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或る春の日の防具づくり

戸口を照らす外光のお蔭で、暗い作業小屋の中が間接的に照らされて、薄明るい。


「ね~、あたし『かっこよくして』って言ったんだよ、覚えてる?」

「ああ、ヘルメットのこと? ……あれはぼくのだから、エイコのはもう少しなんとかするよ、本当に、まだ待ってて」

「いいけど。これ、首用? もこもこ」

エイコが緩衝材としてマサの首の前後で縛った枯れた草の太い束をぽんぽん、ふしゃふしゃと叩く。

マサが口だけ動かして、

「これで守れるように、祈っててよ」

「頼りないよ、これじゃ」

「まあね、でも、他にないもんね」

あ。

「ちょっとっ、動かさないでよもー」

「あ、ごめん」

草束を覆う外装材の革につけてる印がズレちゃう。

せっかく、ひとが指先を炭で真っ黒にして頑張ってるっていうのにっ。

イライラ。

ふーっと溜息を吐き出して、気持ちを落ち着ける。


今までのところ、ぼくたちの防具といっても、手甲脚絆とヘルメット以外には、防寒着を補強した程度だ。

中綿に相当する枯れた草の束を大幅増量して緩衝材として機能するようにしたり、外装材として裂けやすい樹皮をもう少し強靭な材料、たとえば硬い革に替えたりする。


硬い革は、本当ならそれで(さね)を作り、多数の札を紐で連結して、人体に沿って無駄のない曲面を描き出す部分鎧を作れる。

でも、ぼくの持ってる道具ではなかなか加工しづらいので、今のところはまだとても作る気にならない。

特に小さな穴を開けるのがとても煩わしい。


他にもやるべき事が多すぎるんだ。

疲れた状態で下手に加工をしようとして、手元が狂って道具を壊したり、下準備の間に眠り込んじゃったりして革を無駄になんかしたら堪らない。

革は草木と違って、放っておいて来年また生えて来るというわけには行かない貴重品だ。

作業に集中できる時にやる心算でいるのだが、得てしてそういう時にはちょうど良い素材が無い。

この先初夏に入ったら、また今年も多忙になって、当分の間はできないんだろうなあ……。

とりあえず今は大雑把に覆うのに使うだけにしている。


だから、足元が凍えるのが厭で雪沓補強に真っ先に採用した後は、まだマサの防寒着の両肩の外装補強にしか使ってない。

革は硬くなるのが予め分ってるので、先に粘土をマサの肩防具の形に乾して固め、そこに革を張って延ばして乾して成型した。

張って延ばす為に開ける、紐を通す穴を、外装材として使う時にそのまま流用する。

手に入る革は小動物ばかりだったから、色々不揃いな革部品を継ぎ接ぎしていて、先に作った右の肩の見た目は形も下手くそさが際立つし、色も薄い。

左肩は多少は凸凹が減ってやや滑らかっぽくなり、色も濃い褐色と、左右で見た目がかなり違っている。

ただ、マサにマネキンになってもらって逐一感覚を確かめて貰いながらのフルオーダーメイドなので、マサにとっての使い心地は悪くないようだ。

「マサ、これで肩ちゃんと上がる?」

「……うん、いいね」

「盾と杭構えてみて」

「ああ、うん、問題ないよ」

「ちょっと振り回してみてよ」

「狭いから外行くよ」

マサはぼくたちの中では、盾を構えて最前列で真正面から敵にぶつかり食い止める役割なので、少しでも頑丈な素材で固めてやりたい。

トヨとぼくのは今後追々やる予定だが、緩衝材増量と当座凌ぐ為の樹皮枚数増加だけは済ませた。


マサのは盾も、低木の柾目板を三枚、補強として外側に付けた。

単純に焦がし削って開けた穴に紐を通して、盾の編み込みに括り付けただけだ。

折角軽かった盾がそれだけ重くなったが、乾けば少し軽くなる。


で、少し補強した防寒着以外だと、あとはヘッドギアと簀巻き型の手甲脚絆をつけているだけだ。

重量もあるから、あまり重くしたくないというのもある……もっと力をつけたい。


「ついでに手甲脚絆もつけてみる?」

「そうだね、ちょっと試してみる」

手甲については手首から先も最低限の防護はしている。

萎びた細長い葉を延ばしてそれで巻くように、その中の枯草は軽く撚るように足しこんで長さを延ばして、枯草を束にする。

それを曲げて環にして手の甲と指の上を覆い、親指との間で8の字のたすき掛けにして手に巻く。

別の萎れた蔓を糸のように用いてきつく縛って細くしたところを、掌の中に握り込んで、全体の位置を固定する。

そうしたら手に絡みついている枯草の下に縦横に細い束を通して、結わえ付ける。

それで手首から手の甲、指の付け根と第二関節までは覆えているから、あとは外装材で覆う。

外装材は今は粗い樹皮を粗く編んだ(織った)もので、隙間に五本の指を突っ込んで、指無しグローブのように指を出し、その上に指の付け根と第二関節を覆う別の樹皮を宛てて、手の平側で十字交差させて手首に回し、手首の外側で結わえて留めている。結わえる時には片方の端を口で噛んでおいて、他方の端を引き締めて、挿し込んで回してきて、結び留める。

「あ、結んであげるよ」

今はぼくが手伝えるから、代わりに締めてあげる。

「ありがとう」


打撃を受ける頻度が高そうな肩先とか上腕は、肩先の外装材と上腕側の外装材とが互いにぶつかり合ってうまくないので、防寒着の外装でも少し隙間が残っていて、やや露出気味で、少し冷える部位。

簀や矢の材料となる葦は昨年のうちに集めてあって、しかも昨年は一昨年と違ってあまり葭簀を新しく作らなかったので、在庫が沢山ある。

なので、あとは紐さえあればすぐに小さな葭簀とでもいうべき簀ができて、それを上腕の防寒着の上から巻きつけられそうだ。

上腕は攻撃を被りやすい部位なので優先して作らせてもらいたい。

腿の方は、腰巻防具が作れればカバーできるから、それほど必要ないかもしれない。


それで、閑さえあればひたすら紐を撚る作業をしているが、

「あ、そういえば、今日まだキンタロ燻してなかったな」

「ああ、トモが菰乾してるから、頼んで来ようか」

「替えはあっちにまだ乾したままか」

「え~と、さっき棚に……」

わりと頻繁に雑用で作業が中断するのだった。



拙作をお読み頂き、実に有難うございます。



ヘビロテ作業BGM: "It's Me, Cathy" by Hubert Kah.

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