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尾いてくる女と大蜥蜴

夜明け前に見張り番をしていると、依頼人がふらりと来て、

「行こう」

と声をかけてきたので、

「わかった」

と応諾し、すぐに仲間を起こして回ったあと、鳴子の麻糸を回収に行った。


回収を終えて、荒野で用を足して、準備を整えると、すぐに出立した。

水も火も使えず、ろくに休めず、夜戦の疲れが残っているので、足取りは重い。

依頼人は別に足早に歩いてるわけでもないが、ついてゆくのがやっとだった。



夜明け、最後尾なので警戒の為に後方へ目を遣ると、逆光気味に人影が見えた。

遠くから女らしき人影が一人、歩いて来ている。

すぐ報告する。


「後ろの方から、女が一人歩いて来る」

「なに? 女? 女と判ったのか?」

「ああ。ほら、あそこに居るだろ?」

「……女と判る姿で、街道を一人で来るなんておかしい。暗殺者かもしれん。守ってくれ」

「そうか、分った。皆も聞いたな、戦いに備えるぞ」

「おう、わかった」

「一人で今頃、女と判る恰好で歩いて来るなんて、普通じゃあ考えられないわね」

「怪しいなァ……」

「わかんないよ~? 護衛の人がやられちゃって、逃げて来て、切通しの途中まで上がったとこで疲れちゃって、休んでたのが夜明け前にまた立ち上がって、今朝歩いてたら明るくなって、あたしたちを見つけて、助けて~って駆け寄りたいけど疲れて歩いて来てるのかも」

「可能性は否定できないな……依頼人さん、どう思う?」

「いや、そんな助けが必要な状況なら、街道沿いに隠れて、巡回警備隊を待つだろう」

「うーん……巡回警備が来るのを知らないかもしれません、私たちみたいに」

「それでも、隠れて救助を待つのが普通だろう」

「わかんないよ~? ラクマカの街から出たことが無い子で、旅の事なんか全然知らなくて、でも何かの理由で急にどうしても北へ出発しなくちゃならなくなったのかも~」

「そんな奴、助けてやる謂われはない。私には逃げる理由があって、金を払って護衛を頼んだ。そういう女だったら金を払って護衛を頼むべきだし、金がないのなら諦めるべきだったんだ。旅の安全を運任せの賭けにして命を賭け金にするのは無謀で愚かだ。バカにつける薬は無い」

「そうですか……」

「とにかく、依頼人さんの言う通り暗殺者の可能性があるから、警戒しながらこのまま進もう」

「おう、わかった」


--



しかし、明るくなってくると、どこからともなく野生の大蜥蜴が襲ってきて、足を止めざるを得なかった。

逞しく力強い野生の大蜥蜴はあたかもシェパードのような雰囲気を持っている。

ぐっと高く太い首を持ち上げているからかもしれない。

砂煙を上げて右手からドスドスドスドスッと突進して来る。


「行くぞ!」

「マサ、初めての相手だ、油断するなよ!」

「おう、わかった!」

トヨが弓を仕舞い、楯を構えた。

依頼人さんは後方、つまり街道の進行方向左手を警戒してくれている。

その両脇でトモコとエイコが警護に立つ。


大蜥蜴に棘棒がどこまで効くか、分らない。

ここは石斧で行く。


とりあえずマサが突進してきた大蜥蜴にまず素早くガブリと噛まれた。

速い!

野犬より少しだけ速くて、対応が遅れた。

脛を噛まれて、牙を脚絆に食い込ませたが、マサは耐えて、反撃の石斧の一撃を加えながら、次の大蜥蜴を防ごうと楯を向ける。


楯で防がれた次の大蜥蜴が、素早く目標を俺へ変更して、ぱっと俊敏に跳ねるように食いついて来るので、咄嗟に右脚を引いて避けながら、石斧を握った右手でその頭を押さえようと動きを見せると、大蜥蜴も素早く対応して、右手へ噛みついて来た。

結果、鼻づらに斧の柄、脳天に斧頭の下端が食い込みながら、次の瞬間にはしぶとく食いつこうとする大蜥蜴の下顎が俺の右拳にかかった。

女の子たちが作ってくれたハンドガードが無かったら、下の牙が食い込んでいたかもしれない。

ハンドガードは破損したが、右手は護られた。

ハンドガードごと手が砕かれなかった事で、大蜥蜴の顎の力は見掛けほど大したことはなさそうだと知った。


「こおおっ!」

カッとなって、楯で頭を殴りつけて首と肩の辺りを押え、すぐに石斧をブチ込む。

その一撃で腕の骨を砕かれたらしい大蜥蜴もまた反撃してきて、抑えた楯を弾き、無事な方の腕で脚にのしかかってくると、体重をかけて浴びせ倒すようにしながら爪で引き裂こうとして、こちらの左の草摺りと腿の防具にガリガリと削られた筋が刻まれた。


重たい大蜥蜴に押し倒されないように踏ん張って、どうにか堪えると、大蜥蜴と相撲をとるように体重を大蜥蜴の肩に逆に掛けて、吊ってる楯を手放し、大蜥蜴の首に左腕を巻き付けて締めあげ、身をくねらせてもがき暴れる大蜥蜴から離れずに、右手で握る石斧を落とすと、右手で右膝から串を一本引き抜いて、大蜥蜴の喉へ突き刺し、掌底で押し込み、脳髄を突き抉った。

大蜥蜴はその瞬間に即死して、力尽きてくたばった。


大蜥蜴はまだ居て、マサが二匹に組みつかれて暴れているのを、トヨが援護して一匹の危険な動きを封じている。

あと一匹は、トモに跳びかかればトモが後退しつつ楯で防いだところへエコが盾を横合いからぶつけ、それでエコへ身を捻って跳びかかれば今度はトモが楯を横合いからぶつけてエコが後退し、なんとか受け止めている。

他には居ない。

すぐにマサのところへ行き、楯へ這い上って襲い掛かって来るのをマサが必死に抑えつけている一匹に背後から抱き着き、さっきのように喉から脳髄へ一気に串を突き刺して抉り殺した。

トヨが抑えてる奴も迷わずにサクッと殺した。

それからトモエコが防いでいる処へ行き、バッと大蜥蜴の背後から抱き着き、また突き通そうとしたが、串の尖端が鈍らになってしまっていて、今度はうまく行かなかったので、

「トモコ、この串をその楯で押込め!」

と蜥蜴の喉に宛がった串の他端を楯に宛がい、頼むと、トモコが迷わずに突き上げようとするので、

「せえの!」

と声をかけて、大蜥蜴の背後から体重をかけて押えると、そのタイミングに合わせてトモコが必死に楯を押し込んだので、俺が右手で支える串がずぼりと突き抜ける、即座に右手で串先を脳髄へ抉り込み、即死。


かくて、大蜥蜴の急襲を凌いだ。


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