようにも、厚みのある葉の存在感で気が散ってしまい、それがもとで集中できずにいた。


それで足元の石がぐらついた時に、普段なら避けられるのに、反応が遅れて、石が崩れても足を載せたままで、そのまま転倒した。

しかも倒れたところに尖った木の根の突起があった。

肋骨の間にぐっさり来た。


「あっハッ!……」


息が出来ない。


すぐに気づいて貰えて、救助と手当をしてくれたから、死なずに済んだ。

最初に傷口を抉るように薬を塗り込まれ、毎日新たに薬を塗られて、ぐったりと臥して過ごした。

毎日看病してくれた女の子たちも大変だったと思うが、自分の痛みでぼくは精一杯だったから、よくわからない。


ただ、痛みにうなされながらも、夜毎の眠りの夢のうちに見るのは防具のこと。

ジンメ川の上の夜空に架かる閃緑の格子の直交へと、周囲の地面から生え出た樹々が伸びて蛍光のピンクとグリーンの二色のバー・ネオンの筋を残して上空へ貫いていき、三次元立方格子に書き換えて去るのを横目に両手に握る操縦桿の感触を久々に愉しみながら押し込み、飛行球体に与える推進力が後方に理想のライト・アーマーのあるべき銀色の縫い目を描き出す。

あり得ないほどの歓喜に身を震わせて暗黒の中を飛び回る誰かが、心の後ろを引っ掻くような声で「お前はそこにいない」と囁き続け、ゆっくりと蠢く不定形の膜にいつしか追いつかれて捉えられ、天頂から墜落しながら、夕陽に照らされる街の丘に建つ擬古典趣味の東屋を露台に組み込んだ塔が視界に入るや、あまりの懐かしさに胸が締め付けられて、抑えきれない嗚咽が漏れ──

そうして気がついてみれば、今居るのはどこかの暗い穴蔵で、粗雑な寝台の紐の網の中に指先を突き立てた俺の涙が目の横の木枠の上で炉の焔にどこか曖昧に揺れている。

その苦みが喉の奥に引っ掛かり、たしかにこれと同じ涙を何処かで味わった筈なのに、それがいつの事かをどうしても思い出せない。


--


胸の傷が治りかけて来ると、まだ力仕事はできなかったから、紐を撚ったり、草で鍋敷きを編み込んで防護パーツを作る程度の軽い作業だけをして過ごした。


最初に作ったのは、肩帯。

あちこちの部分防具を連結する中央道みたいなものだ。

紐を編んでベルトにすると良いが、簡易には樹皮でも良い。

とりあえずはサイズ合わせの手間が要らない自分用を作るので、樹皮で済ませた。

自分用で上手く作れれば、後でマサやトヨのに同じやり方を当て嵌めれば良い。


でも樹皮一つでも自分で採って来る事もできないので、一々誰かに頼まないといけなくて、もどかしかった。

大は小を兼ねるから、少し大きめに採って来てもらった。


それに最初につけるのは、腰の防具なので、先ずそれを作る。

できるだけ簡単に作りたいので、小型の円形の鍋敷きを作り、とりあえず最小限の二層で綴じて、その小さな基材を八つ作って、縦2×横4並べて相互に連結し、腰の防護パーツの基材とした。

そこに串をぎっちりと左右に横段で詰めていくが、それは結構力仕事で傷痕に響くから、女の子たちにやってもらった。


「ごめんね、ぼくの趣味なのにやってもらっちゃって」

「ううん、平気」

「ゆっくり少しずつでいいよ、ただ、きちんと詰めてもらえれば」

「わかってる。これで守るんだから、隙間なんかできないようにするよ」


左右端の縦2×横1の二つの部分は中央部分の縦2×横2とは身体に沿う角度を変えて、胴の脇へ曲がるから、より短い補強材を別に挿入する。

当然曲がり角の部分では、腰中央部分と脇の部分との間で、挿入材に隙間が出来てしまう。

かといって基材から少し突き出して挿入材同士を噛み合わせてしまうと、何かの際にそれが他の物に引っ掛かってしまいやすい。

難しい問題だが、或る程度大雑把に守れていれば良い、ここでは安全性を少し増すよりも利便性を大きく増す方が良いと考えて、基材から補強材を突き出させるのはやめておく。

これで、腰の防護パーツは大体できた。

あとは連結の為に要所に紐を取り付けて、肩帯に連結するのだが、どの位置にとりつけるべきかは他の部品が出来上がって来ないと決まらないから、まだ付けずに放置。


串刺し作業は人任せにして、円座や鍋敷きを編んで成型して複層に綴じて平面連結して、というだけだと、軽作業だし、以前から試し続け考え続けていたので、結構捗った。


力仕事に耐え得るまでに復調したら、さっさと食糧採集の為に働かないといけないが、そうすぐには治らなかった。


それで次に作ったのは腹当、つまり腹部の防具。

腹部を中心に脇腹や胸の下部、それに或る程度下腹部まで覆うので、結構色々な防護パーツが必要になる大型の部分防具だ。

特に中央部の腹部のパーツは結構大きく、円座と称して使ってる大型鍋敷きを使う。

脇腹と下腹部中央の間は斜めに防護パーツで埋めるが、丁度ぴったり腹斜筋の上を覆う感じだ。

腹当の構成部品を総て連結すると、結構厚みが出て、装着するとデブに見える。



大体、そこまで作れたところで、仕事に復帰できた。

暫くは雨天でも食糧の採集作業の準備や保存・貯蔵の作業で忙しく、防具作りに着手する閑もなかった。


拙作をお読み頂き、(まこと)に有難うございます。


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