防具 防護パーツ 続き
基材に対して、後から補強材を挿入していくのだが、基材を作る時点ではそんなことは考慮せず、編みこみは通常通りしっかり締めて編み込む。
しっかり編んで初めて板状の形が或る程度保てるようになるのだから。
そのうえで補強材を挿入して、パーツとしてぎっちぎちに固まらなければ、補強失敗である。
構成の基本となる基材に対して、補強材として、堅い細枝(もしも手に入れば細長い骨片が良い)を幾つも隙間に挿入する。
できれば直交した格子状にすると出来上がりが強固になるが、宛がう部位によっては、それが難しいこともある。
例えば手甲のように腕に巻く装甲部品を作るのであれば、腕の骨と同じ方向には細長い補強材を入れやすいが、垂直方向である巻く方向へ硬い材料を挿入するのは、最初から丸く曲がった形に成型された材でないと、出来上がった時に巻けなくて困る。
難しいことでも、都合よい形状の挿入材があれば、意外と可能になることもある。
例えば、上記の腕に巻く部品なら、骨盤から切り出せれば、丁度良い曲がり具合の『肋材』が得られて、それを挿れれば良い。が、その場合、限られた手持ちの道具で、一体どうやって骨盤から切り出すかが大変な困難として立ちはだかるから、これは実現困難となる。小動物の肋骨なら、最初から丁度良い大きさであり得る。但し短かったり細すぎたりして、補強材として不適かもしれない。
別の手を探さねばならないし、それが見つからぬうちに、やむなく装甲部品に仕立てなければならない場合が殆どである。
見つかれば、後から新たに作れば良い。
或は出来上がってるのを一旦バラして、足して組み上げるか。
それが割合容易にできるのが、低コストのものを手探りで作るしかないぼくたちのやり方の、数少ないメリットだ。
そうして作る防護パーツだが、材料が材料だけに、耐火性能はゼロだ。
哀しい……。
耐水性能は……繊維なので一応はあるが、ただ、濡れて重くなるとその状態が持続しがちなのが欠点だ。
全然違うが、畳の厚さを半分にした物、と云えば多少は似た性質の物になるだろうか。
叩かれても衝撃を分散させて打撃の威力をそこそこ弱めてくれる。
この防護パーツを、最も当たりの強い箇所に補強用部品として重ねて結わえ付けたり、或はまた複数のパーツを紐などで連結して一つの装甲部品と為し、それに取り付け用の紐や緩衝用の部品や隠蔽用の外装などを追加して一箇の部分的防具に仕立てる。
補強材次第だが、切りつけや刺突貫通も多少は防ぎ得る……しかし隙間もあるから、するっと通ってしまう危険もある。
基材の脆弱性は目を覆わんばかりで、何かを防ぐたびに必ず強度は低下するので、維持する手入れの手間が毎回かかる。
手入れと言っても、できることといえば、よく乾してから汚れを払落し、それから全体をよく煙に当てて燻して乾かすと共に、煤やタールで虫やカビや湿気を防ぎ、少しでも撥水性を高めるといったことくらいで、場合によってはいきなり燻して、ついていそうな虫を殺すのを優先する。
酷く汚れれば、躊躇せずに洗浄する。
修繕の必要があれば、補強に挿入した細枝や骨片などの補強材をうんうん唸りながらやっと押し出し引き抜いて、基材を解したあと、切れたり擦り切れたりした分の草を足してから、折れていない補強材を入れ直す。
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以上のように、防具の製作経験を積むにつれて、次第に『防護パーツの連結』という大まかな方針を立て得たぼくは、その方向で製作を続けた。
閑をみては防具を作り続けたので、次第に装甲部品を増やせて、被覆可能な範囲も拡がった。
その為に皆に基本構成材料である紐など様々な材料の準備で手を煩わせた。
しかし初夏以降は例によって多忙になり、狩の季節に入ってからは超のつくほどの多忙さになった。
それでも少しずつ獲れる獣肉と血脂のお蔭で、精力的に励むことができた。
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ここのところの長雨で、やっと晴れた今日もまだ危険だからと本拠から出ずにいた。
緩んでいる地面が崩れるかもしれないから、今日一日はまだ籠って様子見だ。
「やあやあ、皆さん元気かねー?」
休みを終えて、洗顔してさっぱりしてから、トモトヨエコの作業中の木蔭に戻る。
「げんきだよ~ん……」
「なあにぃ……もう終わったの?」
「ンん~?……」
長雨の間ずっと拠点に籠り続けたまま紐を作り続け、今日も気分転換に風に吹かれに木蔭に出ているが、まだ根気よく紐を作り続けているので、三人とも声に張りが無い。
「おやつの差し入れだよー」
とマサがレーキで引っ掻いてて土中に見つけた幼虫をよ~く炙り焦がした香ばしい『おやつ』を持って来た。
「一人一個」
「あ、ありがと~」
「あ、お茶入れるわ」
「お、有難うな」
トモコが立ち上がって、空いたコットにエイコが寝転がって、のびをする。
ぼくは自分とマサが座る為に、作業小屋で使ってたマサの古いコットを引っ張って来てあり、疲れたので二人で腰を下ろす。
紐になるべくダメージ与えないようにそっと腰かける。
腰の後ろの木枠に両手をついて、林の樹々を見上げれば、外側の葉っぱが白く明るい。
「もう新緑の季節だなあ……」
「そうだねえ」
「食べられる新芽が多くて嬉しいね」
「いらっしゃ~い」
トモコに呼ばれたので、立ち上がって家の中へ戻り、銘々の湯呑に注がれたハーブティーを貰う。
エイコが嬉しそうに
「摘みたてだからね、これ」
と言い、
「なんだか効き目ありそうだね」
「良い香り」
「何の香り?」
「カミッレ」
「ああ、やっぱりね」
「今いっぱい咲いてるから、早く摘みに行きたいよー」
「明日お願いね」
「今日中に縄が充分作れたら、明日は一緒に行くからさ」
「ちゃんと一緒に来てよ~、もうあんなのは……」
「あ」
「え」
「いや、ちょっと忘れ物したと思ったけど、そんなことは無かった」
「なんなんだ?」
「さっきやってた作業ので、ちょっとね」
「ふ~ん?」
いや、ふぅん、じゃねえよ。
うっかりエイコ襲撃事件が当人の口からバレるところだった。
危ない。
もう一度口留めしておかないとマズいな、これは……。




