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新たな春と色々な作業

そろそろ早春、と言っても良いのだろうか。

吹雪く事が減って来た。

今朝も晴天だ。

嵩の減った雪を踏みつつ外の鳴子を解除して戻って来たぼくは、皆で無事に春を迎えられそうな予感に気持ちが明るくなるのを感じていた。


折角の天気だから、狩に行きたい。

今朝もこれからまた、干し魚をカチ割り、団栗を挽いて、胡桃を煎って割り、草汁を煮出して、いつもと同じ保存食だ……。

その保存食すらも愈々、残量が乏しくなってきていた。

狩猟も漁もまだすべきではないらしいので、ぼくたちはとても飢えていた。


--


春に狩猟してはならないというのは、それまでぼくは知らなかった。

開拓村に居た頃はまだ好きに遊んでばかりいたからかもしれない。


菰に包んだ一籠分の炭を手土産に、久しぶりに雪を踏んで皆で近隣の小部落まで訪問して、遅ればせながら新年の挨拶に伺った時、

「あ~、それは残念じゃろうが、春は狩は禁止されとるぞ?」

と、お爺さんに釘を刺されてしまった。

そう、春のうちは繁殖を妨げないように、狩は禁じられていたのだった。


それは割と誰でも知っている事らしく、世間話の中でついぼくがそろそろまた狩猟したいと思ってると言うと、トヨキが

「はァ?」

と呆れ顔になり、トモコも怪訝そうな顔をして、それに続いてお爺さんに指摘されたのだった。

その様子から、知っていて当然の事を知らなかったんだと初めて気づいて、顔が赤くなるのを感じた。


とは言え、呆れられて終わったわけでもなく、お爺さんはトヨとぼくのささやかな不格好な口ヒゲを見て、

「ほお、子供と思っていたが、二人ほど大人になり始めているな、おめでたい」

と慶んでくれた。

小母さんに酒を混ぜた飲み物も出して頂いた。

気恥ずかしかったが、有難く嬉しかった。


一目で判る雪上の足跡を辿られて居場所を突き止められるのは恐ろしいので、帰る途中で仮拠点だった作業小屋に数か月ぶりに立ち寄った。

総ての荷物を運び出して伽藍洞の塹壕内の湿気に顔を顰めつつ潜り込むと、二つの炉に火を入れて、更に中間の一か所でも裸火を焚いて、内部を乾燥させた。

その後、女の子たちとトヨには先に帰宅して貰って、トヨにレーキを持って来てもらい、足跡を含めて広く雪上をあちこち均した。

塹壕の燻しが終わると、二つの低い煙突に再び蓋をして閉ざし、戸口も外側から嵌め板を戸枠に当てて閉めると、外に退かしておいた石で再び嵌め板を抑えた。

それからレーキで最後の欺瞞工作を施しつつ藪を梯子で越えて帰還した。


--


飢えていよいよ爪が伸びるように、厳しい冬の間に武具を次々捻り出したぼくたちだったが、雪が止みだすと狩もできないので、新たな武具作りは止まった。


とにかく今すぐには狩に出られない。

ならば、今の時期やるべきことをやる。


最初に、エイコに率いられて、この季節の薬草摘みや新芽摘みに出かけた。


厳冬期に雪上の足跡を観察した限りでは、きっと大型獣はあまり人里近くには近寄って来ないのだろうが、それでも万一と言う事があるし、そうなれば春の飢えた獣はぼくたちを見逃すようなことはないだろう。

そう考えたので、男子は全員が今できる最高の武装で身を固めて、女子の警護役に就いた。

前にぼくを促して弓を作らせたトヨは言うまでもなく盾の陰から弓を構えて辺りを警戒していた。


その時にぼくとマサは警護役に立つのを一人ずつ交代にして、薬草とは別の用の草を採った。


籠に容れて背負って家に戻り、防御壁に蔦を絡ませたり、蔓を掛けたり、草を植えこんだり、草束を立てたりして、拠点全周の偽装隠蔽工作にとりかかった。

一苦労してどうにか造り上げ、なかなかの出来だ、と思って休んでいると、トヨが

「じゃあ、オレが山から見てやるよ」

と検査を買って出てくれたので、お願いした。

その結果、

「どうだった?」

「なんか草藪が、結構いい感じだけどまだ少し揃いすぎ。壁の角が木の隙間から見えた。あと土塁と壕は丸出しじゃン」

などと沢山の駄目出しを喰らい、その後も何度も手を加える破目になったが、お蔭様で、壕の外にまで出て、木から垂れる枝ぶりや藪にまで手を入れる大掛かりな数日の改善作業の挙句、やっと

「いいンじゃね? すぐ近くまで来ないと見えなかったし」

と、或る程度は様になった。


--


次は、壊れた作業小屋の片づけだ。

先ずは、雪が半ば融けて水浸しの竪穴から水を汲みだして、内部で焚火を複数起こして乾燥させた。


汲みだすのには、マサと軽い土ベラを使おうかと思っていたが、マサが

「それじゃ時間がかかる、壺よりは楽だけど」

「そうか、じゃ、何か作るか」

「前にジンメ川の段々で、水を運べないか試したことあったじゃん、あんなんでどう?」

というので、太い薪材の樹皮を石ナイフで切り裂き、木のナイフを切れ目に突っ込んで皮を剥がしとると、石ナイフで切って曲げて、太い串で幾つか穴を開けて、細枝を削った木ピンを通して留めて形状を保たせ、水汲み専用の簡易な道具を二人分作った。


水汲みはそれほど深くない竪穴から周囲の溝へ汲みだすだけだったが、それでもぼくらにとっては重労働だったので、ぼくとマサはそれだけで疲れきって、一通り済ませるとすぐに寝てしまったが、あとの乾燥はトヨたちが済ませておいてくれた。


その後、残っている支柱と土壁はそのままに、裏山から若木を伐りだしてきて、細身の幹材を数本、土壁の上からその向かい側の竪穴の縁の地面へと、間隔を空けて垂木として差し渡すと、その間の空いたところには葉のついた枝を架けて、重ね掛けして、とりあえず片流れ屋根のようにしておいた。


この先まだ積雪があるだろうが、少しなら初冬のようにレーキで雪掘りすれば間に合うし、吹雪いてまた間に合わずに屋根が潰れれば、今度は崖側の土壁まで倒壊してしまうかもしれないが、今はあまり細かい事をしていられなかったし、細かい事を気にしている余裕も無かった。

体力が落ちていたので。


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