ラクマカの街にて一日休みと手入れの為に費やす
翌日は、夜明け前に起きたが、洗濯はせずにのんびり過ごした。
どうせもう、宿を立つまでには乾す時間もあまりないし。
一応、小さな暖炉はあるんだけど。
軽い朝食を貰ってきて、部屋で食べて、余裕をもってチェックアウト。
ちなみにラクマカには、大方の他所と違い、高級宿というものがあるが、傭兵にはまず縁がない。
もう色々と、住む世界が違う人種の為の存在。
ただそういうのがあると耳にするだけで、近寄りもしない。
普通の宿だけでも、浮浪児出身の傭兵には贅沢。
宿泊代に一人当たり2スタッグの費えがかかる。
でもそのお金は、命がけで得たもので、おいそれと得られたものじゃない。
いつもこんな贅沢はできない。
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チェックアウトの後、ついでにちょっと立ち寄ったラクマカの物売り市場にて。
「ここじゃ25スタッグか。少し高いな。トモ、カスコヨでブーツ買ってやろうか?」
「お金残らないじゃない。それに底が擦り減っても修理の仕方も分からないし、無駄遣いしちゃ駄目よ」
「そっかァ……」
「欲しかった手拭もエコちゃんが作ってくれたし、まだ布地は残ってるから帰ったらもっと作れるし、お爺ちゃんとこに払うお金も要るし、税金もあ」
「わぁーった、わぁーたから」
「じゃあ、仕事もっと探す?」
「いや、今回はもう家に帰ろう。仕事は終わった」
「家に帰るまでが仕事だから、気を抜いちゃ駄目よ」
「おう、わかってる」
「ねえ、麻糸、これで銅貨30枚だって、買お~よ!」
「わっ、買いましょう!」
「それって安いの?」
「この質と太さと長さでこれは間違いなくお買い得よ!」
「お、分ってるね~。なのにここだと売れないから、明日にも他所へ売りに行っちまおうかと思ってたとこだよ」
「じゃあ、くだ」
「あ、待ッた!」
「え?」
「なァ、これって長さは?」
「五十尋よ」
「ってことは……なァ小母ちゃん、5つ買うから、銅貨10枚値引きしてくれ」
「無理! これでもう精一杯値引きしてるのよ?」
「ハァ……せめてさ、銅貨五枚でどう?」
「干上がっちまうよ、勘弁しとくれ」
「仕方ねェ、じゃあそれでいいや、銀二枚だ」
「はいよ、御釣り銅貨50枚ね、毎度!」
「海で落ちないよ~に、しっかり籠に仕舞わなくちゃ」
「……トヨ、今度から値切り交渉したくなっても、いきなり自分でやらないで、あたしに一言、話を通してからにして」
「えっ……ああ、はい……」
「ねえ、あっちに布地一巻き15スタッグのがあったよ!」
「一巻きかあ……嵩張るなあ、サカヌキ村で買うんじゃ駄目なの?」
「あ、そうだね……」
「おい、見ろよ、蜥蜴革の手袋、12スタッグだってよ」
物の良さに目を奪われるが、凄く悩ましい。
「ほお。うーん……、うーん……、微妙だけど、ゆとりがあれば……」
「無いからやめよ……。欲しいねえ……お金が充分にあるならね……」
防具の物売りのところでは、硬革鎧セットなんてのは普通に無理として、
「マサに良いな、この楯」
「でも25スタッグもするよ、消耗品だし、無理だよ」
「うーん……」
首防具なんかもそのくらいの値段がする、中古品で。
「マント一枚、12スタッグ……」
「……欲しい、けど……皆買うと60スタッグ……」
「こっちのローブは18スタッグだって……」
「ローブかあ……」
「冬は欲しいかも……うーん……」
「マント用のブローチ、40スタッグぅ?」
「わ~、オシャレ~」
「これはもう、目の保養の為の飾りよね。残念だけど、あたし達にはちょっとね……まだね……」
まだ買えないと言いながら、かなりしつこく目で追いかけている。
結局、ほぼ見るだけで終始し、買ったのは麻糸だけだった。
だがぼくたちの帰路があることを思えば、それで良いと思う。
重い荷物は死を招きかねない。
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遊んでいられる時間は短い。
まあ、ぼくたちは自由業だから、その気になれば、金が半分くらい消えるまでのんびりしてたっていいんだけれども……。
早めに街を出て、南の湾へ下って、漁で獲った魚と貝と海藻などを焚火で調理して昼飯にした。
その後は手入れに着手。
手入れすべき物は多い。
まずは筏。
それから防具とか履物とか籠とか武器とか腰巻腹掛けとか。
所持品のほぼ総てだ。
明朝早めに潮が引き始めるから、それに乗ってシズへ戻る予定。
今晩は官舎近くの水場脇に一泊することにした。
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ところが、夕暮れ時になって、修繕しつつ駄弁っていたら、ぼくの依頼期限がまだあと30日以上もあると知って、エイコが
「初耳ィ~、ならまだ隣村までなら一件くらい請けられるでしょ?」
「そんなのがあれば、まあね」
トヨキが呆れたように
「なんでもっと早く云わないんだよ! 帰ると思ってたから……ちょっと見て来るわ」
そして駆け戻って来ると
「丁度いいのがあるじゃん! 『ネフワアの村まで護衛を頼みたい。期限はあと12日。報酬はスタッグ銀貨で100枚』 だってよ!」
本当にうってつけだ。
またしても迷うぞこれは。
「うーん……」
トモコまでが
「わるくはない、わね……」
と言い出した。
「ネフワア? いこ~よ!」
「ネフワアまでいけば、カツトまであと一歩だもんね」
「うん!」
「なに、カツトまで行きたいの? カツトまでの配達依頼もあったぞ?」
「うん! カツトってボタンが凄いんだって!」
「ボタン? ボタンってあの服につける?」
「そう、国中で一番らしいわね」
「へえ~、そいつぁ凄いな」
「聞けよオイ、カツトまで行きたいのか?」
「どんな道かも知らないのに、危ないんじゃない?」
とぼくが否定的に言うと、
「護衛なら依頼者が知ってるっぽいもんね~」
「いや、知ってるとは限らないだろ」
「え、いくの? 帰るんじゃないの?」
マサはキョトンとしてる。
一旦重いコンダラを引きずり始めたら、どこまでも引っ張るタイプだ。
盾役としては実に頼もしい性格なのだが。
「とりあえず、説明を聞いてみよ~よ」
と、一面橙色に照らし出された夕景色の中を、エコが官舎へ向かって歩き出した。




