皮の扱いと革作り
皮は素材にしようと思うととにかく時間がかかる。
忙しいうちにも人に訊いたり、少しずつ色々と試すうちに、次第に扱い方を身体で覚えだす。
狩りに成功しても、まずはぶっちゃけばっちぃので、えんがちょ! な感じで、できるだけ直に触れないようにする。
縄の輪を引っかけて引きずり、先ず川辺へえっちらおっちら、足場に気を付けながら、獲物に多少傷が付こうが拘らずに運ぶ。
ほどほどの勢いの、緩い流れのある冷たい澄んだ川の流れに沈めて、流れで洗い晒す。
狩りの片づけや皮の剥ぎ取り作業の準備など、他の作業を済ませる。
石刃や携行できる大きさの研石、たわし(棕櫚の皮で作った)、汚れの拭き取りに使う大量の草や砂などを山のように準備しておく。
準備できたらそろそろ少しは蟲が落ちた頃かと思うので、極力蟲や汚れが身体に付かないように、沈めた場所に上流側から近づいてゆく。
あらためて屍骸にしっかりと三本ばかり縄を掛けて、もう少し流れの勢いがあり且つやはり水が濁っていない場所へ移し、縄を川岸の木立の枝に結び付けて固定し、人や流れの力がかかっても、動いたり流れていったりしないようにする。
セッティングが完了したら、いよいよ冷たい水中で首回りから皮を切り裂いてゆく。
作業中に姿を現す蟲は、取り付かれないように注意して、その都度適宜排除する。
胸から下へ刃を進めて、腹を開いていき、必ず捨てるべき腸をそっとそっと慎重に腹腔から外に引きずり出して、取り除く。
肛門周りも皮ごと切除する。
切除が無事に済んだら、皮を剥いで行く。
べろんとひっくり返して剥いてしまい、皮剥ぎを終えたら、皮に二カ所穴を開けて、縄を通し、流れに晒しておく。
死体に最初に結わえた縄が緩んでいたら締め直す。
そして肉を冷水中で捌いてゆく。
捌いた肉は血抜きが済んでる事を確かめて、きれいに洗った保存性を良くする防腐効果のある草の葉に包んでから、きれいに洗った籠に入れる。
この時点で、先に肉は穴蔵へ持ち帰って処理してもらう。香草をまぶして燻すとか、夕食用に煮込み始めるとか、色々速やかにすべき事があるので。
皮はまだまだ穢いので、その後もう少し急な流れの場所に運び、縄を木に結わえて固定して、洗い晒しながら、肉と脂を流れの中で削ぎ落としていく。
石刃やたわしで削ぎ落していくのだが、すぐに削げなくなるので、何度も何度も何度も何度も道具に付着した汚れや脂を落とさねばならず、なかなか捗らない。
この作業はこれだけに専念しても一日では到底終わらないので、他の作業もある中、一頭分の皮一枚だけで一応終わらせるだけでも十日以上かかる。
その間に、枯葉で茶色に水が染め上げられた水溜まりがあればそれをボウルで集めておいてもらう。
で、その有無に関わらずタンニン汁が欲しいので、タンニン分の多そうなのを集めて煮だしておいてもらう。
そうなると、タンニン汁を蓄えておく壺や甕の類も必要になるから、泥縄式にそれも作らねばならない。
後手後手になるが、急いでやるしかない。
そういう作業が得意なのは自分なので、皆と作業を分担して、できるだけこの作業に専念させて貰って、なんとかやってゆく。
革の出来上がりがどうしてもカチカチになるので、人に訊いてまわると、出来上がった革には脂を擦り込まなければならないらしい。
それで解体時に脂肪を取り除けておいて、壺で煮て、煮零して水溶性の不純物を取り除き、更に加熱溶融して静かに冷まして不純物を少しでも分離し、粗く取り出した獣脂を作っておく。
何日もかけた長い削ぎ落し作業を終えると、川辺に掘った窪みに川の泥と砂とを集めて放り込んで、ドロドロの洗浄プールにして、そこで皮をひたすら洗って、残ってる脂分と汚れをしごき落とす。
これも準備を含めて一日がかりの、ひたすらそれにかかりっきりの重労働で、その日は他の仕事はほとんどできない。
その後は、塩があれば皮を漬け込んで清めるのだが、金が無くて買えないから、またひたすら急な流れの中に漬けて、また一晩、冷たい流れで洗い晒す。
翌日晴れていれば皮の水気を切って、陽光が充分に当たる場所に作っておいた干場へ持ち込み、引っ掛けて引っ張り、空中に固定して、風と光で水気を或る程度とばす。
すっかり乾ききって皮がカチカチになってしまう前に乾すのをやめる。
タンニン漬けにして、皮が真っ黒くなるまでひたすら漬けて、防腐処理とする。
数日間しっかり漬け込む。
これで一応、皮から革になる。
充分に漬け終わったら、一洗いして汚れを落とし、また引っ張り乾し。
すっかり乾ききって革がカチカチになってしまう前に乾すのをやめる。
最後に、粗く精製しておいた脂肪分を温めて溶かし、できあがってきた革が柔軟になるまで、充分に擦り込む。
革がかなり臭いものになるのは避けられない。
大体そんなところが、この年に身に着けた皮の扱い方だった。




