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道具屋店主の骨董日記  作者: ヨシノ
1/1

宝箱の思い出

【道具の形】5:入れるもの

【魔法の効果】7:保安

【魔法の程度】Q:人はそれを呪いや奇跡と呼んだ



いつもの業務を終え、荷ほどいたばかりのそれと対面する。

ずいぶんと長い旅をしてきたようだ。

かつて与えられた魔法は枯れ、

いつの間にかその半生を終えようとしている。


瞳をとじて、耳飾りの揺れに集中する。

かすかな声を集めて、頭の中で反響させる。



あなたは感じた。宝石箱は、別の使い道を探されていたことを。

持ち主の少女は、その宝石箱を蔵から見つけた。

幼い少女には、その使い道がよくわからなかったが、大切なものを入れる箱として使われていた。

中には、友達からもらった小さな貝殻や、ビーズのおもちゃ、お気に入りの人形などが入っていたそうだ。

少女にとっては、宝石よりもずっと価値のあるものが入れられていた。

宝石箱もその本来と違う使われ方に喜んだのだろう。


また、あなたは語り掛ける。

「君は、その少女のことを大切に思っていたんだね。」

その通りだ、というように耳飾りは揺れる。

しかし、幼い子供にとっていつまでも変わらない思い出は美しいものだったが、

その子の母親にとってはそうではなかったようだ。


その子は、きっと忘れなかったのだろう。

人からもらった感謝、愛情、そして悲しみや、寂しさも。

しかし周りの人間は違ったようだ。

母親は、ふとその宝石箱を開いてしまった。

溢れ出す自分の子供の思い出、それは自分の思い出でもあった。

パートナーを失った悲しみ、子供に与えてしまった孤独、そういったモノを彼女は思い出してしまった。

それは、少女の持ってた小さな幸せなど感じないほどに悲しい思い出だった。


そして、宝石箱は語りだす。最初の持ち主の話を、自身がどのようにして生まれたのかを。

それは、望まれたものではなかった。

最初の持ち主は、一人孤独を抱える男性だった。

男性は、長い寿命を持ち、様々な人を見送ってきた。

悲しみに暮れた男性は、長く生きる中でいろいろな人からもらったものを捨てることはできなかった。

恋人からもらった指輪、友人からもらった杖、両親からもらったナイフ、しかしそれをくれた本人はもういなく、

それらの思い出は、男性をさらに孤独にした。

ふと男性は思ったそうだ。

「捨てることはできないが、このままこの思い出を箱に閉じ込めて忘れてしまいたい。」と。

そして、この宝石箱には、思い出を閉じ込める魔法がかかり、男性はその箱を二度と空けることはなかったという。


しかし、宝石箱はなお語り続ける。望まれて作られていなくとも、自分の生まれた意味を。

それからしばらくたち、宝石箱はまた開かれることとなる。

男性の思い出の詰まった宝石箱は、その子孫に受け継がれていたのだ。

ある長い雨の日、外で遊ぶことができなかった女の子は、家の中を探検していたそうだ。

もらったばかりの魔法の杖を手に握り、正義の味方よろしく家の中を探検しまわった。

入ってはいけないと言われていた部屋には、たくさんの本と、テーブルの上に布のかかった箱が置いてあったそうだ。

きっとお宝だと思い、少女はその箱を開けたのだろう。

中には、指輪と杖とナイフがぽつんと入っていた。

それを手に取った少女は、男性の思い出を読み取り、絵本の中に入ったかのような気持ちになって喜んだ。

もちろん、宝石箱も喜んだ。


あなたは、問いかけるだろう。

「次に引き取られるならどんな人がいい?」

耳飾りはチリンと揺れた。

あなたは、その宝石箱を店に並べるだろう、きっと次も素敵な出会いが待ってるはずだと思いながら。











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