防具 防護パーツ
腰周りの前半分は──下腹部と腹という要所が残ってはいるが──そんなところでとりあえずは良いとして、次は腰の後ろと尻をどう覆うかだ。
腰と尻を守る防具は腰のベルトで締められて留まる。
腰の後ろの防具はベルトだけでは上端が垂れ落ちて来るから、肩から吊るか、それとも腹縄で縛るかする。
基材に使えるのは樹皮以外に無いか。
まだ樹皮で作ったスカート装甲用基材をつけてるし。
いや、樹皮だって無限じゃないんだ。
採るのに本当に適した季節は限られている。
やっぱり大概の草を利用できる円座──或は鍋敷──こそが一番、ぼくたちにとっては低コストで汎用の装甲部材の基材たり得る。
いきなり分厚い草の束だと、渦巻にするのが大変だから、最初はほどほどの太さの束を用いて薄めの鍋敷きを作っておいてから、二枚、三枚と重ねて基材にする。
最低二枚。
必要な緩衝性に応じて枚数を増やせる柔軟性も利点。
層を重ねた隙間に補強材をぎっちり隙間なく詰めて挿入して、防護パーツとぼくが呼ぶ代物ができあがる。
渦巻を円じゃなく長円形にすることもできる。
その気になれば長方形もできなくはない。
草を足しこみやすいから、大型化もできる。
草履底だと、一々縄を先ず綯ってからでないと作れないから、縄に綯い難い草は使えない。
その点、鍋敷きにするのにはそんな制限がほぼない。大概の(他に利用法の無い)草が利用できるのが非常に都合が良い。
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簀巻きのように緩衝材と補強材とが分離しておける手甲脚絆は、あれは例外だと思った方が良い。
連結の問題があるからな。
基本的には、先ずはその部位だけで完結する防護パーツを作る。
その後に部位間で連結して、最終的に防具に仕立てる。
防護パーツの基材は幾つかの基本形状が選択可能なので、どれを作るかは、その後の用途に沿って決める。
例えば頭頂部を被覆する装甲の基材を作りたければ、円形もしくは短円形だろう。となると、例えば草の束を使った鍋敷か、或は草履底の作り方で締め込みながら縄を編めば、頭頂部を軽い衝撃から保護する緩衝材が出来上がる。
緩衝材と言えるほどの効果を期待するのなら、分厚さがないといけないが。
そして、出来た緩衝材に切創への抵抗性を与えるべく、補強材を挿入する。
硬質の補強材の縁が確実に緩衝材の中に埋もれて外へ出て来ないようにして、縁の始末もつける。
補強材はできるだけその部位全部を覆うのに十分な数量を挿入する。
これで一つの部位を保護する防護パーツが出来上がる。
刺突穿貫への抵抗性を与えるには、樹脂を注入して硬化させれば良いが、ぼくたちにその手段は無いから不可能だ。
それがこのやり方の限界だ。
それが厭なら、せめて或る程度の厚みのある木の板を仕込む、或は初めから木の板を芯材としてその周囲に編み込む。
板以外にも、平たい骨とか、平たい石とか、硬く焼き締めた土器の平板でも良い。
それで貫通に対して或る程度の抵抗性を与える。
但しそれが全身に及ぶと、重量が問題になるのだ、ぼくたちの場合。
また例えば、前腕から手の甲までを覆う手甲の基材なら、手首を柔軟に屈伸できなくては作業に差し支えるから、かなり長い長円形となる。その場合、草履底一つで作れる。甲側だけなら。
単一の基材ではなく、二つの大小の長方形や長円形を作っておいてから、それらを連結しても良い。
手間や要求される強さなど、場合場合で選ぶことになろう。
求められるのが装甲ではなく、単に草の葉の縁で切れるのを防ぐ程度なら、補強材はなしで、基材はかなり薄く編んでも良い。
肩を覆うなら、基材は笊型で良い。
笊型は膝の皿を守るにも良い形状だ。
そして笊は縁をその部材自体が処理済なので、他の部位との連結も容易だ。
保護能の低さは笊を基材にしてそこに補強材を宛がうことで補える。
唯一の問題は、笊をきちんとその大きさで作れるかどうかだが。
それでまあ、初めてだが、やってみたら作れた。
縁は細枝を半分に割いて、削って平たくして、湯気を当てながら曲げて円くして、樹脂を塗った樹皮を巻きつけて留めた。
細部の強さが全体の強さを与えてくれる。
作業小屋で作業に集中できるから出来た。
胸は、腰ほど広い平面は使えないが、掌二つ分くらいの巾はとれる。
しかし木の板だと曲面を出すのがとても大変で、しかも破損時にまた一から削り直すのかと思うと……。
素材が金属であれば、胸部は腰に次いで、板を最も効果的に装甲板として使える部位の一つ。
胸部装甲であれば、長方形で頑丈に、と思うかもしれないが、胸を窄めるとかなり狭くなるから、初めから広く長方形をとってしまうと非常に動きが制限される。
だから胸上部では台形にしたり、肩から延長した平面で胸の装甲板とスライドしつつ重なり続けるように工夫したり、腋下では帯状に作って身体に沿って曲げるとか、色々と身体形状に合わせた工夫が必要となる。
アメフトのショルダーは、あれもまた一つの解決策を提示している。敵に対して前のめりの姿勢をとって対峙し続ける限りは、隙間を突かれることも考えなくてよい。肩から一体となって胸の半ばまで覆い、しかも充分に隙間を空けるあの構造なら、胸部の防護パーツはかなり自由に楽に作れる。
頭部全体のフルヘルムなら、籠を編む心算でやるのもよい。
目の部分を空けておく必要はあるが。
しかしそれだと打撃を浴びて頭の周りをヘルムが回ってズレてしまった時に外が見えなくなる。
前に作った串の字型の軽量ヘッドギアの基本形というのは、その辺りへの対応の合理性があった。
その後後頭部への補強材を入れてしまったから、その合理性が今では失われてしまったが、あれは失敗だったかもしれない。
後頭部の防護はヘッドギアではなく、背部装甲からの延長板ですべきことかもしれない。
最も難しい部位の一つである首回りであれば、とりあえず長円形の草履底型を複数編んでおいて、首に色々な角度から当ててみて、それぞれの組み合わせの被覆度合を確認し、他部品との連結の仕方の工夫が完成してから、適宜に装甲用の補強材を足し込む、などというやり方もある。
基本的にはシャツの襟と同じでいいのだが、それを硬い材料で成型するのはとても大変だし、首周辺と隙間なく結合していなくてはならないとなると、更に実現の困難さが激増する。
何しろ板金も使えないし、札鎧を作ろうにも穴あけの加工精度も足りない。
膠も用意が無い。まあ、要らない骨を煮続ければ良いのかもしれないが。
いや、札を固めるのは膠でなく漆か。
漆なら……探せば似た性質の樹脂を分泌する樹はあるかもしれない。
無ければ……カチカチに乾いて硬くなった革をそのまま利用するしかないか……?
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