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新たな春と成長の渇き

晴天の合間に時々思い出したように雪が降る。

酷くは積もらないが、放っておけば暫定的に掛けてある作業小屋の片流れ屋根が崩れる惧れはあるので、降る度に時々防寒着と軽量ヘッドギアに身を固めて、レーキ片手に雪掘りに精を出さねばならなかった。



ぼくたちは間違いなく栄養不良だったにもかかわらず、少しずつ成長していた。



既に何度も破けていた肌着は窮屈になってきて、丈も寸足らずになっていた。

短くなって見えるようになっていた股間の辺りは、草を編んで拵えた腰巻で隠せたが、ボロボロになっていく肌着はどうしようもない。

それでもまだなんとか繕って着続けて……というよりも、纏い続けていた。

無論、女子の話だ。

肌着はこの頃までにはもう、男子は着なくなっていた。


ぼくは神殿を出た初日に川で失くしていたし、

「ああッ! ……また破れちゃったぁ。もう駄目だこれえ……」

「うっわ、ひでえ」

「あ~、こんなところに枝が伸びてたよ、うっかりしてた」

ボキッと潅木の枝を折る。

「これ、どうしよう……」

「もう腰帯の足しにでもするしかないンじゃね?」

「え?とんでもないっ。あたしに頂戴」

トヨやマサのも破れ、擦り切れ、汚れ、繕いに繕いを重ねて、遂に簾状の襤褸になり果てて、肌着としてはほぼ役に立たなくなっていたからだ。

それを「繕い物に使うから」といってエイコが引き取って利用していた。


「できた、っと。トモコのもやったげるから、貸して」

「うん、有難う」

彼女は襤褸となった肌着から糸を引き抜いて、器用に女子二人分の肌着を繕い続けていた。


それで既にトモコとエイコの着ている肩の後ろまであるキンタロ腹掛けを真似て、ぼくたち男の子も自分用に同じものを作りたかったが、早春だとまだ草が伸び出していないので、採れる草は種類が限られていたから、すぐには作れずに居た。


代わりに今作れるものをと考えて、簡易寝台(コット)を体格の成長に合わせて一から作り直し、今はもうぎゅう詰めだった仮拠点ではなく広さに余裕のある自分たちの家なので、大人の体格になっても使えるように、充分に余裕を持った造りにした。

補強のために、樹皮の紐を対角にX字状に張った。


女の子は女の子で、男子よりも長く膝まである腰巻なのに、お尻のところだけが一足先に傷んで来るのを気にして、乏しい材料でお尻部分を補強した。

パッチとかアップリケとか、そういう感じだ。

エイコのは四角のが縦に引き伸ばされてトランプのダイヤ型になったのが左右に並び、トモコのは丸型のが二つ並んだ。


コットの作り直しも終えてしまうと、今後の為もあり、まだ使えそうな枯れ草をできるだけ強く撚って、紐を作っておく。

目が醒めていて、他に何もすることが無ければ、とにかく紐を撚る。


疲れると無理をせずに眠る。


雪が止み、食事をして、雪掘りをして、便壺の中身を片づけた。

皆、ずっと同じ保存食しか口にしておらず、目が落ち窪んで、頬がこけている。


--


目が醒めた。


そこへ、

「おはよう。雪、やんでるよ」

明るさを滲ませた声をかけてきたのは、目が落ち窪んで、頬もこけたマサだった。


あれ、まだ夢を見ているのかな……。

夢から醒めたと思ったら、まだ夢の中だった、そういう夢って前にも見た事あるし。

思わず頬を(つね)ろうとすると、ぼくの頬もこけていて、力が入らない指ではうまくつまめなかった。

それで腕を抓ると、ちゃんと痛い。

あ、夢じゃなかった……。

「?」

「いや、何でもないよ……そう、晴れたか。じゃあ、今日も、採りに行くか」


--


エコマサぼくの三人で食事の支度をしていると、奥の小部屋からトモコが出てきた。

一人だけ心なしか顔色が良く見える。


エイコが声を掛ける。

「あ、おはよ~」

「おはよう」

「おーす」

「トヨは?」

「まだ寝てるわ」


無理もない。

そういう事をすれば女の子は艶々するだろうが、只でさえ飢えて痩せているのに、更に貪られる男子の方は干からびてしまってもおかしくない。


あの二人がここへ来て時々二人で消えることから、前から薄々感づいていたが、雪に降り籠められる事が繰り返されるうちに、次第にあからさまになってきていた。

特に、寝込んでいたトモコが起き上がれるようになってからは、大っぴらにそう振舞うようになってきた。

同じ屋根の下に仲間も居るのに、それでも互いを求め合い、貪るのを抑えきれないほど、飢えて欲求が高まっているのだろう。

出すものを出せと迫るトモコの密やかな叫びが耳の底にこびりついていて、すぐには顔をまともに見られない。


保存しきれなかった御馳走を、勿体ないからと秋のうちに食べ続けた反動か、その所為で今までよりも飢えを強く感じるようになってしまった。


勘違いでなければ、ぼくも偶にエイコとそういう雰囲気になることがあった。

だけど最近のエイコはどちらかというと、ぼくよりもマサとそんな感じがする。

この分だと、次に早春の栄養源として体の中から吸い出されてしまうのはやはりマサか、それともぼくなのか……。


止そう、そんな事を今から考えていても仕方がない。

それよりも、漁や狩に出たい……。


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