二年目は忙しく過ぎて行く 秋
「覆い、こんなもんでどう?」
家と作業小屋の煙突や排煙口の外側に、煙を拡散させる為の葉っぱがついた木の枝を被せてみた。
トヨに離れたところに行って観測してもらう。
暫くして戻って来ると、
「そこそこ薄まったンじゃね?」
「まあ、とりあえずこんなもんか」
「じゃ、今日もさっさと出かけるぞ」
「おう、準備出来てるぞ」
と昨夜修繕済みの背負い籠を拾い上げる。
変な奴にこの隠れ家が知られては大変だ。
藪に偽装して隠したと雖も、あまりに大々的に煙を出すとさすがに不味い。
それで試しに、煙突に被せる覆いの大掛かりなやつを簡易に乗っけてみた。
煙が出るのが特に気にかかる時には、山や村外縁の森の中で不定期に作る炭が重宝した。
炭焼きの場所は大体決まっていて何度も使うので、互いに離れた二カ所に小さな窯を設け、その傍には小規模な薪置き場も作った。
とても忙しいので、作りやすい斜面に掘り込んで、できるだけ小さく作り、持ち込む部材などを予め作っておく準備作業の時間も含めて一日もあれば作れた。
見つからないように全体をこじんまりとした小さな穴蔵に収め、使わない時には煙突に蓋をして戸も下ろし、土や苔や草を載せて隠蔽した。
炭ばかり使って薪の煙で燻さなければ家が腐る。
寝る時には燻されたくない。
暗くなれば薪を使って煙が出ていてもあまり見えないから、作業小屋でガンガン火を焚くには夜が良い。
色々、その時々の考えで、薪と炭とを切り替えた。
材によっても煙の出方や色や匂いが違うので、使い分けを試みていった。
上村へ行く用事がある時には、行きがけに仮拠点だった塹壕小屋に火を入れて燻しておき、帰りに立ち寄って一泊してから、追跡者に注意して本拠になるべく秘かに帰還する。
冬に備えて薪を大量に貯えないといけないので、夏のうちから本拠の作業小屋の塹壕部の上にどんどん積み上げていった。
積み上げる場所がすぐになくなると気づいたので、斜面の一部を少しだけ掘り窪め、杭を打って土留めを立てて、薪置き場にした。
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色々と新しく始めてみたい事はあれど、手入れすべき事が増えていたので、やはり中々そう思うように手を出す事ができず、そうこうしているうちに秋が来た。
今年採集できた内容は、団栗が思ったよりも少ないなど去年とは少し違う感じではあったものの、去年以上に色々と保存食を貯め込んだ。
去年よりも安定した作業場所を夏の間に広く確保しておけたので、お天気にあまり左右されずに加工できて、貯蔵量が増えた。
やがて遡上してくる回遊魚を獲っての干し魚作りも一段落して、秋が深まってきた。
そうなるとまたぞろ雪が降り始めるだろうと予想された。
そこで、冬到来に備えて愈々肉を貯えることにした。
と言ってもそれ用に塩を買う金も無いので、団栗を煮るなどして大量に得られるようになったタンニン汁に漬けて燻製してカチカチになるまで乾燥させるのみ。
但し、狩りの獲物を見つけるのは相変わらず運頼みだったので、獲れる量が増えるということは無かった。
狩りを戦闘の訓練とすることもあった。
うまく追い込めた獲物相手に、前衛役が盾を構えて襲い掛かり、場合によってはわざと反撃を盾で受けたりした後で、致命傷を与えた。
前衛の役目は大体マサノリか俺のどちらかだった。
トヨキや女子は体格か腕力のいずれかが足りて居なかったので。
皮革加工は、失敗を重ねてコツをつかんだ御蔭で、雪が降る頃になってやっと、未だに最低品質にも満たない不均一で臭う硬い代物だが、一応何がしかには使えなくも無い物が作れるようになり、秋が深まると寒さに備え、防寒着の外装材として使っていた樹皮の代わりに、この最低品質未満の硬く薄い革を利用するようになった。
雪沓も樹皮の代わりにこの硬革を曲げて足を包みこんでから串で穴を開けて、草の紐で縫い留めた。
その上からかんじきを着けて使う。
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この頃、初めてそれと意識して傭兵という存在を見る機会があった。
遡上魚の漁をする行為が漁師の漁業権を侵すかどうか、トールに確認しに行った日だ。
トヨが風邪を引いていて、トモとぼくとで中央道から坂道へ向かう脇道を裸足で歩いていると、中央道を何やら叫びながら駆けて来る子が居て、
「何だろう?」
「ちょっと道の脇に寄っていましょうか」
と用心して杖を手に待ち構えていると、
「北の傭兵だ! 北の傭兵が来たぞ!」
と叫んでいた。
「北の傭兵だ! 来るぞ! 来るぞ!」
と狂ったように来る来る言いながらぼくらの目の前を走り過ぎ、坂を駆け上って行った。
「北の傭兵だってさ」
「凄く興奮していたわね」
「何なんだろうなあ……」
「さあ……」
ピンと来なかったので、ぼくらはそのまま履き物の紐を足に締めて坂道を登り、トールの処へ行ったのだが、用を済ませてさあ帰るという時に、外でざわめきが起こり、事務所の窓から外を見ると、件の傭兵らしき一行が道をやって来ていた。
黒い革のブーツ、同じく黒い革の長ズボン、黒い革の半袖胴着を着た男たちが、全身あちこちに大小の荷物袋をぴったりと揺れないように装着して、重そうな足音を立てながら、ゆったりと歩いて来る。
全員がこの村では見た事も無いような筋骨隆々たる偉丈夫で、一見して判る強者の風格を漂わせていた。
身長からして違うし、横幅も厚みも凄い。
先頭の男は太く膨らんだ腕に、長くて頑丈な棒を抱えていた。
その長さの半分にはびっしりと大きな石刃が植えられていて、一つ一つが石ナイフより大きな刃だった。
あんなのを一振りされたら、ヒトなど真っ二つにされそうだ。
思わずゴクリと固唾を呑んで見ているうちに、こちらへやって来た。
トオルが背後から
「行かんのか?」
と声を掛けてきたので、我に返って急いでトモコと二人で重たい扉を引き開けると、既に目の前に大男が来ていて、慌てて壁際に跳び退いた。
そのまま男たちがガシャ、ガシャ、と入って来る間、出る事も叶わず、聳え立つような黒っぽい恰好の陽焼けした男たちを見上げていたが、トモコについ、と腕を引かれて、男たち全員が入って戸口が開いてるのに気がついて、逃げ出すように急いで出た。
以前に家畜小屋で出会った若者たちも、恐らく傭兵だったのだろうが、駆け出しであろう彼らと、この大男たちとでは、まるで別の存在だった。
鍛えられた屈強の兵士たちよりも更に強そうなその姿に、ヒトはあそこまで強くなれるのか、と強い印象を受けた。




