スゲェ小説ができた!
「やっぱり主人公は、おっきな剣を持ってて、竜の子をお供にして、大空を掛ける。たまには時空を超えたりとかして……そういう壮大な要素があってこそ、本格ファンタジーだ! 俺はそこら辺にあるようなちっぽけな世界観の小説なんて書かないぜっ!」
「いや、じゅうぶんありきたりだぞ」
自室のノートパソコンで執筆する俺の横で、そう冷たく言ったのは、親友の順平だ。コイツの言うことはいつも正しい。というのも、順平はいつも俺のあとで発言をするからだ。
俺はと言うと、自分で言うのもなんだが熱血漢なところがある。思ったことをすぐに口にしたり書いたりしちまうんだ。悪い癖だとは思いつつ治らない。
順平は俺の小説の冒頭を読んだ。
「――――男は古の大剣を振りかざし、大地を抉った。そこから時空の歪が現れる。そこからは、大きなもう一つの大地が見えた。其れは、男がこれから駆け巡ることになる未来の地、マテリアだった――――」
「どうだ。これでもありきたりって言うのか?」
順平は俺の横で、「うーん?」と首を傾げていた。嫌な気分ではなかったが、ダメ出しがされることは解ったから身構える。さぁ、いくらでもダメ出ししてこい! 俺が論破してやる!
「先ず。古の大剣って何? どこから持ってきたの? そんなにすごい効果があるのなら、大剣をめぐって争いが起きてるはずだけど、何で男は平然とそれを持っちゃてるの?」
「それは……」
「それから、大きな一つの大陸を見て、未来って分かるのすごくない? 何かシンボルくらいは残せなかったの? その描写は?」
「うぐぅ……」
順平の言うことは、いつも正しい。俺が熱をもって書いた小説の冒頭に、沢山の疑問を投げかけてくる。ゆっくり一つ一つへの回答を許してくれない。
まだ順平は続ける。
「マテリアって……要る? 未来なんでしょ? だったらフィールドは同じじゃん」
「う、うぐぅ……!」
俺は唇を強く噛んで目を血ばらせながら話を訊いていた。頭がギュンギュン回転する。何とかこの物語の冒頭を成立させたい。俺は、ウソを吐く子どもの様に反論を始めた。
「大剣は実は転生した未来人で、未来に帰りたがってたんだ。そこに、男がやって来て利用してやろうと考えるわけ」
「じゃあ主人公は剣じゃん」
「お、おう! そうだ。剣にしよう!」
まだ俺は続ける。
「シンボルは世界樹。ユグドラシルなんてどうだ」
「うん、まぁ無難ではある」
「よし! じゃあ世界樹ユグドラシルに書き直しだ!」
俺は冒頭を書き直した。それを順平が読む。
「――――ある理由でボクは大剣に転生した。未来に帰りたい。お、あそこに都合良さそうな男が居る。憑依してしてしまおう! えい! 男の身体を借りたボクは、大剣を振りかざして、未来の風穴を開ける。そこには故郷が見えた。あぁ懐かしのユグドラシル!……よし、帰るぞぉ!――――」
「ど、どうだ……!」
順平の首はなかなか縦に振られない。というよりも、さっきより。「うーん……」と眉間にしわを寄せている。俺は素直に訊いてみた。
「ざっくり設定を変えてみた。これならイケるか?」
「ごめん。ある理由て何? どうやって転生したの? 何で未来に帰りたいと思ったの? 男ホントウに運悪すぎだろ。男の姿で故郷に帰って何かメリットはあるの?」
順平の言うことはいつも正しい。
俺は、ウソにウソを重ねるように、次々と設定を頭の中で練っていく。正直何が何だかもう分からなかったが、俺の想像力は凄いはずだ。きっとスゲェ小説が出来るはず……! こんだけアイデア出し合ってんだからな!
俺は目を見開いて順平に言う。
「じゃあ。故郷からの追放だ! んで、主人公の未来人は大剣にされちまったってわけさ。でも、未来人にはすごい力があって……それが追放の理由だ! 男は、鋼の心を読むスキルが存在してる。だから転生した未来人と対話しているうちに心が打ち解けて……未来人と男のバディってのも良くねぇか? んで、未来に帰って復讐するんだ! それが主人公の目的!」
「なるほどー、ま。書いてみ」
「よっしゃあ!」
俺が冒頭を書くのを順平は炭酸飲料を飲みながら見ている。ゴクゴク飲む音と、タイピングの音が部屋に響き渡った。
「よっしゃ、出来た!」
俺は出来上がった冒頭を順平に見せる。順平は、「どれどれ……」と、少し興味を示したように冒頭を読み始める。
「――――ボクは生まれながらに得意スキル『時空転移』の力を持っていた。その力を恐れた村長から、ボクは大剣の中に意識を入れこまれて、過去の狭間へと投げ捨てられる。復讐を誓って100幾つか過ぎた時、ボクの心を読める男が現れた。男もどうやら現実って奴から追放されたらしい。意気投合したボクたちは相棒として、未来に乗り込むことに決めた。男が大剣のボクを振る。ボクのスキル『時空転移』の力が発動した。抉られた空間から、故郷の大樹。ユグドラシルが見える。くくく、これで復讐が出来るぞ。待ってろよ!────」
「……どうだ!」
順平は、「これは粗筋じゃないか?」と言いつつ、俺に尋ねた。
「お前はこれに、どんなタイトルを付けるんだ?」
「大剣の姿で過去に飛ばされたボクは復讐を誓う ~スキル『時空転移』でやりたい放題! 今更「許してくれ」はもう遅い!~」
「なんか既視感がある」
「え?」




