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少女A

作者: 森 go太

 私。

 尾上(おのえ)美佐子は今日も、平凡な人生を歩むのでした。

 誰とも関わる事なく、ただ教室の隅っこで、太宰を読み耽りながら、ああ、消えてしまいたいなぁ、などと脳の先端で悪戯にネガを拗らせる、そんな平凡なーー

 少女A。


 「尾上さん」

 私に声をかける、ひとりの男子の姿がありました。

 彼もまた、少年Aーーと呼ぶべき、平凡な中学生。

 確か名をーー


 「近衛くん」

 そうでした。近衛夏彦くんでした。

 私の苗字と彼の苗字が似ていたおかげで、なんとか頭の片隅からその名前を引っ張り出す事ができました。


 「放課後、ちょっと良いかな」

 そう短く私を誘う、彼の目はーー

 少しだけ泳いでいました。



〜〜〜〜〜〜



 結論から申し上げますと、告白、というものでした。

 放課後、彼は私をどこに連れて行く訳でもなくーー教室のある3階から降りていく階段の途中ーーの踊り場で、私の目もじっと見据える事なく、唐突に。


 しばしの間、静寂が空気を支配しました。私は生来よりの陰湿な性分故に、こういった異性からの告白を受ける事は、初めてだったものですから、どうしたら良いか分からずーーそのまま何も喋る事なく、階段を降り切ってしまいました。


 「…ダメ、かな」

 彼はそう、短く呟きました。彼は笑っていましたが…それがただ強がりで貼り付けただけのものだという事は、普段他人と関わる事のない私にも分かりました。


 彼の事は、何にも知りません。

 苗字が似ている事くらい。

 彼もまた私と同じ、平凡な中学生。

 しかし私と大きく違うのはーー


 誰かに承認されたい、と思っている事でしょうか。


 自分が平凡である事に、納得していない。

 誰かから、特別であると言ってもらいたいーー


 ーー何とも、可愛らしいですね。


 「良いですよ」

 私はオーケーしました。

 彼の告白を。


 彼は金魚のように、ぎんと目を見開きました。

 そしてまた少しの、静寂の後ーー


 「…本当?」

 彼は確認をしました。

 やはり、自分に自信がないのですね。


 「本当です」

 私がそう言ってあげるとーー

 彼は、今度は心の底から出たような笑顔を、顔いっぱいに浮かべました。


 「ありがとう…」

 彼は、私にお礼を言いました。

 しかし私という人間には、彼にお礼を言われる権利など全く無いのでした。


 何故なら、私は彼の事を全く好きでもないし、興味もありません。

 私が彼の告白を受けたのは、同族嫌悪からの、憐れみによるものだったからです。


 平凡で、どうしようもない彼にーーせめてもの成功体験を。


 …はぁ。


 私はなんて、傲慢なのでしょうか。


 「これから、よろしくお願いします」

 律儀にそう言って頭を下げる、彼の平凡な後頭部をーー


 私は張り付いた笑顔で見つめていました。




 おわり

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